三章

第31話 昨夜はなにが!?

 あばばばばば! 美の女神と見紛うほどの眩き美貌を放つ美少年が一糸まとわぬ姿で私の隣で寝息を立てております……!


 もちろん、レニくんですけど、ホントに布団もシーツも被っていなくてお尻も丸出しですよ。

 救いだったのは枕を抱きかかえてうつ伏せに寝ていたことでしょうか。(ぞうさんを見なくて済んだ)


 それにしても、下半身を見たのは当然、初めてなんですけど、お尻から太ももに足首から、ひょいと持ち上げてみれば足の甲にまで本当に全身の細部にまでタトゥーが入れられてますね。


 昨夜のお話ではレニくんの父ちゃんさんがタトゥー、正確には呪術図式を施したとのことですが、呪術図式とは絵柄に込められた呪いのことなんですよね。


 普通の呪術師さんとの違いは、一過性のものではない、下手をすれば永続的な呪いであり、入れ墨のように皮膚そのものを焼き切らなけれな消えないような入れ方をすると、半永久的に、死ぬまで続いてしまう大変強力な呪いということです。


 ただ、レニくんの話しぶりからすると、とても良い思い出と繋がっているようなので、父ちゃんさんには呪いを施さなければならなかった事情があったものだと推測できます。


 私は呪いの波動を感じ取れなかったので、ずっと呪術図式を模したタトゥーだと思い込んでおりましたが、レニくんの父ちゃんさんがあの有名で御高名な呪術図師ご本人様であられるなら、私如きに呪いを看破できないのも頷けます。


 とはいえ、私としては呪いの効果、効力についてしっかりとご説明してもらいたいものです。


 もう、ご不要とのことであれば、私も旅先で治療院に立ち寄り、入れ墨の消し方をマスターして、レニくんの許可をどうにか取り付けて抹消したい。


 だってもう、タトゥーの隙間から見える絹のように真っ白な肌を見たら、白亜の城にペンキでいたずら書きをしたかのような暴挙に思えて、元の荘厳で美しい、むしろ神々しいお姿を取り戻したいと願うのは人間の自然な感情ではないでしょうか。


 ほう、と思わずうっとりと見惚れてしまって吐息がこぼれてしまいました。


 しかし、その直後、「くちゅんっ!」寒気に襲われてくしゃみをしました。


 なんだろう。春先だというのに妙に寒い。思わず両手で体を抱きしめて腕をさすりさすり……あれ、私、服、着てないな。


 あれぇ? 私、ネグリジェ着てないなぁ?


 冷や汗が流れてきました。まさかと思い、おそるおそる自分の姿を確認……!?

 あわわわわわ!? どどどどどどうしましょう!? 私の方こそ一糸まとわぬ姿で寝ていたようです!!


 え、え? え!? いや、まず、まずは確認。落ち着くのです。これは、そう、未遂か、事後か。


(…………処女なのに何を確認すればいいのですか?(泣))


 無理じゃないですか。私に事前か事後の違いを説明する能力がありませんよ(泣)


 そりゃもちろん、肉体的構造については知っておりますよ。ですが、何を用いてそこを確認しろと仰るのですか? 見たことないのですよ! 事前の状態も知らないんですよ!


 いや、でも、確認もせずにレニくんを責めることなど出来ません。


 しかし、もしも勝手に服を脱がした挙句(この時点で責めるべき)一応は大切な仲間だと思ってほしかった私を、す、睡姦などというマニアックな手法で処女を奪ったことがわかった暁には、私も心を鬼にして、ピアスの穴はすべて塞ぐくらいの罰は与えようと思います。


 意を決しました。私は極力見ないように、レニくんの肩辺りを見ながら、ぐるりと仰向けに倒していきます。


「うぅ~ん、むにゃ……」


 ベッドの上で転がされたレニくんは、幸せそうな笑みを浮かべながら、ネックレスが痒かったんですかね。首元をかいておりました。


 私はというと、レニくんの体にピッタリと寄り添い、主に胸を隠すためにレニくんの胸部に押し付けまして手探りで、アレを探しておりました。


 ちなみにレニくんの下半身部分は見ないように頭を動かしてベッド付近は探しているのですけど、何故かネグリジェも下着も見つかりません!


 さらには掛け布団も予備のシーツもどこにもないんです……。


 私が寝ている間に洗濯に出してしまったのかと思うほど、レニくんの服も下着も一つも無くてですね、不思議なことといえばベッドも一つしかないんです。


 おかしいですよね。ここは元々、フィアさんと同室で取ったお部屋なんですから、ベッドは廊下側にも、もう一つあったはずなのです。


 なのに今は部屋の中央にベッドが一つだけポツンと置かれた状態。


 窓も遠い。故にカーテンも遠い。レニくんが起きる前に私に着衣の余地など望めそうにありませんよ。


 なので、少ない性知識の中から召喚した状態という今、まさに、たぶん、おそらく今がそうなんじゃないかと思われるこの瞬間を逃さず、一気に手を伸ばして、むぎゅっと掴みました。


 一瞬で思考がフリーズしました。いえ、語弊がありますね。一瞬で膨大な計算をしました。

 か、硬い。想像以上に硬いですよ! そしてデカい! というか太すぎます! 長すぎます!


「無理。無理無理無理無理ムリですね。不可能です。人体にこれが入るなどあり得ません」


 疑ってすみませんでした。レニくんは未遂です。そう頭の中で謝っていたら、またしても不意打ちで耳元で囁く美の悪魔が私の腰を掴むんです。


「そうかな、試してみないとわからないんじゃない? 案外、形もピッタリ、入るかもよ?」


「ひゃあああああああああああああああああああああ!!!!? お、起きていらしたんですか!!?」


 い、今まで寝息を立てて確かに寝ていたじゃないですか!


