第13話 対決、ヤンキー片桐(前編)
「なるほど、それがおまえたちが授業に出ない言い訳って事だな」
俺はドアを開いてホールに足を踏み入れた。
クラス全員の視線が俺に向けられる。
中でも飯島と秋山の表情が強張った。
「衛藤……」
秋山の口から小さく俺の名が漏れる。
そんな秋山に向かって俺は意地悪い笑みを浮かべた。
「俺の魔法が信じられないんだって? 素人が危険な武器を振り回しているんだって?」
秋山は口をモゴモゴを動かしたが、言葉が出て来る事はなかった。
「正直な所、俺はみんなが授業に出て来ようが来まいが、ドッチでもいいと思っていたんだ。魔法なんて無理やりに言われて身に着くようなもんじゃないからな」
そこで俺はクラスの連中の顔をぐるりと見渡した。
一人一人の反応を見たかったのだ。
俺と視線が合いそうになると慌てて下を向くヤツもけっこういる。
やはり思った通り、全員が全員、飯島たちに賛成している訳じゃない。
「だけど今の俺は軍人だ。その軍人が魔法士としての能力を疑われたんじゃ、これは証明して見せるしかないよな」
それを聞いた飯島が問い返す。
「証明して見せるって、どうやるんだよ」
俺は右手を揚げると、虫を弾き飛ばすように人差し指を弾いて見せた。
光の玉が飛び、テーブルの上に置かれていた本が軽く吹っ飛ぶ。
「俺がいかに正確に魔法を使えるか、威力をコントロールできるかを身を持って体験させてやるよ。」
「身を持って体験させるだと?」
飯島の顔に緊張が走る。
「そう。おまえたちは十メートル離れた場所から近づいて来て、俺に触れれば勝ちだ。それに対し俺はおまえたちを近づけないように、この光の弾を撃ちだす。威力はいま見せた通り、軽く殴られるくらいの衝撃がある」
「そんな、それじゃ圧倒的におまえの方が有利じゃないか!」
飯島が金切り声を上げた。
「当たり前だろ。俺はこの世界でも指折りの魔法士なんだ。最初からオマエなんかに勝ち目はない。だけど少しでも差を無くすために、他の魔法は一切使わずにこの光弾魔法だけで勝負してやるって言っているんだ」
「馬鹿を言うな! なんで俺たちがそんな勝負をしなきゃならないんだ。勝手に決めるな!」
「ソッチが言い出した事だろ。俺が魔法の素人だって。だからそれを証明するしかないんだよ。別にソッチがやらなくても、俺が勝手に選んで仕掛けてもいいだけどな」
飯島の顔から血の気が引いた。
「お、俺は衛藤が魔法の素人だなんて言ってない。それを言ったのは秋山だ」
飯島のその言葉に、今度は秋山の顔色が変わる。
俺は秋山を見た。
「そうだったな。さっき『俺の魔法が信じられない』って言ったのは秋山、おまえだったよな? だったら最初の挑戦者は秋山で決まりだな」
「ふ、ふざけんな! 俺たちはオマエの魔法なんて信じれないんだ! それが威力が制限されているって、どうして分かる?!」
秋山が悲鳴に近い声で反論する。
「それはここにいるフリージアが見ていてくれるよ。俺が他の魔法を使ったりしない事もな。それから正確さについてだが、俺は予め狙う所を宣言してから光弾を撃つ。俺の狙いが少しでも外れたら、それもおまえらの勝ちでいい」
「俺たちが勝ったら、どうしてくれるんだ?」
飯島が測るような目でそう尋ねた。
この場では秋山が挑戦者に選ばれそうなので、少し安心したようだ。
「おまえたちが勝ったら、俺は自ら担任も教師も降りる。この学校から居なくなるよ。それでどうだ?」
飯島が思案するような顔をする。
だがそれも一瞬だった。
すぐに秋山の方を見る。
「衛藤もこう言っているんだ。秋山、勝負しろよ」
だが秋山はイヤイヤをするように首を左右に振った。
「イ、イヤだ。俺はやらない。衛藤はこの機会に俺を殺す気なんだ! 絶対に嫌だ!」
秋山は脅えた目で俺を見ながら叫ぶ。
そんな彼を見ながら、俺は諭すように言った。
「さっき魔法は見せただろう。死ぬような威力じゃない。そして魔法に不正がないかどうかはフリージアが監視している。何も問題ないはずだ」
