第14話 すっごく身体能力向上してるっぽい
東の王国を旅立ってから二週間が過ぎようという頃、馬車はようやく中央大陸の街道を走り出しました。
正直に申し上げまして、レニくんが遊びすぎです。魔族の集団を見つけると跳びかかる習性でもあるのでしょうか。
馬車の中にはレニくんのご要望通り、これでもか、と食料が詰め込まれており、当初は10人が20日間生きられるほどパンパンに肉もパンも缶詰も豊富に御座いました。
しかし、レニくんの体は女性のように細い腰つきで華奢でありながら、めちゃくちゃ食うのです。
朝、昼、おやつ、夜、夜食付き。どれだけ食べても太りません。おそらくこれは成長期。
まだ筋力も付くし、背も伸びるのでしょう。よく眠っていらっしゃるので、そこは私も成長が楽しみであります。
とはいえ、現実問題として、食料が枯渇しております。
もはや、なんとしても本日中には街について諸々の補充をしなければなりません。
「ねぇねぇミクちゃん、頭に針が刺さってるおねえさんが、男たちにいじめられているよ」
「ええ!? 野盗ですか!?」
しかし、辺りをきょろきょろと見渡しても、雑草が生い茂る整地されていない街道が街に向かって真っ直ぐに伸びているだけで、近くに森や山も人影すらありません。
「ええっと、どこですか?」
「街の門の前だよ」
「ここから街の門が見えるのですか!?」
「ミクちゃん見えないの?」
地図によれば街までまだ七キロあるんですよ! 七キロ先が見えるんですか!?
「もしかして、聖剣のお力ですか? そういえば、聞いていませんでしたけど、聖剣の能力を舌ピアスの状態でも使えるのでしょうか?」
レニくんはハッとした表情で「ステータスオープン」と唱えました。
ステータス画面を見てみると、え?
「あれ? レニくん、レベルアップしていますね。いつの間に1レベル上がったんですか?」
レニくんの勇者補正レベルが+4に上がっております。
「なんでだろう? でも、さっきからやたらと目もよくて耳もいい。なんか察せる。これって舌ピの力かな?」
「せめて聖剣と呼びましょう。ちょっと見せてもらってもいいですか?」
「ほへ」
んべーと一度舌を伸ばしてくれましたか、思い直したのか舌を引っこめました。
「舌ピ。これが俺の
「宝石の状態なんですね。じっくり見させてください」
んべぇー、と舌を伸ばしてくださったので、改めてじっくりと見てみると、なるほど。
黒い鋲ではなかったです。五芒星の形にぷっくりと盛り上がっている部分は一見すると黒く見えますが、光に当てると深い青色に輝いているのがわかります。
下の部分は三角錐のねじのようになっており、黒ずんだ鉄のように見えますが、やはり光に当てると紫色に近い青色に輝く宝石でした。
「ありがとうございます。もう舌を引っこめて大丈夫ですよ」
顔を寄せてくるのでロザリオでガードするとレニくんはわかりやすくむくれました。
「それにしても、レニくんは聖剣の状態では使わないのですね?」
「……だって俺、剣に形が変わったとしても剣の使い方知らねぇもん」
そうですよねぇ。今凄く納得できました。
そこは日々の努力です。
それなのに東の王国は本当に今まで7年間も一体何をしていらしたのでしょうか。
レニくんをヤンキーとして育てている場合ではないでしょう。
剣士としてしっかり7年間育てていれば、今頃立派な聖剣使いになれたでしょうに。
「ミクちゃんさぁ、今、俺のこと使えねぇって思ったよね……?」
「思ってませんよそんなこと! 私は7年という貴重な時間を無駄に溶かした東の王国に腹を立てていたのです! レニくんが気にする必要はありません! すべては勇者候補とわかっていながら指導をしなかった大人の責任なのです!」
しかし、レニくんは馬を操りながら器用に俯いて私の顔を下から覗き込みます。
「本当かなぁ~……? 俺に失望したんじゃないのぉ~……?」
レニくんのこの人の言葉はまず疑え、二度も三度も疑い、噛みついて血の味を確かめてから味方と判断するような疑り深さは、どうも10歳のころのことだけが原因じゃないように思えます。
やはり、それ以前の虐待が原因……とはいえ、今現在、私を疑い心が迷宮入りしそうになっているレニくんに聞くようなことではないでしょう。
それは追々聞けるタイミングがあれば聞いてみたいと思います。
「レニくん、私は失望どころか素晴らしい目の付け所だと感心しております」
「え?」
「
普通はやっても耳くらいだと思いますが、それもレニくんの凄いところで、舌という感覚の鋭い部分と繋ぎ合わせたことで、聖剣の能力を一部だけでも引き出せたのでしょう。
「おかげさまでレニくんが先ほど見つけたいじめられている女性を助けることができるかもしれません。私にレニくんの使える能力をすべて教えてもらえますか?」
お馬さんが頑張ってくださっているので、もう街の門は視界に入っているのですか、事情が分かりませんし、女性の方はできるだけ穏便にお助けしたいところです。
しかし、レニくんはというと、なぜか不思議な表情を浮かべたまま、先ほどの態勢で固まっておられました。
「あの、レニくん。御者さんをしておられるときは前を見てくださいね。お馬さんも、いきなりは止まれませんからね」
「……肉体に、直接……繋ぎ合わせるのは、良いこと……?」
「? はい。間接的では意味がなかったでしょう。直接、レニくんの肉体と深く関与したと言いましょうか。
なぜでしょうか。レニくんの表情が朝日を浴びたひまわりのようにきらきらと光の密度を上げながら笑みを広げていきます。
最終的に度が過ぎる美貌に後光のように差し込む笑顔が輝き過ぎて私は眩しすぎたため目を開けられなくなりました。
「ちょ、レニくん、眩しすぎます! 美貌を若干弱めに!」
「うおおおおおっしゃあああああ!!! 突っ込めえええ!!!」
「ええええ!? ど、どこに!?」
ドガシャーンッ!! と、けたたましい爆音と共に馬車はどこかに突っ込んでしまいました。
「ぐあああああああっ!!?」
「何者だ!!?」
「その手を放せ!!」
ああ、確かめるまでもなく、私もレベルアップしていてよかった。咄嗟の結界魔法で馬車は横転しましたが破損もなく、お馬さんも無事です。
とはいえ、驚いてお馬さんがひひんと弱弱しい声を上げる中、少し遠くの場所からは男性たちの怒声が飛び交います。
「なんであのおねえさん、いじめてたの?」
これはレニくんの声! 慌てて私も横転した馬車から這いずり出て外の様子を窺うと、レニくんが門番さんの首を締め上げて泡を吹かせておりました。
(あああああああ! 穏便にお助けするはずがあああ!!)
☆☆☆
いつも応援ありがとうございます( *´艸`)
みなさんの作品も楽しく読んでいましたら、うっかり更新時間を過ぎていました←あほ
明日はちゃんと11時に公開いたしますので、どうぞ星ください←なんでだよ
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