第18話 足癖の悪さがバレる
カフェにやってまいりました。とてもオシャレなカフェでして、店内には観葉植物が各所に置かれ、壁からは滝に見立てた水が流れ落ちていき、店内を循環しながら爽やかな水のしぶきでお店の中を涼しくしているみたいです。
ただ、お昼どきということもあって店内は大変混みあっております。
しかし、客層の八割が女性という環境の中に少女たちよりも可憐で美しいレニくんと、見るからに身分の高い銀髪イケメンのアクセル様が店内に足を踏み入れた途端、真夏のロックフェスティバルもかくやという大熱狂が起こりました。
正直、恐ろしかったです。私とフィアさんは間違いなくレニくんとアクセル様のお連れ様であったはずなのですが、店内に入る頃にはレニくんとアクセル様の周りに女性たちが群がっており、まるで団体客のように思われてしまったのです。
何名様ですか? と聞かれまして、レニくんが二名です、と答えるものですから、その瞬間に沸き起こった殺意と嫉妬による椅子取りゲームは、アクセル様が毅然とした態度で止めなければデスゲームとなっていたことでしょう。
レニくんは全く反省の色もなく、「二名席でミクちゃんと二人きりが良かった。絶対それが良かった」とぶつぶつ文句を垂れておりました。
しかし、レニくんの隣にはフィアさんも親指の爪を噛むほど座りたがっておられるんですよ。
私は不貞腐れているレニくんと、レニくんに熱い視線を送るフィアさんと、群がる女性たちを丁重にお断りしているアクセル様からこっそりと離れると、テーブルを片付けていた店員さんに丸いテーブルに案内してもらえるように頼みました。
そしてようやく着席です。レニくん御待望のレモンのソーダ水が運ばれてきましたよ。
私は一口飲むとレモンの爽やかな酸味と炭酸の弾けるのど越しで一気に涼しくなりました。
「レニくん、このソーダ水とっても美味しいですね。私も旅の道中でこのレモンのソーダ水が飲めたらとっても元気になれると思います」
微笑めば、レニくんもストローから口を離すと花が咲くように可憐な微笑みで返してくださります。
「へへ、そうでしょ。ミクちゃんは素直で可愛いね。んで、アクセルはどうして俺のミクちゃんの隣に座っているの?」
おかしいですね。私の隣にはレニくんが座っているはずですよ。気付いてレニくん。
「何を言ってるんだ。オレは勇者の正面に座っているだろ。勇者の隣にはシスター様とフィアさんが座っていらっしゃる。両手に花で羨ましいな」
さすがですアクセル様。円卓を選んだ私の意図を的確に汲んだ回答を述べてくださいました。
レニくんはむすっとした表情ですが、言い返したりしません。
そこへ可愛らしい声でフィアさんがレニくんへ愛らしいアピールを送ります。
「あの、勇者様。これ、勇者様がおすすめしてくれたこのお飲み物、とっても美味しいです♡」
ニコニコと、フィアさんはとても可愛らしい笑顔だったのですが、レニくんは真正面を見て、ちょっと勝気な笑みを浮かべておりました。
「アクセルは飲んだ?」
ストローは使わずにグラスから直で飲むアクセル様はやはり男らしさという点ではレニくんより一歩上を行きますね。
「ああ、爽やかな飲み口で美味しいな」
それを聞いて大満足、というように、レニくんはうんうんと頷き、犬を追い払うように、しっしと手を振ります。
「じゃあ、もう恩は返したよね。お疲れさん。アクセルは東の王国に帰ってね」
私は慌てて席を立ち、レニくんに事情という名の建前を振りかざしました。
「いえいえ! 何を仰っているんですかレニくん! こちらのドリンクはすべてアクセル様が私たちに奢ってくださったのですよ! 感謝しないといけませんね!」
当然、お会計はまだなのですから、後からどうにでもなる恩義ですが、お財布を預かる私としてはこうなった以上、申し訳ありませんが、銅貨一枚払うつもりはありません。
そして事情を汲んでくださったアクセル様は当然払っておきましたよ、という余裕の表情で残りのソーダ水を美味しそうに飲み干す男っぷりです。
面白くないレニくんの目は座りました。口も尖っています。
「なぁああんでさぁ~、俺らも国王から金はぶんどって来たじゃん! なんでミクちゃん払っておかないの!」
私は静かに椅子に座り直すとレニくんの手を握りながら懸命に説得しました。
「アクセル様のご厚意を無下には出来ません! 恩には恩を、そして勇者様。騎士様は旅の間勇者様をお守りしてくださる大切な仲間です。忠義には信頼で返さないといけませんよ」
レニくんには心から信頼できる人が増えていくことが今後の成長の上で最も大切なことだと私には思えます。
魔力や武力や技術といった面では、レニくんはおそらく戦闘の天才と呼ばれる類の逸材なのでしょう。
ですが、問題はそれらをコントロールするメンタルです。
弱メンタルともまた違う気がするんですよね。レニくん、基本的に横柄な性格ですし。
病んでるのか、闇ってるのか、迷っているのか、それとも成長中なのか悩みどころです。
とはいえ、信頼できる大人の不在でひねくれてしまっているのは間違いないです。
今もレニくんは舌を出して自ら軋轢を生み出そうとするのです。
「っは、忠義? そんなもん、あるわけないよ。俺たちがこの街に着くまで、どんだけ遠回りしたと思ってんの。今さら追いつくなんてさ、それ、忠義じゃなくて、ずっと躊躇してたんでしょ」
しかし、アクセル様は力強くテーブルを拳で叩くと強い意志をレニくんに示しました。
「それは違う!! オレはシスター様に臆病者だとすねを蹴り上げられたあの日から勇者の旅に同行すると決意したんだ!!」
私の顔が羞恥で赤く染まったのは言うまでもありません。
レニくんも無言で、ミクちゃん、よく人のこと蹴るよね、という視線を私に送っている気がします。
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