第39話 止めればよかった
3時間くらいしか眠れてなかったと思う。次の村は近くにあったから。
俺たちが村の片づけに行っている間にミクちゃんたちには、食事をしておいてもらうんだけど、ミクちゃん、全然食べれてなかったみたい。
アクセルが心配しだした。缶詰は食べやすいトマトのスープだったんだけど、ミクちゃん、半分も食べられてなかったから。
「シスター様、一度、休憩しましょう。祈祷は気力体力共に限界まですり減ります。普通は連日行うようなものではありません。シスター様が倒れてしまいます」
だけどね、やっぱり、ミクちゃんは首を横に振るよね。
「地図上で確認できる村はここも含めて残り3つ。期限も残り3日です。最悪私が倒れても、バギア討伐に私などほとんどお役に立ちません。ですが、捕らわれた子供たちを無事に救出した後、呪われたご家族の姿のところへお返しするわけにはいきません。行かせてください」
バカだよねって思ったよ。子供たちは一度ランセプオールで預からせておいて、十分な時間をかけて呪いを解呪してから、ゆっくりと事情を説明して墓参りにいかせればいいじゃんって。
「バカじゃん? 誰があんな寂れた村に帰りたいとか言い出すのよ。親だって墓の下でしょ。子供が戻りたがるわけないじゃん」
「てめぇ!!」
「レニくん!! 暴力はいけません!!」
っち、くそ、この女の腕の一本くらい折ってもいいじゃんかよ。
「神のお言葉です。子供の魂は親の魂と繋がっております。親の魂が呪われたままですと子供の魂も不安になり迷子になってしまいます。ですが、親の魂が安らかに眠られていらっしゃれば、子供の魂も迷わずに親の魂の元へ帰れるのです」
俺に怯えるフィアは聞いちゃいなくてアクセルの背中に隠れていたけど、アクセルの方は、その言葉でミクちゃんの説得を諦めたみたいだった。
「勇者よ、シスター様をよろしく頼む!」
「お前によろしくされんでもミクちゃんは俺が守るんだよ」
俺は何一つ勉強なんてしたことなかったから、アクセルがいうまで祈りを捧げるって行為がそんなに気力とか体力を使う大変なものだなんて知らなかった。
正直、俺は昔から体力バカ筋力バカっていうやつで今まで疲れ知らずで生きてきたし、聞いたところで、ちゃんと理解してなかったんだ。
俺たちはミクちゃんがだいぶ無理をしているってわかっていたのに、ミクちゃんの頑張りに押されて、やり遂げさせてしまった。
結論から言えば地図上にあった近隣の村、5か所は全滅。どれも数日前にはやられた後で俺たちがランセプオールの街に着いた頃には手遅れだった。
ミクちゃんは5日間連続で鎮魂の祈りを捧げ、呪いを解呪させていった。
おかげで辺り一帯の不穏な空気は無くなり、森に動物たちは戻って来たし、汚染された河川も清浄な水に戻った。
正直、神様の精神論なんかより、この5日間でミクちゃんがこの一帯の浄化を済ませなければランセプオールだって水も引けないし、家畜はどんどん死んでいくし、深刻な食糧難に陥ったことだろう。
だから、ミクちゃんの功績は大きい。だけど、その代償は俺にとって胸を抉られるほど大きすぎた。
「ミクちゃん!!?」
ふらって、急にミクちゃんの腕から力が抜けていって、気が付けばミクちゃんは高熱を出して気を失ってしまった。
「これはマズい。すぐに医者に診せないと」
「医者って! ここはランセプオールから一番遠い村だぞ!!」
本気でパニくった。ミクちゃん死んだらどうしようって、考えただけで血の気が引いていく。
でも、わたわたしてたら、アクセルに胸ぐらをつかまれて、いきなり殴られた。
「ってぇ! 何すんだ!!」
「少しは落ち着け。お前は鼻が利くんだろう? 薬草とか見つけられないか?」
おお、なるほど! 医者じゃなくても薬な! ここは森が広がっているし、それならありそうだ!
「よし、馬車出すぞ! 爆走だ! ミクちゃん抱えてろ!」
「森の中をか!? 馬車の幅が通れるとは限らんぞ!?」
「なんのための勇者補正だよ!! 木は邪魔だから爆破粉砕すんに決まってんだろ!! お前が御者だ! 俺について来い!!」
つーわけで俺は爆走しながら手当たり次第に木々を蹴りまくり、爆破と粉砕で馬車が通れる道を造りながら進んでいった。
鼻もひくひくと動かして、薬草の気配を感じる場所へ真っ直ぐに突き進んでいく。
やがてそれは現れた。最初、竹藪かと思って爆破したら違った。竹藪に隠された、隠れ里だった。
「こりゃまた派手にやって来る侵入者だべなぁ!」
かごにたくさんの草団子を抱える変な服を着た若い女は目を丸くしてそういった。
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