第3話 なにか重要なことを隠されている気がします
私の
聖女というのはシスターの最上位職です。誰でもなれるものではなく、特別に神様の加護を必要としており、その能力は百万の命すら蘇らせるとか。
ほとんど伝説としてしか存在しない聖女様ですが、上手く私が成長すれば、いえ、語弊がありました。私が成長する度に、あるいは勇者様が成長なさる度に聖女になれる性質がボーナスとして加算されていく。勇者様の方も勇者の性質とか、たぶんそういうものがレベルアップしていくものなんだと思います。それが私の能力『勇者様と聖女の相互補正』そういう能力を持つロザリオが私の
王様のお話はまだ続いております。
「そして、ついに我々人類の悲願が、魔王を打ち倒せる勇者の聖剣が
そのお話は孤児院にいる五歳児でも知っております。だからこそ、勇者様御一行(あの先輩シスターと呪術師の男も一緒に)は七年前、意気揚々と中央大陸に旅立たれたのでしょう。
眼差しで私の言いたいことを察してくださったのか、王様は大仰な咳払いを一つしますと、話を戻されました。
「うおっほん! ……半年ほど前にな、とある街から手紙が送られてきた。勇者一行の旅は順調らしい。だが、やはり中央大陸は予想以上に魔族にやられている街も多いらしく、旅もなかなか順調に、とはいかないようだ」
「厳しい困難が待ち受けているものと覚悟しております」
私もいつになく真剣な表情でお答えしました。
「街の近くの地下遺跡に魔族が棲みついてしまい、街の住民が非常に困っているというのだ。勇者も優しい男だ。見捨てて魔王討伐には行けないというのでな、追加の資金を送り、吉報を待っておった。ところが……」
私もじっと待ちます。王様の次の言葉を。
「……一向に返事が来ない。つまりだな、その、勇者一行が行方不明になったのだ」
半々の気持ちで聞いておりました。私の純粋無垢だった心は成長の過程で幾度となく破り捨てられ、それなりにすれた女になっていたのです。
半分はもちろん、純粋に心配する気持ちです。地下遺跡が予想以上の危険地帯であり、今も勇者様たちは生存の糸を手繰り寄せながら救助を待つ瀬戸際の状態かもしれません。
もう半分は地下遺跡の話など全くのデタラメであり、追加の資金を持って全員逃げたのではないか、という懐疑心です。
そもそも、もう七年ですよ。七年もあれば魔王幹部を倒したとか、いえそれ以上に四天王の一人くらい倒していたとしてもおかしくないですよね。
ところが、勇者様の英雄譚はご神託により聖剣の爆誕が告げられた、という七年前の情報以降、何も新しい情報が更新されないのです。
そろそろ市井の皆さまだって噂話の話題の俎上に載せるほどです。勇者誕生の噂などデマではないかと。
私としては、デマならデマで構いません。ただ、本物の勇者様を期待して待っている本当に困っている方々をたった一人でも救い、守ることが出来たら、それでいいのです。
「さて、シスターミクよ。さすがに、防御や結界や治癒などサポート役に長けているシスターとはいえ、女子一人を旅立たせるわけにもいかん。誰を連れて行くかはそなたに任せる。好きな職種のものを選んでわしのところに連れてくるのじゃ」
本当は私のエゴな願いに誰かを巻き込みたくはありませんが、こればかりは仕方ありませんね。
「かしこまりました。数日中にお連れ致します」
こうして、謁見の間での王様と緊張する面接は終わったのでした。
まずは情報収集ですよね。私は16歳まで修行中でしたし、シスターになってからは孤児院でのお仕事や修道院でのお仕事も忙しく、あまり情報を集める時間がありませんでした。
ほどなくして、先ほど謁見の間でお姿を拝見した赤髪と銀髪の騎士様のお二方をお見掛けすることができ、これは逃してはならないと必死の思いで呼び止めました。
「騎士様! お待ちください!」
振り返ったのは銀髪碧眼の王子様のような美青年で、一瞬、話しかけた内容を忘れかけたほど美しい方でした。
「これはシスター様。いかがなされましたか?」
しかも言葉遣いまで丁寧で優しい。救出隊に志願したといえどサポート役でしかない新人シスターにまで気遣ってくれるなんて、心までイケメンのイケメンって実在するんだなぁと私は感慨深い感動を味わいながらも口は理性を吐き出します。
「騎士様、実は私、勇者様と同行する予定でした魔王討伐隊のメンバーの試験にも参加させて頂いていたのですが」
すると、銀髪の騎士様と一緒に居た赤髪の騎士様は明らかに面倒くさそうな表情になり、
「説明は隊長にお任せしますよ」
そう言うなり、さっさとその場を去っていきました。
銀髪の騎士様も困ったような表情で頭をかいていましたが、やがて観念したように事情を話してくれました。
「つまり、シスター様は当時の選抜隊の状況も噂話程度ではなく、実際に知っているので、その、我々の現状を見て不思議に思われている、ということでしょうか?」
そうですね。何も王室騎士団の方々だけではありませんけど、と前置きをした上でお伝えしました。
「今回は随分と志願者の方が少ないですよね。なにか理由をご存じでしょうか?」
銀髪の騎士様は明らかに狼狽した様子でございました。
「いやぁ、それは、その」
