第20話 月例試験・実技課題2(千里眼魔法)
実技試験の二番目は「千里眼魔法」だ。
課題は「森の中に隠された百個の石板を、どれだけ多く見つけられるか」だ。
対象となる石板の大きさは縦50センチ横30センチほど。
そこに書かれている文字を正確に読み取れれば「目標発見」となる。
なお一度発見された石板は色が赤く変化し、それ以降で誰かに発見されても得点にはならない。
最初に見つけた人間にだけ、点数が入るという訳だ。
「各クラス、第二課題の代表者は所定の場所に集合してください」
先ほどと同様に学年主任の言葉により、ブロンズ1・2のクラスからは二名の生徒が、
ブロンズ3からは鈴原茜が進み出る。
(茜、頑張れよ。自信を持って挑めば大丈夫!)
俺の心の中のエールが届いたのか、茜は俺を見上げてニッコリと微笑んだ。
全員が所定の位置に並ぶ。
各生徒の後ろには術者が見つけた石板を得点する係の教師がついた。
「それでは千里眼魔法・実技試験を開始します。制限時間は三十分です。試験開始!」
学年主任の開始合図と共に、五人全員が一斉に呪文を唱え始める。
それと同時に、やはり放送部からの実況中継が流れた。
「こちら放送部のレッシです。本日の第二試験『千里眼試験』がこれより実施されます。解説者にはゴールド1のソーニャさんに来て頂きました。ソーニャさん、よろしくお願いします」
「はい、ゴールド1のソーニャです。こちらこそよろしくお願いします」
「千里眼魔法のポイントは何でしょうか?」
「第一には、一度の呪文詠唱でどれだけ広い範囲を見る事ができるか、でしょうね」
「つまり魔法エネルギーによる視界の広さがポイントと言う事ですね」
「はい、でもそうだけではありません。千里眼によって見える映像の精細さも重要です。せっかく目標物が見えても、石板か、それとも普通の石が、その違いが分からなければ意味がないですから」
「そういう意味でも、石板に書かれている文字が正しく読み取れねばならない、というのは意味がありますね」
「その通りです。だからざっと見ているだけではダメで、かなりの集中力必要とされるんです」
「そうなるとかなり難易度が高い課題ですね」
「広い視野を得られる魔法エネルギー、その映像を詳細に映し出せるコントロール力、さらには千里眼による映像から対象物を発見できる集中力。これらを総合的に試される高度な試験なんです。おや?」
「どうかしたんですか、ソーニャさん」
「いえ、小声だからよく聞こえないんですけど、ブロンズ3の生徒だけ、詠唱する呪文が違っているような気がするんです」
「そうなんですか? そう言えばブロンズ3の生徒の周りには、いつの間にか鳥が集まっていますね」
「鳥だけじゃなくってリスやネズミなんかの小動物も……あ」
「なにか分かりましたか?」
「彼女が唱えているのは、千里眼魔法じゃなくって、動物たちを操る魔法では?」
(さすがは魔法エリートのゴールド1の生徒だな。もう茜の魔法を見抜くとは)
放送を聞いて俺はニヤリとした。
そう、彼女が気づいた通り、茜が使っているのは鳥や動物と会話する魔法だ。
それだけではない。
茜は意識を共有した動物たちと五感を共有する事ができるのだ。
つまり動物たちが見たもの、聴いた音、嗅いだ臭い、その全てが茜に伝わって来る。
「じゃ、お願いね」
茜がそう言うと、周囲にいた動物たちは一斉に森に走り出した。
その中には放送にあった鳥やウサギ、ネズミだけではなく、キツネやイタチのような中型の動物も含まれている。
それから三分も経たない内に、茜はマジック・ボードに何かを書き出した。
茜の後ろにいる教師が、その内容を確認して「ブロンズ3、石板C5を発見」と告げた。
ブロンズ1・2の生徒が驚いた表情で茜を見る。
他のクラスの生徒はまだ一枚も発見できていないからだ。
教師たちも一様に驚きの表情を見せている。
放送席も同様だ。
「お~っと、これは、ブロンズ3の生徒、さっそく石板を一つ発見したようです」
「これは早いですね。もっともたまたま一枚発見できた可能性もありますが」
(たまたまじゃないんだな、これが)
それを聞いた俺は一人ほくそ笑む。
そう思っている間にも、実況担当者の放送が響いた。
「あ~、ブロンズ3の生徒、二枚目の石板を発見しました!」
「これは……かなり早いペースです。偶然じゃないとすると、彼女は優れた千里眼魔法の持ち主です。もしかしたら私に匹敵するかも……」
ゴールド1のソーニャでさえ驚きと感嘆の声を上げる。
その後も茜は次々に石板を発見し、点数を増やしていく。
その度に実況解説者が「信じられない!」を連発する。
その放送によってブロンズ1と2の生徒は、余計に集中力を乱されているようだ。
彼らは必死になって千里眼魔法に力を注ぎ込もうとしているが、逆に魔力が乱れてしまっているのが分かる。
俺はなんだか彼らが可哀そうになっていた。
「ブロンズ3の生徒、なぜ彼女だけが次々と石板を発見できるのでしょうか? 他のクラスは二人で分担しているのに、どうして彼女一人に勝てないのか? まるでブロンズ3の生徒は複数の目でも持っているかのようです」
それを聞いていた解説のソーニャが唸る様に答えた。
「どうやら彼女が使っているのは千里眼魔法ではないようです」
「えっ?」
「彼女は動物の使役魔法を使っていると思われます。そして動物たちに石板を発見させ、動物の目を使って石板の文字を読み解いているんでしょう」
「まさか、そんな方法が……」
「だから他のクラスが二人がかりでも勝てないんです。何十匹という動物や鳥たちが相手ですから。ブロンズ3の生徒は動物や鳥が見つけた石板をチェックするだけでいい。だから集中力もそれほど途切れないのかもしれません」
(さすがはゴールド1のソーニャだな。もう茜の魔法を見抜いている)
ソーニャの言う通り、茜は動物の使役魔法を使っているのだ。
だが茜の使役魔法は単に動物を操るだけではない。
動物たちと心を通わせ、その五感までを共有している。
動物たちは積極的に石板を探し、それを茜に伝えている。
よって茜は他のクラスの生徒ほど、魔力を消費しないし、精神的にも疲れない。
後はソーニャが見抜いた通りだ。
他クラスと茜との点差はどんどんと開いて行く。
放送席のソーニャの押し殺したような声が聞こえた。
「この方法で勝負されたら、私でも彼女に勝てるかどうか分からない。千里眼魔法以外に、広範囲の索敵にこんな方法があったなんて……」
そして三十分が経過した。
学年主任より「試験時間終了」と告げられる。
ブロンズ1と2の生徒たちは、いずれも精神的に疲労しきっていた。
それに対し、茜は楽し気な表情さえ浮かべている。
「得点を発表します!」
学年主任がそう告げた。
もはや点数を聞くまでもないが……。
「ブロンズ1、25枚」
「ブロンズ2、11枚」
「ブロンズ3、64枚」
会場全体がどよめいた。
圧倒的な大差だ。
ダブルスコア以上の点差がついている。
俺は赤マントともじゃ頭がいる席を見た。
もはや二人は言葉すら出て来ない。
もじゃ頭は青い顔で口をポカンと開け、赤マントはワナワナと震えていた。
鈴原茜は明るい表情で、俺に手を振りながら試験場を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます