第43話 神様にお願い
「あ、悪魔の方法を思いついた。俺の癒えない傷と、ミ、ミクちゃんの永遠につ、続く治療を取引に持ち掛ける。ミクちゃんの願いが叶って、し、幸せに、俺が、ミクちゃんを永遠に縛り付けながら……! う、うあああああああああああああああああああああ!!!」
「落ち着いてくださいレニくん! レニくん!!!」
いけない! このままではレニくんは自分の力で自身の体を傷つけてしまう!!
気が付いたら私はレニくんの顔を掴んで自らディープキスを仕掛けていました。
「ん、はぁ、れろ、ん、レニくん、もっと、舌、出して、くだはい」
「ふぅ、ミクちゃんっ、ミクちゃんっ、んんっ」
ずっとずーっと、レニくんの涙が止まるまで、舌が痺れるほどに、レニくんの舌を舐め回してやりましたよ。
唇を離しても、レニくんから私は離れるつもりはありません。
ねぇ、レニくん、あなたは自分の心の美しさに気が付いていないのですね。
私を傷付けようとする度に、あなたが傷付くのは罪悪感だったのだと、今ようやく気が付きました。
寂しさを埋めようとする度に、他人を傷付けられなくて、自分を傷付けてきたのだと。
「ん、はぁ、レニくん、もう、ご自分を傷付けなくて、ふぅ、良いのですよ。正直に申し上げますと、私はレニくんから求められることが、ちっとも嫌ではないのです」
この気持ちをちゃんと伝えるべきでしたね。優しくて寂しがり屋のレニくんは、私にどう思われているのか、ちゃんと気にする子なのだと認識しておくべきでした。
「はぁ、はぁ、本当に? 無理やりミクちゃんを手に入れようとしたのに許してくれるの?」
私は初めて神に祈りを捧げます。願いを口にします。
「神様、この子を私にください! 他には何も望みません!」
「ミクちゃん……?」
だってもうしょうがないじゃないですか。寂しさから私を欲しがって、罪悪感から私を幸せにしようとして、それでも寂しくて自分の傷と私を繋げようとして、だけど、自分の傷すらも汚れて見えるレニくんは罪悪感で心も体も悲鳴を上げて泣いている。
それならば、レニくんが私を手に入れるのではなく、私がレニくんを手に入れて見せます。
「さぁレニくん、私はもうレベル的に司祭です。ここは白い教会じゃありませんが、どうせ私たちの間ではいつだってロケーションはイマイチです。だからここで、司祭の前で誓ってください。永遠に、レニくんの傷と私の治療は繋がり、そしてレニくんの魂も肉体も永遠に私に捧げると誓いなさい!」
私が頂かれるとひやひやする日々はもう終わりです。
これからは私の都合でレニくんを美味しく頂く日々です。
「本当……? 俺の、中身も、肉体も全部? キスもエッチも、全部?」
「全部ですよ全部。ついでに言えば過去も未来もすべてですよ」
ぐすぐすと、子供のように涙を流すレニくんは、私の手を両手でそっと掴んで、ちゃんと紳士的に言葉に出して誓いました。
「俺の傷も魂も肉体もキスもエッチも全部、永遠にミクちゃんに捧げます。神に誓います」
「よろしい。勇者レニよ、司祭ミクがしかと聞き届けた。神の名のもとに誓いが破られることは永遠に訪れない。ミクとレニの魂は永遠に繋がり結ばれたのだ」
司祭様っぽく言ってみました。そして、テッテレー的な感じで私たちは淡い光りに包まれたのです。
「おや、またレベルアップしたみたいですね。ボス戦前にありがたいことです。ステータスオープン」
ステータスウインドウがにゅるっと出てきます。
レニくんは涙を乱暴に手で拭うと横から覗き込んできました。
「今回は絶対ミクちゃんのレベルアップだな。俺、情けないところしか見せてないし」
「いいえ、レニくんのおかげで私は強くなれるのです。今だって絶対この子助けなきゃ私死ねないと思いましたもん」
「なんかやだぁ! 俺かっこいいって言われながら舌入れてほしい!」
「受けなんですか、攻めなんですか……」
「男女で受けとか攻めとかあんの? ミクちゃんの悪女の演技はたっぷりやらせて楽しむけど、入れたらガンガン攻めて泣かすに決まってんじゃん」
演技だってバレバレですよねぇ。そうですよねぇ。そういうところ敏いくせに単純にわかりそうなところで鈍いのわざとですか?
