一章
第2話 聖剣爆誕☆のちに行方不明……
七年前、魔王討伐隊、入隊試験当日。12歳の私は黒く染まっていくロザリオを握りしめながら控室で呆然としていました。
「きゃはははは、やだ、この子のロザリオ呪われているわ」
高い笑い声を上げて私を見下していたのは先輩シスターの姿でした。
彼女が豊満な胸を押し付け、腕を組んで隣を歩くのは、今回の試験に呼ばれていた呪術師の男です。
呪術師とは魔族や魔獣の呪いの力に、こちらも呪いの力で対抗するという呪いに特化した魔法使いの中でも専門職の方です。
「……なぜ、このようなことをなさるのですか?」
私は悔しさを隠せずに震えた声で先輩シスターに問いかけながら訴えます。
「勇者様のお役に立ち、魔王を討伐することで多くの方が救われ多くの方を守れるはずです!」
それを、このような子供のいたずらのような真似で、少なくとも私が勇者様の盾となり、回復役としてお役に立てる機会を奪うなど、誰のためにもならないと、声を張り上げました。
しかし、バシンッ! 大きな音を立てて弾き飛ばされたロザリオは控室の床の上に黒い煙を上げながら、焼き過ぎて焦げたパンのように転がったのです。
ぶたれた手の甲は赤く腫れ、ジンジンと痺れて痛かった。
「ガキのくせに!! ちょっと聖女の素質に恵まれているからって生意気なのよ!!」
衰退していく一方の人類が千年もの長い間、待ち続けた勇者様の誕生。
ご神託により告げられた勇者の聖剣【星降りの剣】が発現したとの知らせが世界中へ飛ばされたのはおよそ一か月前のことです。
だけど、その機会を千載一遇のチャンスと捉える者は多い。
名を上げたいだとか、名誉が欲しいだとか、英雄に名を連ねるチャンスだとか……。
「そういえば、勇者様が誕生した儀式にもガキが紛れ込んでいたそうね」
「ぼ、僕は最初から二人とも一緒に【星降りの剣】発現の儀式に居合わせていたと聞いたよ。勇者様の方は中央大陸からの移民で今まで儀式をしている暇もなかったそうで、今年でもう18歳になるっていうから、10歳の男の子の方が普通じゃないかな」
私の他にも幼い身分でこのような事態に巻き込まれた方も居たのだと、少しだけ味方を得たような気持ちになりました。
「ふん、どっちでもいいわよ。用があるのは勇者の方だけ。ガキの方はやたらと顔立ちの整った綺麗な容姿らしくて、ショタ好みのシスターは浮足立っていたけど、あたしが興味あるのはショタでも勇者でもないのよ。ねぇ、ミク。シスター見習いのあんたにあたしの夢がわかる?」
私にだって願いがあります。誰にも譲れないたった一つの願いが。
「魔王を倒し、世界を平和に導くことでしょうか」
先輩シスターは真っ赤なリップを歪ませて大笑い致しました。
「あははははは! 良いわねそれも! あたしが聖女様になったら、そんなの容易いことよ!! みんながあたしにひれ伏すわ! 勇者じゃなくてこのあたしにね!!」
よくわかりました。つまり、万に一つでも私に聖女の素質があっては困るわけですね。
先輩シスターはご自身が聖女になりたいがために、私のたった一つの願いを踏みつぶしていくということです。
この世は弱肉強食。幼き頃より叩き込まれた食物連鎖、自然の摂理。同じ標的を追いながらも潰し合う可能性を考えなかった私の落ち度です。
私は大人しく自身の
「じゃあねぇ、ミク。あんたは一生、孤児院のガキどもの世話でもしてな」
最後の嫌味は気になりません。孤児院で救える子がいるのならそれでもいいのです。
ですが、私のロックな父はいつも言っておりました。チャンスは掴み取れ。逃すなと。
私はこの時より呪いについて深く勉強しながら次の機会をひたすら待ちました。
他にも呪術師というレアな役職の中からさらに百万人に一人の激レア職と呼ばれる呪術図師という職業についても調べました。
呪術図師の扱う呪術図式にも色々な法則や、中には鳥獣戯画のような楽しいイラストもあり、呪いといえど楽しく学んでいったのです。
