第23話 月例試験・実技課題5(魔法探知)その1

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午前の第四課題・魔法解呪法の試験が終わった後。

赤マントことハンス・シュナイダー教頭は密かに会議室にもじゃ頭ことニコライ・ニコラウス教諭を呼び出した。


「第四課題でブロンズ3の生徒に犠牲者が出て、その責任をレオに取らせる作戦が崩れてしまったではないか!」


赤マントはかなり憤慨していた。


「まさか、ブロンズ3の生徒があそこまで出来るとは……」


もじゃ頭も唸るようにそう言う。


「感心している場合ではない! このままではブロンズ3のクラスが最高得点になってしまうではないか! 本来ならブロンズ3の生徒のダメっぷりを公けにして、レオの教師としての無能さを全校に知らしめるためだったのに……まるっきり逆効果だ!」


「教頭の言われる事は分かります。ですが、次の第五課題でヤツの教師としての無能さを見せつける事ができます」


「どうすればレオが教師として無能だと証明できる? 既に三つの課題でブロンズ3はトップの点数を取っている。そして第四課題は全員が同点だ。次の第五課題でヤツのクラスがビリだとしても、ヤツを無能と言う事までは出来ないのではないか?」


それを聞いたもじゃ頭は首を左右に振った。


「教師の評価は生徒の点数だけで決まる訳ではありません。何よりも重要なのは生徒たちの身の安全、生徒たちが安心して授業を受けられる環境作りです」


「だがその点を狙って第四課題と第五課題では敵側に攻撃能力を与えたのではないか。しかし第四課題ではそれも防がれてしまった。第五課題でも同じ結果になるのではないか?」


「それはレオも『ゴーレムや小ドラゴンに攻撃能力を与える』と予め知っていたからです。ですがレオも知らない不慮の事故が起きたとしたら?」


そう言ってもじゃ頭はニヤリと笑った。


「なにか策があるのだな?」


赤マントも期待を込めた目でもじゃ頭を見る。


「実は……」


もじゃ頭が耳打ちをすると、赤マントは納得したように頷く。


「それならば、レオにもどうにも出来ないかもしれないな」


「ええ、既に仕掛けは仕込んでいます。これであの下等な異世界人をこの学校から追い出してやります」


もじゃ頭はそう言って、嫉妬に狂った目で虚空を見つめた。

――――――――




午後になって最後の実技課題『魔法探知』の試験が始まった。

学年主任より課題の説明が始まる。


「試験会場は学校から西の山岳地帯です。ブロンズ1から3までが、それぞれ山頂から北・西・南のエリアを探索して下さい」


(今度の試験場所は学校外か。しかもだいぶ遠いな)


俺は西の山岳地帯に目を向けた。

学園のある島を取り巻く湖の、さらに西側位置する山脈は、頂上部は荒い岩肌を見せている。


「各エリアには三体の小ドラゴンの巣があります。諸君らはそのドラゴンの巣を探し出し、巣にあるドラゴンのウロコを持ち帰る事で目標達成となります」


ドラゴンには種類は沢山あるが、その中でも比較的おとなしく人目に付きやすいのが小ドラゴンだ。

大きさは人間の背丈ほどで、それほど恐ろしい相手ではない。

ただし小型のドラゴンは魔法エネルギーも小さく、巣は中々発見できないのだ。

魔法探知の能力を試すにはうってつけの存在だろう。


「なおエリアまでと探索の移動には、フライング・トロッコを使います。ブロンズレベルの生徒ではフライング・トロッコは操れないので、その操縦と試験監視のため、それぞれ教師が一人ずつ着きます」


それを聞いて隣にいたフリージアが立ち上がった。


「それでは、行ってきますね」


彼女がブロンズ3の監督官となるのだ。


「よろしくお願いします」


俺は頭を下げた。


実は教頭たちが仕掛けて来るとしたら、この監督官でブロンズ3を不利になるような教師を付けると俺は思っていた。

だが意外な事にそこは単に希望者を募る形となり、フリージアが志願してくれた。

彼女なら俺も安心だ。


(だとしたら赤マントは何を仕掛けて来るつもりなんだ? 必ず何かの妨害はしてくるはずなんだが)


立ち去るフリージアの後ろ姿を見ながら、俺はそう考えていた。



各クラスの代表者が、監督官の教師と一緒にフライング・トロッコに乗る。

この実技試験では各クラス一名しか代表者を出せない。

フリージアと一緒にトロッコに乗った田村梨花は楽しそうだ。

会場に向かってダブルピースをするなど、ギャルっぽい明るさを振りまいている。


(ま、魔法を楽しめるっていうのは上達のための早道だしな)