 しかし、レニくんは至近距離で舌を覗かせながら笑うと、殊更私の腰を引き寄せます。


「そりゃあ、ミクちゃんが俺の朝立ちをくわえ込もうとしていたら、秒で起きるでしょ」


「ちちち違います! 大きさの確認をしただけです! そ、その、事後だったら叱ってやろうと思ったんですよ!!」


 くすくすと笑うレニくんから逃れたいのですが、朝からめっちゃ怪力で私は身動きが取れません。


「まだ俺の握ってるし~♪」


「放したいのです! 手を押さえつけられ動けないのです! (泣)」


「だって事後か確認したいんでしょ? それなら入れてみないと。すんなり入っちゃったら、俺はミクちゃんを寝てる間にきっと抱いちゃったんだ」


「ごめんなさい! ごめんなさい! もう二度と疑いませんからお許しください!!」


「ん~、どうしようかな~、ミクちゃんの手、小さくてすべすべでやわらくて気持ちいいなぁ~あ、やべ!」


 さっとレニくんは私の手をどかしてようやく離れてくださいました。

 なぜか、背中を向けて丸まっております。


「ど、どうしましたかレニくん? お腹が痛くなりましたか?」


「ううん、違うの。ちょっと待ってね、調子に乗りすぎちゃったの……」


 なんだか、灰のようにダークに落ち込んでいくレニくんなのですか、そっとしておいてほしいみたいなので、しばらく背中合わせで横たわっておりました。


「はぁ、よし、復活! ねぇねぇミクちゃん聞いて!」


 急に復活しましたね。とはいえ、私たちは依然として裸ですので振り返れません。


「レニくん、その前にお着替えがしたいですよ」


「全部、廊下に出しちゃったよ。拾われていないかな」


 下着も!!? あわあわしていると、レニくんは全裸でも気にしないようで、ベッドから降りると、普通に部屋のドアを開けて廊下からごそごそと衣服を拾ってきているようでした。


「よかった。ベッドの下に放り込んでいたから服は無事だったよ」


 私の上にようやく衣服が降ってきました。


「レニくん、こっちを見ないでくださいね」


「今さらじゃん? ミクちゃんの体なら全部見たよ」


「そうでしょうけど、そうだとしてもです!」


「は~い」


 起き上がると、ちゃんとレニくんは壁の方を向いて着替えておりました。


 私は下着を手早く着衣すると、鞄の中から修道服を取り出して、いつもの服に着替えました。


「もういいですよ」


 ぴょんとカエルのようにベッドに飛び乗って来たレニくんはご機嫌でした。


「ね、聞いて! 俺レベルアップしたの!!」


「ええ!? それって魔宝珠ジュエルのレベルアップですか!?」


「うん♪」


 この子は本当にどこまで天才なのでしょう。


 魔宝珠ジュエルというのは基本的に人間の精神的な成長と合わせてレベルアップするものですから、そうそうレベルアップするものではありません。


 ちなみにステータス画面に基礎レベルと表示される方のレベルです。


 つまり、成長期は子供の頃に1、2回くらい。大人になってから2回も成長すれば良い方です。


 人類の最高レベルは千年前の聖女様が到達したレベル10だと言われております。

 ちなみに私の現在のレベルは3です。とても平均ですね。


 まぁレニくんはまだ17歳ですからギリ子供の成長期の範囲内と言えるかもしれません。


「どうやってレベルアップしたのですか?」


「それはもう、まさに奇跡だったんだ!」


 レニくんはキラキラと朝露を浴びた新緑のような輝いた笑顔で語り始めました。


「夜中にさ、ミクちゃんを見ながら凄く悩んでいたんだよね。正直、お掃除が終わった後の自分だって見てみたいよ。だけどさ、ミクちゃんが言うような自分に本当になれるのか自信が持てなかったんだ」


「レニくん……」


 私は反省しました。てっきり性欲と食欲の間で悩んでいるのかとばかり思っていたら、とても真面目にご自身の成長について悩んでいらしたのですね。


「もしも、ミクちゃんが想像してくれたような俺になれなかったら、ミクちゃんに失望されちゃう。そう思ったとき、ふと視線を下げたら、ミクちゃんがすや~って深い寝息を立てて寝てたの」


 私って肝心な時にタイミング最悪ですね……。どうしてレニくんを元気づけてあげなかったのですか! 私のおバカ!


「これはもう、一回、ミクちゃんの裸を拝んで、全部触って悔いを残さないように、そういうチャンスが来たんだなって思ったね」


 レニくん、結局性欲に負けてるじゃないですか!


「んで、全部丁寧に脱がしたとき、奇跡が起きたんだよ!」


「ええっと、私が裸になっただけですよね??」


 ついでに何故かレニくんも全裸になったんですよね。


「それだけじゃないの! 偶然にも裸になった瞬間に朝日がこの部屋に差し込んだの!」


 ほお。ほお? あれ、おかしいですね。


「レニくん、確か私が寝る直前までは部屋に明かりを灯してましたよね?」


 よく朝日の淡い光に気が付きますよね、という意味で聞きました。


「服脱がす前に消したよ。だって裸を見たら、やっぱり最後までヤリたくなるかもしれないじゃん」


 奇跡~~!! 私の方に奇跡!! 朝日差し込まなかったら事後でした!!





☆☆☆

三章スタートです!

本日より夕方18時にも、もう一度更新があります!

一日二回の更新で楽しんでいただけると嬉しいです!(^^)!

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