「私が知る限り、王室騎士団の部隊だけでも三部隊は魔王討伐隊に参加なされていたはずです。七年前ですので私の方も鮮明な記憶とはいえないですけど」
「そこは、はい。シスター様の仰る通りです」
別に過去の事実を隠そうというおつもりはないみたいですね。
でも、あえて言いたくはない、そういう事情がありそうです。
もう少し、突っ込んで聞いてみましょうか。
「それでもあの当時、待ち望んでいた勇者様の登場に誰もが浮足立ち、魔王討伐隊の試験には通常の二十倍を超える応募者がいたと、聞き及んでいました。国王様も喜んで予定よりも多くの志願者を旅立たせたとか」
実際、東の王国の門前パレードは凄い人の数でしたよねぇ、としみじみ語ってみたり。
さて、私はここで顔を引きつらせて端正なお顔立ちを台無しになされている騎士様に本題を突きつけてみました。
「国王様の心労を増やすことは私も避けたいと思います。ですので、ここで騎士様がお答えくださればとても気が楽なのですけど、人々から勇気や栄光へ向かう気持ちって時が経てば消え去るものなのでしょうか?」
しかし、これには騎士様は背筋を伸ばして毅然とした態度でお答えくださりました。
「決してそのようなことはありません! 少なくともオレの心の火は消えておりません!」
それだけ聞ければ十分でしょう。あとは単なる確認事項ですよね。
「安心しました。それで、私は一体何名の方の救出に向かう準備をすればよろしいのでしょうか?」
私も試験当日から、薄々おかしいぞ、とは思っておりました。
救出隊を募りたい、という国王様の暖かい気遣いには国民として感謝せずにいられません。
しかしですよ、千人規模で旅立ったはずの魔王討伐隊を救出するのに志願したのが私一人ですか?
修道院とか孤児院って確かに閉鎖的ではありますが、ここまで私だけが情報脆弱な状態になりますでしょうか。
銀髪碧眼の騎士様は先ほどの威勢も萎み、いよいよ観念した感じで、なぜか下げる必要のない頭を下げてまで説明してくださったのです。
「申し訳ございません……! 現在、確認できている勇者一行のメンバーは二十名足らずです」
「二十名!?」
しかも足らずですよ!? 思わずはしたなく叫んでしまいました。
「先行した千名を超える方々は全員、ま、まさか殉職なさったのですか!?」
「違います! それも、違うんです……!」
なぜこんなにもお美しい騎士様は憂いに満ちた顔で悩まし気に気落ちするのでしょうか。
どうして王様は最初から落ち込んだご様子で、同行者を私のような旅も戦闘も未経験のシスターに一任したのでしょうか。
私は最初から、そこが腑に落ちなかったのです。志願者がいなかったので、王室騎士団の中から騎士を選抜しておいたと言われれば納得したでしょう。
ですが、なぜ、職種も不問、人数も問わない、誰でも好きなものを連れて来いと仰られるのか、国王様の意図が掴めずにいたのです。
しかし、ここで親切にして頂いた騎士様まで悩ませるのは私の本意ではありません。
「騎士様、お忙しいところ、お足止めしてしまい申し訳ありませんでした。これ以上は国王様の仰る通り、余計な詮索はせずに救出に力を貸してくださる方を探しに行きたいと思います」
騎士様には深々と頭を下げて礼を告げました。騎士様は最後まで私のようなしがないシスターに気遣ってくださり、
「中途半端な説明でこちらこそ申し訳ない。何かあったら第三分隊のとこへ。オレはいつも訓練ばかりで外の鍛錬場にいますが、たまにこの王城にも書類仕事のために戻ってきます」
この上の階にある客室を執務室として使っているんですよ、と朗らかな笑顔で教えてくださりました。
去り際に余計なしこりを残さないなど、気遣いがまるで紳士のようです。
さて、私は一度、王城を出ると目的の人物を探して修道院の方へ戻りました。
七年前の記憶は今でも忘れたわけではありませんが、あの先輩シスターさんは特別野心が強いお方であるとか、特別ご自身のプロポーションに自信のある方ではなかったのです。
私は修道院の厨房の方へ歩みを進めていきます。
本日は一般的に労働休暇日とされている休日ですので、修道院では無料でお配りする料理や菓子の準備などで忙しいはずです。
そこへきゃぴきゃぴとした女性たちの声が厨房から聞こえてきました。
「レニ様はこの前、ここのクッキーめっちゃ喜んでたもんね」
「これ持っていけば、またレニ様と遊べるよ~」
厨房からクッキーが入っていると思われる小包を抱えて出てきたのは先輩シスターさんのお二人です。
そう、七年前の先輩シスターさんは何も特別ではない。ふしだらなシスターはどこにでもいらっしゃいます。
そして、やっぱり、あのお方の名前を口にしていらっしゃる。
「あの! 私もレニ様のところへ連れて行ってください! お願いします!」
深々と頭を下げた私に先輩シスターさんたちはキョトンとしていたけれど、
「意外~! ミクも興味あったんだ~!」
「レニ様にはみんな興味津々だよね~! いいよいいよ~」
これでようやくお会いできそうですね。先輩シスターさんたちは昨夜お会いしたレニさんのところへ私を連れていってくださると快諾してくださったのです。
☆☆☆
本作品はカクヨムコンに参加しております。
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