第34話 勇者様は名ばかりの勇者様ではありません!
「その方はかつて勇者候補と呼ばれていた方です。真の勇者様はこちらのお方。当然、強さも本物、聖剣も本物ですよ」
「ふぅん、真の勇者ねぇ。しかし威勢のいいシスターだな。だがよぉ、偽物の方が良かったんじゃねぇのか? 本物じゃあよぉ、見ず知らずのガキすら見捨てられねぇ、どうしようもねぇ弱点があるじゃねぇか!!」
それは一瞬のことでした。まるでつむじ風が起こったかのようにフィアさんだけを舞い上げた風は磁石のようにフィアさんの体を一瞬で親玉の体に張り付けたのです。
「きゃああああああああああっ!!!」
「ガハハハハハ!! そら、てめぇらのお仲間は捕まえたぜ? どうするよ勇者様? ここで仲間が切り刻まれる姿を見てから俺様に斬りかかって来るか?」
「いやああああ!! いや! 嫌です!! お助けください!! 勇者様!!」
レニくんは顔を支えていた私の手をギュッと掴むと自身を抱きしめさせるように私の両手を腰に回して、真っ直ぐに親玉を見つめておりました。
「俺はこの通り動かない。だけど、ガキたちは渡せない。お前たちは強い武器や防具を集めているんだろ? なら俺の聖剣を持って行けよ。フィアと交換しろ」
はわわわわ! どうしましょう。あまりに男前な対応にさすがの私もレニくんにキュンとしちゃいました。
「ふぅむ、確かに悪くねぇ話だな。んで、聖剣はどこにあるんだ?」
んべぇーとレニくんは舌を伸ばします。もちろん、舌ピアス状態の聖剣を見せているのです。
ですが、親玉と思われる魔族のこめかみには青筋が浮かびました。
「てんめぇ!! 馬鹿にしてんのか!! この女ぶっ殺すぞ!!」
「待て。なぜ怒る? 俺の聖剣は舌ピだ。剣の状態なんて俺だって見たことない」
「ホントです!! 嘘ではありませんよ!!」
こんなにもレニくんは誠実に対応しているというのに、どんどん魔族の方のこめかみの血管がブチ切れていきそうで、捕まっているフィアさんは顔面蒼白でした。
「良い仲間に恵まれたみてぇだなぁ」
鋭く長い爪がフィアさんの喉元に突きつけられました。
「ひどい!! 勇者様!! そんな嘘でわたしを見捨てて見ず知らずの子供は助けるのですか!! ひどいわ!! あんまりよ!! 嘘はやめてわたしを助けてよ!!! 助けて!!」
嘘じゃないです。嘘じゃありません。勇者様はフィアさんを助けようとしてくださっていたんです。子供たちも救おうとしていたんです。
ギュッと私を抱きしめる力が強くなり、レニくんの腕が少しだけ震えているようでした。
「わかった。要求は吞む。だけど、ガキたちも傷付けるな。預けるだけだ。一人でも殺したら、お前ら魔族という種族は根絶やしにするまで俺が殺し続けてやる」
「っけ、出来るもんならやってみろ。顔だけの優男が。おら、とっととガキども連れて来い!!」
どなたも傷付けたくありません。子供たちを少しでも親元から引き離すのも嫌です。
ですが、あれも嫌、これも嫌とすべての要求を撥ねつけてしまえば、フィアさんは殺され、この街は戦場となってしまいます。
アルフレッド様としても、苦渋の決断でございました。
「……ここで住民を殺されるわけにはいかない。子供たちを連れてきて」
「っは!」
命令を下された衛兵団の方々は街へ散らばって子供たちを集めに行きます。
「んじゃおれたちも迎えに行きますか!」
魔族の取り巻きのお一人が大きな斧を肩に抱えて恐ろしいことを宣います。
レニくんはすかさず制止いたしました。
「待て。お前らは動くな。警戒しなくても約束は守る。一人だけ仲間外れなんてかわいそうなこと、俺たち人類はしないんだ。お前たちみたいな汚い魔族じゃないからな」
それを聞いた親玉はフィアさんを片手で摘まみ上げたまま腹を抱えて笑っておりました。
「ギャハハハハハ! そりゃお優しいことだな!! おめえらの中身までホントにお美しいのか切り刻んで確かめてみたくなるぜ! なぁ、身なりの汚ねぇお嬢ちゃん?」
「ひぃっ!」
「フィアさんをいじめるのはおやめください!!」
こんなことなら早く街でフィアさんの新しい服を新調して差し上げるべきでした。
やがて、不安な顔で幼い子同士、手を繋ぎながら中央広場までぞろぞろとやってまいりました。
中には当然ですが、泣き出す子もいます。
「んじゃ、人質交換と行こうか」
「いいか? 絶対にガキどもを傷付けたりするなよ」
親玉と思われる方はレニくんの言葉を面倒に思ったのか耳をほじくって、うるせーなぁ、と吐き捨てました。
「殺しちまったら
パチンッと指を鳴らしたと思ったら、魔族のメイドさんたちが赤い煙の中からぞろぞろと出てきて子供たちの手を引くと、また煙の中へ消えていきます。
フィアさんはぽーいっと投げられてしまいまして、アクセル様が見事にキャッチされていました。
「俺様は次期魔王幹部のバギア将軍よ。逃げも隠れもしねぇ。俺様が欲しいのも勇者の聖剣ただ一つ。五日後以降だったらいつでも大歓迎だぜ!」
そういって親玉バギアは街の子供たちと配下の魔族たちを引き連れて赤い煙の中へ消えていったのでした。
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