「あ、やっぱミクちゃん基礎レべ上がってる! 今6だって! 聖女補正は+9。惜しい!」
「いえいえ、私如きが一気に補正レベル+6はかなり頑張った方です。それに基礎レベルが上がったのでまた新しい魔法を習得できましたよ。えっと【羊の子守歌】ですね」
詳しい魔法の説明を読んで私の目が輝きます。
「す、凄い! さすが勇者様のためのレベルアップです! この魔法さえあれば一晩中、幸せな夢が見られて朝には気分爽快、お目覚めスッキリ! 途中で目覚めることなく、爆睡効果で疲労回復も20%向上です!」
「え、ミクちゃんベッドにいるのに、俺、朝まで爆睡なの? エッチは?」
「大丈夫です。朝には気分爽快で夜のモヤモヤは忘れております!」
なんという私向きの魔法でしょう。これで貞操が守られる。神に願ってよかった。
もうね、今となっては無償の愛も、真実の愛も、レニくんに必要とあれば両方惜しみなく与えたいと思いますし、私も変に卑屈にならずにブレーキをかけることなく、レニくんを恋愛対象の男性として見ていこうと思っています。
ですが、肝心のレニくんの方が、たぶん愛とはなにか、わかっていない状況だと思います。 残念ながら人間は、おぎゃあと生まれて愛の素養を持ち合わせている生き物ではありません。 親の愛情を必要としているのです。親から愛を与えられて子は初めて愛を知るのです。
ところが、レニくんのように親から愛を与えられていないと愛を愛と知ることなく、善意と愛の区別もつかなくなります。
だから時々、私の言葉にも苛立ちを覚えたのでしょう。つい、夢を押し付けてしまいましたが、レニくんにとって恋人同士の関係も結婚する関係も想像することすら難しかったのかもしれないです。これは反省しないといけないですね。
「やだぁ! この魔法やだぁ! 大体ミクちゃんさぁ! 俺の気持ち全然わかってないよ!」
早速、気持ちのすれ違いですか。それはいけませんね。レニくんの言い分を聞きましょう。
「私は恋人の意見を聞かないような女ではありませんよ。ご不満なところは、ハッキリと仰ってください」
「え、こ、恋人? 俺とミクちゃんは今恋人なの? 俺、お金払ってないよ?」
レニくん、恋人の定義が会員制デートクラブの約款じゃないですか。
一体、誰がこういうデタラメな恋愛観を教え込んだんでしょうね。しばきたいです。
「私の中でエッチしたいと思える男性と、エッチしたいと思える女性が一致しており、お互いに永遠に共に居たいと思えるほど好き合っている間柄を恋人と呼ぶんです」
へぇ、とか、ほぉ、と、しきりに感心しながらレニくんは頷いておりました。
「じゃあ、ミクちゃんとは期間限定じゃないんだよね? いつか別れなきゃいけないとかないよね?」
「どうして恋人の関係がシーズン限定になるのですか。別れる原因があるとしたら、今まさに問題になっている感情のすれ違いですよ」
別れる原因といったら、レニくんは急にしょんぼりと落ち込んでしまいました。
「レニくん? すれ違ったままの方が別れる確率は高いですよ。私はレニくんと魔王を討伐するまでお付き合い出来たら、今度こそ白い教会でレニくんと結婚したいと考えております」
「ホント!? ミクちゃんが俺の嫁になるの!?」
「なりたいのです。レニくんが嫌じゃなければですけど」
「嫌なわけない!! 大歓迎だよ!!」
「じゃあ話してください。すれ違いは悲しいです」
もごもごと口を動かすレニくんはとても慎重に言葉を選んでいるようでした。
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