第3話 同僚となる教師
校長室での話の後、アードレー校長に連れられて職員室に向かう。
職員室は俺の世界の学校とはかなり違う雰囲気だ。
事務所的ではなく、むしろ「魔法使いたちのサロン」と言った雰囲気だろうか。
だが机が四つずつの島になっている点は同じだ。
授業の準備に取り掛かっている教師たちだが、校長が職員室に入ると全員が手を止めて校長の方に向き直る。
そこで彼女は俺を手のひらで指し示した。
「こちらが近年、軍で抜群の戦果を挙げられているレオ・エイトー大尉です。本来ならレオ大尉とお呼びすべきですが、ここは学校ですので、レオ先生と呼ばせて頂く事にします」
「レオ衛藤です。なにぶん教師としては全くの未経験なので、皆さんよろしくお願いします」
俺はそう言って頭を下げつつ、全員の様子を伺った。
パっと見た中で、何人か特徴的な人物が目に入った。
黒髪のオールバックに赤いマントを羽織った中年の男、もじゃもじゃ頭でメガネをかけたあまり顔色の良くない男、角刈りで顔も体も四角って感じのいかつい男。
そんな中で一人だけ、そこだけ光っているように見える存在があった。
プラチナブロンドのロングヘアに透き通るような白い肌。
そして青い瞳。
この世のものとは思えない美貌の女性だ。
(普通の人より少し耳が長いな。ハーフ・エルフだろうか?)
俺が彼女に目を奪われていると、横から無粋なほど居丈高な声が聞こえた。
黒髪オールバックの赤マントの男だ。
「私がこの学校の教頭を務める、ハンス・シュナイダーです。専門は防御魔法と魔法武具について。実戦で鍛えられたというレオ先生のお手並みを、ぜひとも拝見したいもんですな」
言葉は俺に一応敬意を払っているように見えるが、内心では俺を値踏みしている事がわかる話し方だ。
その目つきを見ても、彼があまり俺を歓迎していない事は明らかだった。
実は軍にもこういう輩はいた。
俺が別世界からの転移者であり急激に昇進をした、という事で嫉妬心と共に俺の実力を疑っているのだ。
そうでなくても、この世界の貴族魔法士というのは気位が高い。
次に自己紹介をしたのはもじゃもじゃ頭でメガネの男だ。
「僕はニコライ・ニコラウス。魔法理論学と魔法薬が専門です」
自己紹介はそれだけだ。
そして見るからに陰気そうな目を俺に向けている。
「コイツも俺に反感を持っているな」と感じた。
そしてさらに敵意を露わにしたのが、次に自己紹介をした四角いいかつい男だ。
「ジャック・ガーランド。魔法と剣を合わせた戦闘、魔法剣術を教えている。かっては近衛師団に所属していた」
俺と同じ軍上がりか? なのになぜ俺を敵視する?
他の教師も次々に自己紹介をしていく。
彼らも俺に疑念半分、興味半分といった所か。
最後に美貌のハーフ・エルフが自己紹介をした。
「私はフリージア・マスケット。回復魔法と精霊学についてが専門になります。学校の事で分からない事があったら、何でも聞いて下さい。一緒に頑張っていきましょう。よろしくお願いします」
彼女が丁寧に頭を下げると、校長が付け加えた。
「フリージア先生は今までブロンズ3のクラスを受け持っていたんです。今日からレオ先生に引き継ぐ事になるのですが、そういう面でも彼女はアドバイスが出来ると思います」
それを聞いて俺もフリージアに向かって「よろしくお願いいたします」と頭を下げた。
その頭を上げた瞬間、教頭の赤マント=ハンス・シュナイダーともじゃ頭=ニラライ・ニコラウスが粘るような目で俺を見ている事に気づいた。
(何かあるのか?)
そう思ったが、校長の次の言葉で疑念を追い払う。
細かい事を一々気にしていても仕方がないだろう。
「それではレオ先生のデスクは、フリージア先生の隣がいいですね。クラス担任の引継ぎを行ってから、一緒に教室に向かって下さい」
「わかりました」
俺はアードレー校長に軽く頭を下げると、指定されたデスクに向かった。
場所はデスクの島の一番端になる。
俺は席に着く前に隣席の美貌のハーフ・エルフに「これからお世話になります。どうぞよろしく」と改めて挨拶した。
すると彼女はニッコリと微笑んで口を開く。
「そんな堅苦しくなさらないで。私の方こそ王都でも有名な大尉が同じ職場になるっていう事で緊張しているんですから。でもここでは同じ職場の同僚ですから、もっと気軽にお話できるようになりたいですわ」
まるで花が開くような笑顔だ。
彼女は美しいだけではなく、人を惹きつける可愛らしさがある。
「でもフリージア先生の言葉使いもかなり改まっていますよね?」
俺は少し照れ気味にそう言った。
こんな可愛らしい美人が自分に笑いかけてくれるのだ。
当たり前だろう。
「私の方はこれが普通の話し方ですわ。ですからレオ先生も普通の話し方でお願いします」
「わかりました。じゃあ俺の方は普通で。まず最初に聞きたいんだけど、ブロンズ3クラスは現在どんな感じ?」
彼女は少し難しそうな顔をする。
「う~ん、そうですね。どことなく倦怠感みたいな雰囲気があるようです」
「倦怠感?」
「ええ。自分から学ぼうとする意欲がないと言うか……一部の生徒からは『俺たちは才能はあるはずなんだから、さっさと魔法を上手く使える極意を教えろ』みたいな発言もあったりして」
(う~ん、そう来たか?)
俺も思わず考え込む。
確かに転移者はこの世界を救う勇者候補と見られている。
王国の歴史にも予言書にもそう書かれているし、実際に転移者は魔法エネルギーを秘めている者も多い。
俺は転移してすぐに囮として見捨てられたため、王都での待遇についてはあまり知らないが、聞く所によると転移者はかなり優遇されているらしい。
(強引に連れて来られた上、「未来の勇者だ」「救世主だ」ってチヤホヤされてきたんだ。そう考えるのも当たり前だろうな)
考え込む俺を見て、フリージアは慌てて付け加えた。
「み、みんながみんな、そんな風の考えているんじゃなくって……そんな風に言っている一部の生徒もいるって言うだけで……大半は真面目な子たちなんですけど……」
「そういう風に言っているのがクラスの中心人物たちだから、周囲に悪い影響を与えている……そういう事ですね?」
俺が補足するようにそう言うと、フリージアは一瞬だけ黙ってしまった。
「……そうでしたね。レオ先生は元の世界では、彼らとは席を並べたご学友なんですよね。もうだいたいの雰囲気はお分かりになっているんですね」
「予想の範囲でしかないですが……」
その時、教頭の赤マントが近くを通りかかった。
「お話中すまないが、そろそろ教室に向かう時間じゃないかね? 詳しい引継ぎは授業が終わってからでもいいのでは?」
なんか言い方が嫌味っぽい。
だがフリージアはすぐに立ち上がった。
「す、すみません。すぐに教室に向かいます。レオ先生、話の続きはまた後で。一緒に教室に行きましょう」
そう言って彼女は俺を促した。
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