第19話 月例試験・実技課題1(遠隔攻撃魔法)
月例試験二日目の午前。
実技課題の第一発目は「遠隔攻撃魔法」だ。
課題は丘に建てられた数々の標的を、魔法によって制限時間内に破壊する事。
それぞれの標的は難易度に応じて、1点、2点、3点、5点、10点と上がっていく。
最高は20点の標的だ。
また2点以上の標的に関しては、遠隔魔法に対する防御魔法も施されている。
最終的に合計得点で評価が決まる。
なお試験の様子は、放送部により各クラスに魔法中継されている。
「各クラス、代表者は所定の場所に集合してください」
学年主任の言葉により、ブロンズ1・2のクラスからは二名の生徒が、
そしてブロンズ3からは片桐銀太が前に出て行く。
その途中、片桐が教師席の俺を見た。
彼は軽く右拳を掲げて見せる。
(大丈夫だ。片桐は自信を持ってこの試験に挑んでいる)
五人の生徒が攻撃開始位置に並ぶ。
丘の上には数多くの標的が立っている。
距離は近い物で十メートル、遠い物では三百メートルほどあるだろう。
「それでは遠隔攻撃魔法・実技試験を開始します。制限時間は十分です。試験開始!」
学年主任の教師の言葉が響いた。
ブロンズ1・2の四名の生徒が、一斉に腕を突き出し、呪文詠唱に入る。
だがそんな中、一人片桐だけが丘に向かって走り出した。
放送部の実況担当者が試験状況の解説を始める。
「こちら放送部のレッシです。本日の試験状況の実況を務めます。解説者にはゴールド1のヨハシュムさんに来て頂きました。ヨハシュムさん、よろしくお願いします」
「ゴールド1のヨハシュムです。よろしく」
「ブロンズ1のエイダ君、ロイ君、ブロンズ2のライネさん、ジョーンズ君、それぞれ呪文の詠唱を始めました。これはなんの魔法を使うのでしょうか?」
「ブロンズ1の二人が使おうとしているのは、広範囲の散弾攻撃魔法ですね。これなら得点の低い標的を一度に数多く破壊する事ができます。それによって他クラスが得点する事を妨害する事ができます。欠点としては魔法エネルギーの消費が大きい事ですが、上位クラスが下位クラスを相手にする時は、上手いやり方と言えますね」
「なるほど。自分達よりレベルが低いクラスなら、点数の高い標的を狙うのは難しいですものね」
「そうです。だから広範囲の散弾攻撃魔法で1~2点の標的を破壊しておいて、後から3点以上の標的をじっくりと破壊すればいい。2点以上の標的は防御魔法が施されていますから」
「それに対しブロンズ2は最初から一射一標的を狙う狙撃タイプの魔法を使っていますね」
「おそらくブロンズ1が広範囲の低得点標的を破壊する事を予想しているんでしょう。それで最初から3点以上の標的を狙っている。こちらも上手いやり方です」
「ところでブロンズ3の生徒はいきなり標的に向かって走り出しましたよね。これはどうしてでしょう?」
「さぁ、わかりません。さきほど2点以上の標的には防御魔法が施されていると言いましたが、3点以上だとその中に迎撃魔法も含まれていると聞きます。よって近寄って標的を破壊する作戦は危険なので誰もやりません。他の試験者に撃たれる可能性もありますしね。それに素手で標的を破壊しても得点になりませんし、そもそも素手で破壊できるようなものではありません」
放送部の実況中継を聞きながら俺は思った。
(彼らの言う事は正論だ。だが正論に拘っていてはブロンズ3に勝ち目はない。そして欠点を踏まえた上で作戦を立てれば、決して逆転勝利も夢ではない)
「ブロンズ3の片桐君、1点標的のエリアに到達しました。しかし1点の標的には見向きもせず、そこを走り抜けていきます」
「そもそも1点標的は既に半数がブロンズ1の生徒によって破壊されています。彼がその攻撃に巻き込まれない事を祈りましょう」
(大丈夫だ。片桐の反射神経の良さなら、ブロンズ1の散弾攻撃くらいなら躱せる)
俺の期待通り、片桐はブロンズ1の広範囲散弾攻撃を難なくかわしていく。
そして2点標的エリアも突破し、3点標的エリアに到達した。
