第34話 仲間たちの想い
美緒さま……
ああっ、なんて美しく尊い……
俺はきっとこの方の為ために生まれた。
にっこりと微笑み限りない慈悲と愛情を注いでくださるこの方の為に。
美緒さまの笑顔を絶対に守り抜く。
※※※※※
俺はミルライナ。
ジョブは『抜け忍』のヒューマンとホビットのハーフ29歳だ。
凄まじい力が俺の体を駆け巡っている。
それもこれも美緒さまのおかげだ。
俺が親方たちと行動をともにするようになったのは7年前。
はずれジョブ『判定士』とかいう訳分かんねえ能力の俺はどこに行ってもつまはじき者だった。
ホビットの血が混ざっているせいか俺は体格に恵まれず戦いには向いていなかった。
おまけにジョブのせいか魔法すら使えない。
せいぜいできるのは鑑定士に全く及ばない物事の結果を判定する事だけだった。
死んでいる魔物を見て『これは3時間前に死んでいます。素材が取れます』とか言うどうでも良いクソ情報を見れる能力だ。
当然だれも見向きもしなかった。
もちろん俺だって必死だった。
血反吐を吐くような訓練のこなし、人が嫌がることだって進んで行った。
でも結局はコミュニティで孤立していく。
遂には邪魔者扱いされる始末。
そんな俺は故郷であるロダの町を飛び出し交易都市イリムグルドに流れ着いた。
人生ついてない時はとことんついてない。
俺はそこでリーディルの連中にカモられた。
暴行を受けなけなしの金を根こそぎ奪われ、路地裏に打ち捨てられたんだ。
「ははっ、うける。判定士?聞いたことのねえくそジョブはおとなしく存在を消しておくんだな?まあ、そんなスキルねえか?ギャハハハハ!!」
俺を馬鹿にし、つばを吐きかけ奴らは去っていった。
涙が出た。
てめえの情けなさに心底絶望した。
そんな時俺は親方に拾われたんだ。
「ああ?能力がしょぼい?関係ねえな。今弱えなら強くなりゃいいだけだ。まさかてめえ能力値カンストしてからそう言ってるんじゃねえよな?……ついてこい。あいつらにゃ借りがある。返すぞ。強くなったてめえと俺たちでな」
そう言ってニカリと笑う親方が、俺にはまぶしく見えたんだ。
そして俺はザッカート盗賊団の団員になる事が出来た。
嬉しかった。
初めて自分が生きている意味を感じ始めたんだ。
※※※※※
そしてつい先日。
美緒さまが俺に直接言葉をかけてきた。
最近の美緒さまは特にお美しく、近づくだけで緊張してしまう。
それなのにいきなり俺の手を取りあまつさえ顔を近づけじいっと俺の瞳をのぞき込まれた。
息がかかる距離にこの世のものとは思えないほど可愛らしいご尊顔がある。
おまけに何とも言えないかぐわしい匂いまで。
心臓が止まって死ぬかと思った。
「……やっぱり。……ねえミルライナ。一緒に魔物退治に行かない?……あなたの努力、形にする一助を担いたいの。お願い」
余りの緊張に何を言われたかよく分からなかったが俺は即座に頷いていた。
「ふふっ。嬉しい。……よろしくね♡」
にっこり微笑まれる美緒さま。
もう死んでもいい。
そう思うほどその笑顔は、破壊力がすさまじく俺の脳裏に焼き付いた。
※※※※※
「ヘルストーム!!おまけにギガフレイム!!とどめのレインストーム!!!」
なんだこれ……
俺達では1体でも厳しいギガントベアーの群れが……
一瞬で薙ぎ倒されていく。
「あっ、ミルライナ。あなたも戦って。そうすれば経験値分けられるから……矜持に沿わないことは承知しています。ごめんなさい。でも、私、あなたの真のジョブを見たいの。お願いします」
言われるままに剣を振るい1体のギガントベアーに毛ほどの傷をつけ、瞬く間に戦闘?いや蹂躙は終わった。
そして俺に激震が走る。
あり得ないほどの大量の経験値とともに脳内に今まで聞いたことのない声が響いた。
『……条件をクリアしました。魂に刻まれしジョブ『抜け忍』が解放されました……』
なんだ?
何が起きた?!!
『抜け忍』……はあっ!??