「ウソだ! オマエは絶対にここで俺を殺す気なんだ!」
「ホウ、どうして俺はそこまでして、秋山を殺さなければならないんだ? 何か俺に殺されるような理由でもあるのか?」
秋山が引き攣った表情で、再び口だけをモゴモゴと動かす。
そして身体を翻すと、その場から逃げ出そうとした。
だがそれを素早く飯島が押さえる。
近くにいた男子二人も、秋山の身体を掴んだ。
「秋山、ここで逃げる訳にはいかないだろ!」
「い、いやだ、俺はいやだ!」
「クラスみんなのためなんだぞ!」
「いやだいやだいやだ、誰か、助けてくれぇーーーっつ!」
秋山はその場にしゃがみ込んで泣き出し始めた。
俺はそんな彼を憐れみの目で見下ろす。
さすがにこれ以上、彼を虐めるのは可哀そうだ。
「秋山はこんな調子じゃ勝負にならないな。誰か他に挑戦者はいないか?」
俺はそう言って再びクラスの連中を見渡した。
そして一人のクラスメートに目を止める。
実は俺がこんな事を言いだしたのは、最初からこのクラスメートが目的だったのだ。
きっとコイツは挑戦してくるだろうと。
「なんか俺に用か?」
俺が目を止めた生徒、ヤンキーのリーダーである片桐銀太がふてぶてしい口調でそう言った。
「秋山はこんな調子だし、みんな俺にビビッて挑戦すらできないのかと思ってね。いやはや、こんな情けない連中が同じクラスだったなんてガッカリだよな」
片桐の目が光った。
「言うじゃねぇか。ちょっと魔法を身に着けたからって図に乗ってんじゃねーぞ」
「ちょっとだと? 俺の魔法がちょっとかどうか、アンタが試してみるか?」
「いいだろう。挑発に乗ってやるよ」
片桐はクラスメートをかき分けるようにして前に出た。
思った通りだ。
彼だけはこう言えば挑戦してくると思ったのだ。
フリージアがハラハラした様子で俺に言った。
「レオ先生。いくらなんでもこんな事は……これじゃあまるで決闘みたいじゃないですか」
「決闘みたい、じゃなくてある意味決闘ですよ。俺がこの学校に残るかどうかのね」
「そんな事を勝手に決めるなんて……片桐くん、アナタもレオ先生に挑戦だなんて馬鹿な真似は止めなさい! 彼は王国でも指折りの魔法士なんですよ。勝てる訳がない」
フリージアはそう言って、今度は片桐の方を説得しようとした。
だが彼はフリージアを押しのけるようにして前に出る。
「それは出来ない。衛藤は秋山の後、俺を露骨に見ていた。コイツは最初から俺を相手にする気だったんだ。それならば俺は逃げる訳には行かない」
彼の言葉を俺は内心では嬉しく思いながら、フリージアに告げる。
「もうお互いにヤル気なんです。フリージアは俺が光弾以外の魔法を使わない事、それから彼に大ケガをさせるような危険な威力にならない事を見張っていて下さい」
それを聞いて片桐が吐き捨てる。
「ずいぶんと余裕だな。俺に大ケガさせないために、フリージアちゃんに見張っていてくれだと?」
「さっき言ったろ。今の俺とアンタとじゃ勝負にならないって」
「おもしれーな。言っとくが俺は手加減なんかしねぇぞ。触れるなんて事じゃすまさねー」
片桐は自分の右拳を掲げて見せた。
「俺のパンチをテメーの顔面に叩き込んでやるよ。その時になって泣きを入れても遅いからな」
「俺の魔法をそのパンチで弾き飛ばせるかな? 出来るなら見てみたいもんだ」
俺は嘲笑うようにそう言った後、少し距離を取った。
宣言通り十メートルほど離れるためだ。
(片桐はさっきの俺の挑発に誘導されてくれるかな?)
片桐から十メートルほど離れた所で左手を近くの林に向けた。
すると一本の倒木が浮き上がり、俺の手に引き寄せられるように静かに飛んで来た。
俺が左手を地面に向けると、倒木はそこに深々と突き刺さる。
クラスメートの中から「すげぇ」「やっぱり本物の魔法……」「こんなのに勝てるのか?」という声が聞こえた。
俺は倒木を背にして振り返る。
「じゃあ始めるか。フリージア、俺を見張っていてください」
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