「ブロンズ3の片桐くん、3点標的エリアに到達しました。だけどここまでただ走り抜けて来ただけで、まだ1点も獲得していません。彼は何をする気でしょうか?」
「おそらく高得点の標的を出来るだけ距離を縮めて攻撃したいのでしょうけど、難しいでしょうね。確かに距離を縮めれば威力は増すし狙いも正確になります。しかし3点以上の標的には迎撃魔法がありますから、そんなに簡単には行かないんです」
ゴールド1の生徒の解説の通り、3点エリアに入ると標的自身が近づく片桐に防衛魔法として光弾を撃ちだし始めた。
だがまだ散発的な事もあって、その光弾を片桐は巧みの避ける。
3点標的エリアを突破した片桐は5点標的エリアに突入した。
「ブロンズ3の片桐くん、ついに5点標的エリアに突入しました。だがまだ走り続けています!」
「制限時間も既に3分を過ぎていますからね。このままだと彼は無得点で終わる事になりそうです」
(いや、このままでいい。時間は5分もあれば十分過ぎる)
俺は片桐が走る姿を凝視し続けた。
もうすぐ10点標的エリアに到達する。
勝負はそこからだ。
「ブロンズ3の片桐くん、ついに10点標的エリアに到達しました。ですが、これは無謀です。各標的から迎撃魔法の光弾が無数に彼に向かって発射されました!」
実況者の言う通りだ。
大量の光弾が片桐に向かって飛ぶ。
だが片桐はその光弾を、躱し、弾き、逆に拳で撃ち落とす。
普段から片桐は授業で、俺の光弾攻撃を躱す練習をしていた。
この程度の光弾なら躱せるはずだ。
片桐はジリジリと10点標的に近づいて行く。
そして至近距離に近づいた時、得意の右ストレートを一閃。
10点標的を破壊した。
「なんと、ブロンズ3の片桐くん。10点標的を破壊しました!」
閲覧席の生徒も、そして教師たちからも、思わずどよめきが走る。
その後も片桐は、10点標的に近づいては破壊を繰り返した。
標的から発射される光弾は、威力自体は俺の練習用光弾の半分程度だ。
片桐がその程度の光弾を恐れる事はない。
唯一不安なのは、他クラスの生徒による魔法の誤射だ。
だが生徒同士の魔法攻撃は禁じられている上、それを破ると失格で0点となる。
だから他生徒が片桐を狙って撃つ事はない。
むしろ避けるだろう。
そして片桐自身も他の生徒に撃たれないように、開始位置には背を向けないようにして常に気を配っている。
片桐はどんどんと10点標的を破壊して行った。
他のブロンズ1・2の生徒も焦って高得点標的を狙おうとするが、遠距離の場合は防御魔法が効果的に働いており、片桐ほどの早さで標的を破壊する事ができない。
10点標的をほぼ破壊した後、片桐は20点標的に向かった。
そして最初の20点標的を破壊した時、制限時間終了のブザーが鳴り響いた。
「遠隔攻撃魔法の実技試験、終了です。それぞれ魔法を停止して下さい」
ブロンズ1・2の生徒が呆然とした様子で魔法を停止し、その場に立っている。
片桐も丘の上からゆっくりと降りて来た。
その肩は激しく上下している。
(かなり苦しかっただろう。頑張ってくれたんだな、片桐)
俺は心の中で彼に感謝を告げる。
彼が攻撃開始位置に戻った時、得点が発表された。
「ブロンズ1、合計188点!」
さすがにブロンズ1は高得点だ。最初に低得点標的を散弾魔法で数多く破壊した分がかなり得点している。
「ブロンズ2、合計123点」
ブロンズ2は思ったよりもブロンズ1に点差を付けられてしまったようだ。
3点以上の防御魔法がある標的を一つずつ破壊するというのが、やはりネックになったようだ。
そして最後に片桐の得点……。
「ブロンズ3、合計190点!」
観客席全体からどよめきと共に歓声が沸いた。
「うっしゃぁ~~~!」
片桐も両拳を構えてガッツポーズをとる。
そして俺がいる教師席では、赤マントともじゃ頭が呆然とした表情でそれを見ていた。
「まさか……そんな馬鹿な……こんなはずは……」
赤マントの口から虚ろな声が漏れる。
俺はそれを聞いた時、思わず口元が緩むのを押さえられなかった。
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