この世界、どういう文言であれ、キーワードは力を持つ。
その中でも特に強力な文字、忍の文字。
俺が生まれ変わった瞬間だった。
※※※※※
任命式―――
「……ロッジノとイニギア、それとミルライナ。……あなた達の力、貸してください」
そして俺は美緒さまの言う生命線、諜報部隊に任命された。
魂が震えるほどの喜びに俺は包まれたんだ。
「貴方はもっと強くなります。そして届く。……伝説のジョブ…『忍』に。期待しています」
任命式直後そっと近づいてきた美緒さまはそうおっしゃられた。
……これは天啓だ。
俺はミルライナ。
女神様の、いや美緒さまの忍になる男だ。
俺は今の自分が誇らしい。
同時に親方への感謝の気持ちが沸き上がる。
何でもなかった俺をここに導いてくれた…
だから何があろうと俺は成し遂げる。
絶対にだ。
※※※※※
「なあ、エイン。前から聞こうと思ってたんだけど……お前のスキル、どうなってんの?」
戦闘訓練を終えサロンでエール片手にくつろいでいるエインに俺は問いかけた。
「ん?どうって?」
若干顔を赤くしエインは分からないというふうに返事をする。
コイツ最近かなりの確率でとんでもないものを入手していたにもかかわらず。
エインのジョブ『博徒』
魔物の素材とかが大きく変化するスキルを持っている。
例えばゴブリンなど、低級の魔物はとれるドロップ素材などクズ魔石か運が良ければ薬草くらいだ。
でもこいつの持つスキル『ジャックポット』はそれを一切無視して上位の素材が出現する能力だ。
もちろん当たりは確率が低い。
奴の経験上「ん――――5%くらい…かな?」と言っていた。
20回魔物を倒し1回くらい上位の品が出る。
まあそんな感じだった。
もちろんスキル失敗時はすべてがゴミになるのでここに来るまではあまり試す機会もなかったのだが。
だけど最近、というかここに来てからどう見てもそれ以上の確率でお宝を引き当てていた。
ここに来たばかりの時なんか伝説の薬草、いや神レベルの『ソーマ草』まで引当やがった。
今は美緒さまのインベントリの中で保管されているはずだ。
「いやお前最近当たり出る確率上がってるじゃん。……もしかしてスキル進化したのか?」
俺達団員は最近ちょくちょく美緒さまと同行し、あり得ないような恩恵を受けていた。
言ってしまえば『パワーレベリング』だ。
強い美緒さまが稼ぐ膨大な経験値のおすそ分けにあずかっている状況だ。
思うところがないかと言えば嘘になる。
でもそんな鼻くそみてえなちっぽけなプライドは今の俺たちは持ち合わせちゃいない。
何しろそのたびに美緒さまが申し訳なさそうに俺たちに声をかけてくるからだ。
「ごめんなさい。自分たちの力で強くなりたいと真剣に思うあなた達の矜持を汚してしまう。でも、私を助けてください。お願いします」
心苦しそうに悲しい顔をする美緒さま。
美緒さまは心優しい。
今の彼女はいうなれば俺たちの雇い主、そして絶対者だ。
それこそ『死ね』と言われればそうしてしまうくらいには俺たちは美緒さまを信望している。
にもかかわらず彼女は個人個人に真摯に対応してくれる。
それこそ手を取ってくださったり……
俺達はとんでもなく幸せ者だ。
「いえ、美緒さまの考えるままに。謝罪はいらねえです」
不満などあるわけがない。
「……ありがとう」
その言葉で一生返しきれないくらいのおつりが積もっちまってるのだから。
まあそんなわけで俺達もかなり成長しているんだ。
スキルの進化や新たなジョブに目覚めた奴もいるくらいだ。
「んー?進化はしてないな。……美緒さまがさ……」
そう言いながらエールを流し込むエイン。
「くうっ、うまい。……『想像してみて』って言ったんだよな」
「想像?」
「なあ、デイルード。お前回収士じゃん?例えばお前専用のお宝と、お前が一切使えない、それこそ俺たち誰も使えないお宝両方あって、ひとつだけ貰えるならお前どうする?」
エインは悪戯っぽい色を瞳に載せ俺に問いかける。
「……そりゃあ…俺専用だろ?」
「だよな。だから率が悪いんだと」
「???」
エインは遠い目をして語り始める。
「俺達最初ここに来る前、一人一人美緒さまから鑑定うけたじゃん。その時俺のスキル見て美緒さまが言ったんだよ」
「『私思うんです。スキルも魔法と同じで想像力がモノを言うって。だからきっと今まで真剣に生きてきたあなたたちは自分たちに必要なものだけを求めていたのだと思う。だって関係のないお宝とかいらないでしょ?でもねエインさん。これからはそれこそ多くの人が集うの。いろんなジョブの人が。だからお願いします。範囲を狭めないで願ってほしい。スキルを使うとき想像して欲しいの。皆の役に立つものをお願いしますって』……目からうろこが落ちたね。……俺は今までそんなこと一切考えていなかったからさ」
言い終えさらにエールをあおる。
「そしたらびっくり。……今では5回に1回くらい見たことのないものがドロップするんだ。ソーマ草?あの草だっていきなり出現した。価値の知らねえ俺達だけならきっと一生出なかっただろうさ」
「………」
「だから全部美緒さまの手柄なんだよ。俺のスキルはそのまんまだ」
そしてなぜか顔を赤らめるエイン。
「それにしてもさ……やべえよな美緒さま。ソーマ草持って行ったら俺に抱き着くんだぜ?メチャクチャ可愛い顔で満面の笑顔でさ。めっちゃ柔らかくていい匂いで……やべっ、考えるだけで震えちまう」
「っ!?はあっ?!!初耳だぞっ!!?」
「そりゃそうさ。可愛く顔を赤らめて『二人だけの秘密です』って言うんだ。……ううう、可愛すぎる。だから言う訳ないだろ……って…………げえっ?!お、俺、言っちゃったじゃん?!……くわー、無いわー……おいデイルード、忘れろ、忘れてくれ――――!!」
※※※※※
酔っぱらっていたせいだろう。
実はかなり声が大きかった。
二人の会話は多くが知ることとなっていた。
特に信者であるレルダンの追及は、それはそれは恐ろしいものだったそうだ。
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