第15話 やはりイケメンは登場からかっこいい
既に意識を失っている門番さんをレニくんは無造作に放り投げると、剣を構える門番の方たちに、澱みの無い足取りで近寄っていきます。
「と、止まれ! 近寄るな!」
「これ以上近寄ると斬るぞ!」
青ざめている門番さんたちはどう見ても腰が引けております。
一方、爪のささくれを気にしているレニくんは門番さんたちには目もくれず、相も変わらず生意気そうに舌をべぇ、と伸ばしました。
「斬れば? 俺は殺してやるよ」
「いけません! レニくん! 殺してはいけませんよ!!」
「え? ダメなの?」
そんな、今気付いたみたいな感じで振り返らないでください。
ダメに決まっているでしょう。
「あ、あの、わたし……」
レニくんの後ろで腰を抜かしてしゃがみこんでいたのはボロボロのローブを着こんだ少女でした。
ボロボロというかほつれを自分で直したのでしょうか。裏から当て布でもして縫ったと思われるのですが、糸の始末が悪かったのですかねぇ。表から糸がぴょんぴょん飛び出しておりまして、そのお姿は毛量の少ないハリネズミのようでした。
年齢はレニくんと同じくらいでしょうか。それか、もう少し若い15歳から17歳くらいにお見受けします。
薄い紫色の髪をハーフアップにしているのですが、髪留めがなんとも個性的でして、あれは裁縫道具の針山というやつですよね。
フェルト生地のクッションにマチ針や縫い針、縫い糸などが大量に刺さった状態で頭の上に乗っかっております。
それ以外はいたって普通のお嬢さんといったところでしょうか。
突然現れたレニくんを見て、言いたかった言葉も失い、目はハートで埋め尽くされ、顔を赤くされておられました。
「誰だああ!! 馬車ぶっこんできたバカヤロウは!!」
今度はぞろぞろと私たちが乗って来た馬車の方から屈強な戦士の方々が現れました。
どうやら私たちの馬車は門の前の衛兵さんたちの詰め所であったテントへ突っ込んだようです。
私はレニくんの前に体を滑り込ませると、ポケットから王様からお預かりした大事な書簡を取り出して掲げました。
「お騒がせして申し訳ありません!! 私たちは魔王討伐の旅をしております勇者様とお付きのシスターです! こちらは東の王国よりお預かりした国王様からの書簡に御座います!!」
鋭い目つきでやって来た団長格と思われる男性は、私から書簡を受け取ると、内容を確認する前につばを吐かれました。
「˝あ˝あ˝あん? 勇者様ならなんの役にも立たずに街の飯を食い散らかした挙句、魔獣どもを呼び込んでさっさとよその街へ逃げたぜ」
イライアスさん!! 何をしていらっしゃるんですか!?
「いえ、その方は勇者候補の方です。こちらの方は真の勇者様でございます。こちらに国王様の真の勇者と認める確かな証明書もございます」
「そういやぁ、あのときは勇者候補と書簡に書いてあったか」
ようやく読んでくださる気になったようで、団長格の方は内容を確認していらっしゃいました。
「ふん、本物のようだな。仕方ねぇ、領主様のところへ案内してやる」
「ありがとうございます!! あ、あの、今すぐ壊したテントは直しますので!」
私は急いでテントの方へ戻り、ロザリオを掲げて修復の祈りを捧げておりました。
お馬さんも衛兵さんたちに蹴り飛ばされたのか軽い捻挫をしていたので治療を施し、馬車も元通りに直したところ、また怒声が響いたのです。
「てめぇ!! やるってのか˝あ˝ああ!!」
「全員、殺してやるよ」
なぜ!? 私が慌てて先ほどの場所へ戻ると、レニくんの背中に少女が抱きつき、レニくんの手の中ではまた一人男性が泡を吹いて意識を失っており、剣を構えた衛兵さんたちにレニくんと少女は取り囲まれていたのです。
(この一瞬で何があったのですか!?)
「レニくん! どうしたのですか!? 事情を説明していただきたいです!」
「あ、ミクちゃん。だってさ、こいつら意地悪なんだよ。この女の子も街に入りたいって言っているから入れてあげてって言ったのに、この子は許可証が無いから入れてあげないって言うんだ。だからさ、こいつら全員、殺してやるんだよ、いいでしょ?」
ドサッと無造作に落とされた男性はかわいそうですが、レニくんの逆鱗に触れてしまったのですね。
「殺す必要はありませんよ。そちらの気絶された男性は書簡の内容をご存じなかったのでしょう。私たちの許可証には勇者様に同行するものすべてを通すように書いてあります。勇者様がお望みなのでしたら、そちらの女性も街に入れるはずですよ」
そうですよね、と私は先ほど書簡を確認された団長格の男性に笑顔で同意を求めたのですが、男性の方はあまり好意的ではない笑みで返してきました。
「そんなこと書いてあったかぁ? 勇者の同行者の名前が記載されているものと、しっかり書かれていた気がするなぁ。ああそうだぜ、国王様がそんなあやふやな書簡を寄越すはずがねぇ。同行者の名前が記載されていなきゃ通せない。そう書いてあった」
「そんなはずありません! では書簡を私にもう一度確認させてください!」
「ダメだ。あんたらの身柄はもううちの領主様の預かりになった。この書簡も今は領主様の預かりだ」
むむぅ。確かにレニくんのいう通り、ここの人たちは少しばかり意地悪なようです。
というより、おそらくこれはイライアスさんの行いが悪かったので、私たちはとばっちりを食らっておりますね。
「よし殺そう」
だからといって殺してはいけません!!
「レニくん、」
続ける言葉を本当はどうしようか悩んでいたとき、その爽やかな声は私の頭上から響いたのです。
「一介の衛兵団長如きが我が国王様のお言葉を曲解するというのかい?」
「誰だてめぇ!!!?」
そこにいたのは白銀のマントを翻し、青銀の甲冑に身を包む東の王国の騎士様のお姿。
「オレは東の王国王室騎士団、第三騎士隊、騎士隊長、アクセル・ロスバレットだ」
もう何度も助けて頂いた、麗しい銀髪のイケメン騎士さんと再会したのでした。
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