第18話 初めての月例試験
ついにレベル統一の月例試験の日がやって来た。
試験は三日間をかけて行われる。
初日は筆記試験、二日目と三日目が実技課題試験だ。
筆記試験については、フリージアが補講授業を行って対策プリントを作ってくれた。
それをマジック・ボードを使って、俺の授業をボイコットしている生徒にも回して貰う。
おそらくそれで、みんなソコソコの点は取ってくれるだろう。
茜と千華に関してだけ言えば、学年でも上位の成績を取れるとフリージアが断言してくれた。
(問題は二日目からの実技課題試験の方だよな)
俺は三日前の夜にウルタ・バーレン上級曹長の報告を思い出していた。
……………………
「どうやらレオ大尉の失敗を願っているのは、ハンス・シュナイダー教頭とニコライ・ニコラウス教諭のようです」
「やっぱりあの二人か」
俺はそう答えた。
実はウルタ上級曹長には、授業で俺に着かずに他の仕事を頼んでいたのだ。
理由は……『ブロンズ3の生徒が俺の授業をボイコットした事を、彼女が激怒した』からだ。
「我が王国魔法軍の中でも五百年の一度の傑物と言われるレオ大尉の名誉ある授業を、ボイコットするなんてなんて不敬で無礼な連中なのか!」
怒りの震えた彼女は「私がその連中に鉄槌を下して来ます!」と飛び出していきそうになったのだ。
俺は大慌て、かつ全力で彼女を止めた。
そしてまずは「俺が魔法学校に来る事になった経緯を調べ、何か裏があるか調べて欲しい」と命令を出した。
彼女の頭をクールダウンさせるために、魔法学校を離れて魔法省と軍本部に調査に行ってもらったのだ。
彼女が戻って来たのは五日前だ。
次に与えた任務は「俺とは別行動で、密かに学校内部の様子を探る事」だ。
獣人であるウルタ上級曹長の聴覚は普通の人間の五倍、嗅覚は50万倍だ。
その上、音を立てずに歩く事ができ、階段などなくても三階くらいまでなら一気に飛び上る事ができる。
彼女は諜報活動でも優れた能力を発揮するのだ。
「彼らはどんな画策をしているか分かったか?」
「具体的な事はわかりませんでした。だけどレオ大尉がブロンズ3のクラスの指導を失敗する事で、レオ大尉を早く軍に追い返し、またブロンズ3の生徒が成長しないのは自分達のせいではない、と言う事にしたいようです」
「そういう事か。まぁ自分達の指導能力が悪いのではなくブロンズ3の生徒が悪い、と言いたいのは予想していたけどな。でも俺を早く追い返したいのは何故だ。黙っていても俺は一年後には軍に戻るのに」
「それは彼ら二人がフリージア教師に異性としての好意を持っているからです。そのため、彼女との仲がいい大尉の存在が邪魔なのでしょう」
「そんなくだらない理由か……」
俺は思わず頭を抱えた。
イイ歳をしたオッサン二人が何をやっているんだか。
確かに俺だってハーフエルフの美人教師と一緒にいる事は楽しいし嬉しい。
だがそれに嫉妬して、仮にも同僚の教師を陥れようなどみっともないにも程がある。
呆れかえっている俺に、ウルタの報告は続く。
「それと実技試験の課題内容がわかりました」
俺を顔を上げた。
それを聞いて試験でブロンズ3の生徒に有利にするのは、教師としては間違っている。
だが向こうがそんな低レベルな理由で生徒の成績をダシにして俺を陥れようとするなら、コッチも多少はズルをしても許されるだろう。
そもそも同じ教師である俺にさえ、試験内容を伝えないこと自体に悪意を感じる。
「教えてくれ」
「まず第一に、各試験科目についてはクラスの代表者が受験すればいいそうです。ただし同一人物が二科目以上の実技試験に参加する事は禁止されています」
「そうだろうな。一人で何科目も試験に参加できると、魔法が得意な生徒が一人いるだけでクラスの得点が変わる事になるからな」
「次に遠隔攻撃魔法の試験については、山の斜面に建てられた標的を破壊するそうです。破壊の難易度によって点数が異なります」
「なるほどね、他は?」
「千里眼魔法については、森の中の隠された対象物をより早く、より多く発見する事。念動魔法については制限時間内に対象物をどれだけ多く集められるか。魔法解呪法については、向かって来る複数のゴーレムを出来るだけ食い止める事。魔法探知に関しては西の山脈にある小ドラゴンの巣を発見する事。以上です」
「遠隔攻撃魔法、千里眼魔法、念動魔法、魔法解呪法、魔法探知か。どれをとってもブロンズ3の生徒じゃできそうもないな」
考え込む俺を見て、ウルタ上級曹長は心配そうな表情になる。
「するとブロンズ3の生徒は、実技試験は全員0点で終わると?」
しかし俺は顔をあげて彼女を見る。
「いや、そうはならない。俺に考えがある。逆に彼らの鼻を空かせてやるよ」
俺はそう言って不敵に笑った。
ウルタ上級曹長の話を聞いた翌日の授業で、俺は実技試験の代表者を発表した。
「今から月例試験の実技課題試験の代表者を発表する」
俺の授業に参加している七人が緊張した様子で俺を見る。
「遠隔攻撃魔法、片桐銀太」
片桐が頭の後ろで組んでいた手を放して目を向いた。
「遠隔攻撃魔法に俺? どうしてだ?」
俺は構わず発表を続ける。
「千里眼魔法、鈴原茜」
茜も目を丸くする。
「念動魔法、原千華」
「え、あたし?」
「魔法解呪法、神原亮介」
「なんで俺が魔法解呪?」
「魔法探知、田村梨花」
「ちょっ、待ってよ。アタシが出来るのは宝石とかアクセサリーを作り出す魔法でしょ。それがなんで魔法探知?」
そう、田村梨花は練習の結果、物質を変成させて他の物を作る事ができるようになっていた。
と言っても作り出せるのはなぜか、宝石だのアクセサリーだの装飾品ばかりだ。
しかもモノは一時間程度で元の物質に戻ってしまう。
おそらく梨花が普段から心の底で「欲しい」と思っているものしか作り出せないのだろう。
今のところは……
「俺は魔法を解除する方法なんて全く知らないよ」
「私だって念動魔法なんて使えない。どうしてあたしなの?」
「このままじゃ実技試験はみんな0点になっちゃうよ。どうして代表者がこうなったの?」
「衛藤、もしかしてもう試験は捨ててるのか? ヤケクソなのか?」
みんなから一斉にブーイングが飛んだ。
無理もないだろう。
何しろ誰もかれもが、全く使えない魔法課題の試験に挑むのだから。
「なにか理由があるの? それを教えて、衛藤くん!」
茜の問いかけ答える前に、俺は全員の顔を見渡した。
みんなが試験に対して本気になっている事がわかる。
それだけで十分だ。
「これから俺が言う事をよく聞いてくれ。そうすればきっと試験をクリアできる。それも高得点でな」
……………………
筆記試験が開始される。
さすがにこの時だけは、クラスのメンバー全員が揃っていた。
試験監督は俺ともう一人別の教師が行っている。
(みんな頑張ってくれよ)
俺はそう心の中で祈っていた。
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