俺はそう思いながら彼女を見る。


「それでは試験開始!」


学年主任の声と共に、三台のフライング・トロッコは宙に浮いた。

横一直線に並んで西の山岳地帯を目指して飛ぶ。

いつものように放送部の実況中継が流れる。


「さぁ、ここからはフライング・トロッコに取り付けられた全方位カメラの映像での観戦となります!」


会場に巨大なマジック・スクリーンが現れ、そこに三台のフライング・トロッコからの映像が映し出された。

それ以外にも手元のマジック・パッドでも映像を確認できる。


「魔法探知の解説にはゴールド1のミリエルさんに来ていただきました。ミリエルさん、よろしくお願いします」


「ゴールド1のミリエル・マーリエナです。よろしくお願いします」


「今回の実技試験のポイントはなんですか?」


「いかに正確に小ドラゴンの魔力を感じ取れるかです。なにしろ小ドラゴンは魔力が少ない。他のドラゴン、例えば中ドラゴンやファイヤードラゴン、ウィンドドラゴン、ウォタードラゴンなどの魔力に紛れて発見しにくいのです」


「なるほど、確かに他に魔力の強いドラゴンがいたら、小ドラゴンの魔力は感じ取りにくいですもんね」


「ええ、それに間違って強力なドラゴンの巣に向かって、そこをドラゴンに見つかったら大変な事になります」


「確かに! フライング・トロッコに武装はないし、そんな状況でドラゴンに襲われたくないです」


「それとグラウンドワームの存在が厄介です」


「グラウンドワームって、あのでっかいミミズですか?」


「グラウンドワームは名前はミミズですが、れっきとしたドラゴンの一種なんです。危険性はあまりないんですが、山の中だとそこら中の土の中にいます。その魔力の気配が小ドラゴンと似ていて判別がつきにくい」


「それは確かに、標的を見つけにくくなりますね」


「ええ、だからいかに正確に、小ドラゴンの魔力だけを感じ取れるかという魔法探知の正確さが求められます」


「あ、お話の途中ですが、そろそろ各クラスのフライング・トロッコが目的のエリアの到着したようです」


会場のマジック・スクリーンにも三つのトロッコとその周辺の風景を映し出している。


「ブロンズ1と2のクラスは、さっそく探索に乗り出していますね。クラス代表が精神を集中させながら、ゆっくりとトロッコを進めているようです。それに対してブロンズ3は山頂付近から動きません。なにやら考えてはいるようですが、魔法探知の準備でしょうか?」


「さぁ、スクリーンの映像だけではわかりません。でも今までブロンズ3は私たちが考えもしなかった方法で実技課題をクリアして来ました。今回もきっと何か素晴らしいアイデアでこの魔法探知試験をクリアしてくれるんじゃないかと、私は期待しているんです」


「ミリエルさんはブロンズ3を応援しているんですか?」


「ええ、だって彼らの課題のクリア方法はとてもユニークだし、勉強になると思うんです。一つの方法がダメだからって諦めないで、自分に出来る方法で最善を尽くす。さすがはレオ先生が担任のクラスだと、みんな感心しています」


「私も同じ思いですが、解説者としては公平にお願いしますね」


「それは大丈夫です。それに私がえこひいきをした所で、点数は変わりませんから。あ、ブロンズ3の生徒、何か魔法を使いだしました」


「本当だ。これは……なんだ? 宝石? アクセサリー? なんかそんなものをたくさん作り出していますけど」


「物質変成ですね。技術的には凄いと思いますけど、それを周囲にばら撒いて何をしたいのか……」


「山頂付近は岩だらけで草木はまばらですよね。遠くからでも目立つとは思いますが」


俺はそれらの放送を楽しく感じながら聞いていた。

そう、これが俺が田村梨花に与えた作戦だ。

彼女は宝石やアクセサリーを作り出す魔法に長けている。

自分でもヒマがあればその魔法で、アクセサリーを作っては身に着けて楽しんでいるようだ。


もっともこの魔法は一時間で元の木や土や石ころに戻ってしまう。

俺はこの元に戻る時に、特殊な細工をする魔法を彼女に伝授した。


(後はじっと待っていればいい)


そう思いながらマジック・スクリーンに映る、楽しそうな梨花の横顔を眺めた。

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