きっといつか願いは叶います。少なくとも諦めようとは思いません。
ただ、叶わない願いを抱きながら、神に祈りを捧げながら考えたりします。
神様の起こす奇跡も、人の願いの一つだと思います。
人間が信仰するのは美の神です。この世界が美しいと信じる神はどんな願いなら奇跡を起こすのでしょうか。
私には縁の無い話ですが、おとぎ話を空想するように、時折ふと考えてしまいます。
美しいこの世界に神様が一つだけ叶える願いがあるとしたら、それはどんな美しい願いなんだろう──
そして、七年後。私は19歳になり、ついにその機会に恵まれたのです。
とはいえ、あまり喜ばしくない状況です。
先日の試験に合格した私は、王城に呼ばれておりまして、大きな広間のような謁見の間にて緊張しながら王様の前で両ひざを折って頭を垂れておりました。
謁見の間の壁沿いには東の王国が世界一と戦力と知力を誇る王室騎士団の騎士の方々がずらりと並んでおりまして、威厳も格調も高く、緊張感も余計に高まる酸素の薄い場所でありました。
そんな中で王様は、ビロード張りの玉座から転げ落ちそうなほど前のめりに項垂れておりまして、貴重な酸素を大仰なため息に変えて吐き出されると、くぼんだ眼でわたしを見つめます。
「……勇者一行救出隊に志願してくれたのは、そなただけか。シスターミク」
そのようでございますね……。控えめに首だけ動かして辺りを見渡しても、私の他に救出隊のメンバーとして呼ばれた方はいらっしゃらないようです。
「シスターミクよ、今さら説明はいらぬとは思うが、事の発端くらい説明しよう」
落ち込んでいらっしゃるのになんてお優しい。と、思いきや、何やら王様の背筋が伸びて気力に満ち溢れてまいりました。
「ここ東の大陸は人類に残された最後の牙城である……! どれだけ狡猾で執拗な魔族たちに追い詰められようとも、我々人類は
王様は説明好きなんでしょうか。では私も補足説明をしようかと思います。16歳になると素質のあるものは魔王討伐メンバーの選抜試験に挑戦できるようになります。
12歳で挑戦できた私は国王様より直々に試験に呼ばれていたので特例です。
ちなみに16歳というのは教会でいうところの見習い期間が終わる時期でもありまして、シスターの修道服も黒白の地味な見習い服から、青銀の美しい修道服へ、一人前とみなされて切り替わるのです。
選抜試験にシスターが挑戦できる条件は
ちょうど王様がその
「千年前、人類に牙をむいた魔王が最も恐れたのは我々、人類のみが生み出せる
私は二回目の試験でようやく合格したけれど、昨日のレニさんが試験会場に来たら一発で合格しちゃうだろうな、なんて考えてしまいます。
なんというか、美貌が第三宇宙くらいにまで到達していましたし。魔王よりヤバそうなお方でしたけど。
「皆も知っての通り、東の大陸では10歳になった子供には
補足をすると
例えば、剣士になりたかった男の子がいたとしても、
そしてこの鍛冶道具がときに武器となり、防具にもなりえます。
また
普通は失くさないように道具の姿のまま持ち歩くのですが、たまに
巷ではそのような方々をヤンキーとお呼びしたりします。
きっとレニさんもそのようなお方なのでしょう。よく考えたら首からネックレスを下げていましたし。似合い過ぎていてあのお姿が完成形にして完璧な正解系だと思い込んでおりました。
まぁヤンキー様としがないシスターでは、猛獣と血の滴り落ちる生肉ほどに出会ったら最後の関係です。今は私の話に戻しましょう。
☆☆☆
第一部が全部で何話だったか忘れてしまいましたが←数えていない
一話分がやたらと長いので、毎日2~3分割して、一話分を更新していきます!
ごちシスの更新時間は毎日11時ころを予定しております。
お昼時に胃もたれするほどの糖分を摂取するため覗きに来てくださると嬉しいです!
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