第13話 目が危険です! *背後注意*
やがて、レニくんの操縦する馬車は小川の近くで止まりました。
私は慣れた手つきで調理器具を用意すると、レニくんの腰かける岩の前にはテーブルセットを準備していきます。
先にナイフやフォークを用意しておくと、レニくんは食器で遊び始めるので調理を邪魔されることがありません。
ドリンクは小川から汲んだ水を沸かして、紅茶にして差し出しました。
「冷えたソーダ水飲みたい~」
「街についたら、すぐに飲みに行きましょうね。レニくん、ハチミツ入れましょうか?」
「入れて♪」
甘いものが大好きなのでしょう。レニくんはハチミツを紅茶に垂らすとティースプーンで元気よく渦巻きを作っておられました。
紅茶を冷ますのにレニくんが気を取られているうちに、ささっとマッチで火を起こし、調理を始めます。
厚めに切ったトーストには予め切り込みを入れておき、バターを引いたフライパンで焼いていきます。
別のフライパンではベーコンをカリカリになるまで焼いていきます。
お湯を沸かした鍋では、コーヒーフィルターに卵を落としいれて蓋をすると、そっと鍋の中へ落として待つこと二分間。白身も綺麗にまとまったポーチドエッグの完成です。
お皿に盛ったベーコンとポーチドエッグにはさっと塩コショウを振りかけて。
別のお皿に持った厚切りトーストにはたっぷりとハチミツをかければ完成です。
「レニくん、出来ましたよ~」
「わぁい!」
目の前にお皿を差し出すと、レニくんの食べる勢いはさながらお腹を空かせた荒野の獣のようです。
ベーコン、結構厚めに切ったのですが、一枚丸ごと口の中に放り込みましたね。
さらにポーチドエッグを半分にフォークで割って、口に詰め込んでいきます。
もうリスさんのように、お口はパンパンなのに両手にトーストを持ち始めました。
「レニくん、落ち着きましょう。ハニートーストは逃げないです。お口の中を空っぽにしてから食べましょうね」
「むぐー! むぐむぐむぐむぐ!!」
なにやら抗議をしているようですが、口の中のものを出すつもりはないようで安心しました。
しかし、半分嚥下するとハニートーストに食らいつき、またほっぺはパンパンになってしまわれます。
私はレニくんの食事中、いつ喉に詰まらせるかとハラハラしっぱなしで目が離せません。
本来であれば旅の道中は致し方ないとはいえ、野菜不足を気にした方がよろしいのでしょうが、レニくんの食卓にこれ以上食材が増えるのも不安材料です。
そして、あっという間に遅めの朝食が終わりました。レニくん、ハニートーストのカケラを使ってポーチドエッグからはみ出した黄身まですべて綺麗にすくい取って食べてます。
とても満足した様子のレニくんは、すっかり冷めた紅茶を飲むと満面の笑みを浮かべました。
「ミクちゃんのご飯ぜんぶ美味しい! 俺これからもずっとミクちゃんのご飯だけ食べる!」
まぁ、なんてスレスレで危険な発言でしょう。捉え方によってはプロポーズですよ。
レニくんはきっとこういう迂闊な発言の多さも相まって群がる女性の数が減らないのでしょうね。
ですが、私としては今後レニくんに以前のような女性の方たちとのお付き合いの仕方は改めて頂きたいのです。
昔は広く浅く、だったかもしれませんが、今後は狭く深く。一人一人と真剣に向き合ってほしい。この気持ちを逆鱗に触れることなく五歳児に伝えるにはどうしたらいいでしょうか。
「ところで、なんでミクちゃんは食べないで俺のことずっと見てたの?」
「レニくんが心配だったからです(喉に詰まらせそうで)出来れば私だってずっと四六時中、レニくんのことだけ見ていたいですよ(迂闊な発言をしていないか見張るため)」
「う、うん……」
どうしたんでしょう。レニくんの顔が赤いです。それになぜかそっぽを向かれてしまいました。
もしや女性関係を改めさせようとしている私の魂胆を見透かされてしまったとか。
「あ、えと、ご飯、褒めてくれてありがとうございます。普段、孤児院で作っても誰からも、お礼を言われたり、感想を頂けることが無いので、美味しいって食べてくれることが嬉しくて、幸せな気持ちになれるということを忘れておりました。思い出させていただきありがとうございます」
なんて、今さら過ぎるお礼を伝えても話を逸らせないかな、と思いきや、勢いよくレニくんは振り返って私の顔を真剣に見つめます。
「ミクちゃん、俺の言葉で嬉しかったの? 幸せだったの?」
「は、はい。嬉しかったですし、これからも幸せですよ。(旅の間は)ずっと私のご飯を食べてくださるってレニくんが言ってくれたんじゃないですか」
じーっとまた私の瞳を見つめるの出来ればやめてほしいです。
吸引力にやられる前にロザリオを掴もうかと思ったら、レニくんの手が伸びてきて、私の瞳のそばを指でそっと撫でて、舌ピアスを覗かせながら笑っておられました。
「ミクちゃん、美味しそう♡」
「っ……!?」
私の背中に戦慄が走ります。レニくんの瞳、いつもと違ってハートが浮かんでいるようです。
「飴玉みたいだよね、ミクちゃんの瞳。ハチミツをギュッと濃縮させてもミクちゃんの甘さには届かない。窓辺に虹をかける飴玉みたいで、俺、ミクちゃんの目玉を舐めて転がしてみたいなぁ♡」
目玉食われる!? ななななぜ!? やはり褒められたことにお礼を言うのは今さら過ぎて逆鱗に触れたのでしょうか!?
私は涙ながらに訴えました。
「あ、あの、眼球が無くなると、勇者様のサポートに支障が出るので、せ、せめて旅の間は、私の顔面に収めておいてもらえないでしょうか……?」
「このまま舐めてみるだけってのもダメ?」
「ででできれば、もっと美味しいものをご用意いたしますので、舐めないで頂けると嬉しいです……」
ふーむ、と首を傾げながら考えているレニくんは既に私の顎を掴んでおりまして、私は恐怖で動けずにいました。
「まぁ今は、これでいいか」
「っ……! ふ、んんっ」
やっぱり、落とされたのは熱い口づけ。ハチミツの味がするレニくんの舌が私の舌を絡みとって唾液を含ませると喉の奥へ押し込んで何度も飲まされました。
口から零れ落ちる唾液も舐めとるように、レニくんは深いキスを繰り返して、私の口の中はレニくんの味でいっぱいです。
「ん、はぁっ、息っできな、んんっ……」
「あ、はぁっ、やっぱり、おかしいくらいミクちゃん美味しいよ、はぁ、ん、どうしてなのっ」
涙越しに見えるアメジストの瞳がハートで埋め尽くされております。
ようやくキスが終わったとき、私は文句も言えずに荒い呼吸を整えていました。
だって、
「あ! そっか! 目玉にハチミツかけたらもっと美味しくなるよね!」
とか、本当に恐ろしいことを笑顔で言うんですもん。
目玉にハチミツをかけられる拷問より酸欠寸前のディープキスの方がマシですよ!
次の移動で私たちは街に入ります。
レニくんにまともな出逢いがありますように、と私は切実に願うのでした。
☆☆☆
次回より本格的に新しい話がスタートします!
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