第24話 月例試験・実技課題5(魔法探知)その2

田村梨花は次々と宝石やアクセサリーを作り出しては、周囲に放っている。

放送部の実況者がその様子を語った。


「ブロンズ3の生徒ですが、相変わらずたくさん宝石をばら撒いています。これは何の作戦なのか?」


解説者であるミリエルが不思議そうな声を出す。


「でも物質変成の魔法はけっこう魔法エネルギーを使うんです。それをこんなに沢山……」


ミリエルの言う事は正しい。

ただし術者本人の意欲が高い場合は、話が別だ。

集中力と意欲の高さが魔法エネルギーの消費を抑える。

簡単に言えば「好きな物を作り出すなら、精神的に疲れない」という所か。

そして田村梨花は宝石やアクセサリーを作る事を楽しんでいる。

よって彼女はそこまで魔法エネルギーを消費していないのだ。


「どんな宝石を作り出しているのか、気になります」


「そうですね。画像をアップにしてみましょう」


実況者がそう言うと、梨花が作り出した宝石がズームアップされる。


「なんだか紫色っぽい宝石のようですね。アクセサリーの方は形は凝っていますが、くすんだ金色と言った所でしょうか」


「そうですね。宝石の方は紫水晶アメジストのようです。アクセサリーはこの光り方は真鍮でしょうか?」


「宝石やアクセサリーとしては、どちらも値段は高くなさそうですね」


「高価な宝石は作り出すのも大変ですから……」


(まだ気づかないのか)


この時の俺はきっと笑みを浮かべていただろう。

もっともすぐに気づかないのは当然かもしれない。

俺もこの方法はマスターから教わったものだからだ。


再び映像がズームアウトする。

ブロンズ1と2の生徒は、指定されたエリアをゆっくりと巡回するように飛んでいる。

フライング・トロッコの前座席にいる生徒は、地面を食い入るように見つめて魔法探知を行っている。


それに対しブロンズ3の田村梨花は、宝石を撒き終えた後は少し離れた所にトロッコを着陸させてノンビリとくつろいでいる。

時折なにかをフリージアに話しかけているのは、おしゃべり好きな梨花らしい。

もっとも試験中のため、フリージアは苦笑してあまり返事をしていないようだが。


そのしばらく後、空に一点の黒い影が現れた。

小ドラゴンだ。

放送部の実況者が叫ぶ。


「小ドラゴンが現れました! 場所は南、ブロンズ3のエリアです!」


その小ドラゴンは上空を旋回して周囲の様子を伺うと、素早く舞い降りて来て梨花が作り出したアメジストを口に加えた。


「小ドラゴン、ブロンズ3の宝石を口にしました!」


実況者に続いて解説者のミリエルが驚いたように言った。


「もしかして、まさか、これは……」


「なにか分かったんですか、ミリエルさん?」


「私、以前に聞いた事があるんです。ドラゴン使いの人が中ドラゴンや小ドラゴンを捕まえる時、それに見合った宝石を用意するって」


「見合った宝石?」


「元々ドラゴンには宝石や貴金属などの宝物を集める習性がある事は知られいますよね」


「はい」


「でもダイヤモンド・ルビー・サファイヤ、そういった高価な宝石や金の調度品を使うと、大ドラゴンクラスの強力なドラゴンが先に奪ってしまうそうです。だから中ドラゴンや小ドラゴンは、高価な宝石が欲しくてもより強いドラゴンが恐くて現れない。よって安いアメジストや水晶やトパーズや銀製品を使っておびき寄せるんだと」


「じゃあ今回、ブロンズ3の生徒はそれを狙っていると?」


「ええ、よく見ると撒いている宝石はアメジストなんかの水晶系の安価な宝石です。それでアクセサリーも真鍮なのかもしれません。これならば小ドラゴンが主に集まって来るはずです」


ミリエルの言う通りだ。

俺はそれを狙って、わざと梨花に安い宝石や真鍮のアクセサリーを作り出すように指示したのだ。


「あ、小ドラゴンが飛び立ちました」


「でもブロンズ3の生徒は後を追いませんね。まだノンビリとそれを見ているだけみたいです。彼女は何を考えているんだろう」


実況者の放送部員も解説者のミリエルも不思議そうだ。

でも不思議な事はない。

ここで追いかける必要はない、というだけの話だ。

それに空を飛ぶ生物は概して目がいい。

あまり焦って動き出すと、他の小ドラゴンが近づかなくなる。


「や、ブロンズ3に二匹目の小ドラゴンが現れました!」


実況者の言う通り、二匹目の小ドラゴンが会場の巨大マジック・スクリーンに映し出される。

ソイツは水晶の他に、周囲の真鍮製アクセサリーを二つほど口にくわえて飛び去った。

続いて三匹目の小ドラゴンが現れる。

やはりアメジストと真鍮製アクセサリーを加えて飛び去って行く。


「三匹目のドラゴンも現れました。これでエリア内のドラゴンはほぼ全て現れた事になります」


「そうですね。ですがまだブロンズ3の生徒は動きません。課題は小ドラゴンを見つける事ではなく、巣にあるウロコを持ち帰る事なんですが……」


その時だ。

最初にアメジストを持ち帰った小ドラゴンが飛び去った方角から、派手な音と共に花火が打ちあがった。


「な、何事でしょうか? 突如としてブロンズ3のエリアで派手な花火が!」


実況者が言うまでもなく、西の山岳地帯に花火が見える。

マジック・スクリーンには花火に驚いて飛び上がった小ドラゴンが泣き喚く。

それを見た田村梨花の乗るフライング・トロッコが飛びあがった。

フルスピードで花火の打ちあがった場所に向かって飛んでいく。

しかも花火の打ちあがった場所からは、紫色の煙が細長く立ち上ったいた。

それを見たミリエルが驚きの声で告げる。


「こ、これは、時限式で花火を打ち上げる魔法を、宝石に予め仕込んであったのです!」


「時限式で花火を打ち上げる魔法?」


「ええ。おそらく宝石に触れるか何かでスイッチが入るのでしょう。そして花火が打ちあがった後に狼煙のような煙が立ち昇る。これなら一々小ドラゴンを追いかける必要がありません」


「なるほど。そうして後から巣まで飛んでウロコを集めればいいと」


「一々現れたドラゴンを追いかけるのは効率が悪いですし、追いかけらたドラゴンが巣に戻るかどうかも分からない。これは見事な作戦です」


さすがゴールド1の生徒、見事な推理力だ。

即座に的確に状況を判別している。

優秀な戦士には必須な能力だ。


マジック・スクリーン上には、さっそく小ドラゴンの巣で梨花がウロコを拾い集めている。

何が気に入ったのか知らないが、一枚でいいのに五~六枚を手にしていた。

おそらく後でアクセサリーか何かにするつもりなのだろう。

小ドラゴンは警戒心が強いので、花火が打ちあがった段階で驚いて巣から離れているようだ。


その後も第二・第三の花火が打ちあがる。

梨花はそこでも同じようにウロコを拾い集めていた。

これで南エリア三つの巣を、全て発見してウロコを取る事が出来た訳だ。

後はこれを試験会場まで持ち帰れば、課題達成となる。

他のクラスは、まだブロンズ1が巣を一つ発見できただけだ。


(だが、このままで済むとは思えない……)


俺は赤マントともじゃ頭の座る席に目を向けた。

二人とも不満そうな顔はしているが落ち着いて座っている。


(つまりは、この先に何か仕掛けがしてある、という事か?)


だが俺の方も一応は手を打ってある。

いくらなんでも相手の動きを全て予想する事など不可能だ。

いくつかの対処法を仕込んでおき、それで柔軟に対処するしかない。


(梨花、無事に戻って来てくれ。フリージア、梨花を頼みます)




――――――――

赤マントは不満顔で呟いた。


「ブロンズ3の生徒、やはり奇策を使って小ドラゴンの巣を発見したな」


それにもじゃ頭が答える。


「はい、ですがここまでは想定の範囲内です。いくら私でもレオの奴がどんな手で課題をクリアするのかまでは、予想できませんからな」


「つまりここからが本番という訳か」


「その通りです。では作戦開始と行きますか」


「念を押していくか、フリージアには危害がないようにな」


「ご心配ありません。彼女はハーフ・エルフです。アレは彼女に危害を加えないでしょう。それに彼女だって異界人と心中はしたくないはずです。途中で見捨てると思いますよ」


「まあ普通はそうだろうな。エルフは元々人間に興味がないしな」


「ええ、それでは私はちょっと席を外します」


「うむ、頼むぞ。このままブロンズ3の圧勝で終わらせてなるものか」


「わかっています。高貴なる血と学園を守るために」


もじゃ頭はそう言って席を立ちあがった。

会場の裏手の人目のつかない場所に向かう。

そこで小さな魔法石を取り出した。通信用魔法石だ。

それを耳にはめる。


「私だ。例のアレを放て」

――――――――

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