第32話 革命騎士の始動

アリアはザッカートとともにギルド本部の3階にある聖堂へと赴いてもらった。

この世界、元はゲームだ。

こういうところは都合がいいように出来ている。

聖堂はジョブを司る神殿のような物で、転職などの強化ができる施設だ。


非常に便利で私も仲間たちもその恩恵を受けていた。


これからドレイクとの面談を行うのでザッカートは退室を躊躇していたけど代わりにレルダンが来てくれたので、しぶしぶアリアを連れて行ってくれた。


うん、よろしくね。


改めて太々しい態度を崩さないドレイクに私は目を向ける。

……少し演技が必要かな。


私は咳ばらいをし背筋を伸ばし、瞳に力を籠め真直ぐドレイクを見つめた。


「ドレイクさん?どうしてここに来たの?……目的は果たしたの?……あなたのお兄さん伝説の忍マールデルダ・ギアナニール。ギアナニール侯爵家次男『疾風のマール』よね」


「っ!?なあっ!???……なぜ、それを……」


いきなり豹変し落ち着きなく視線を動かすドレイク。

皆もざわついている。

まあ、そうよね。


だって彼の兄、メインキャラクターの一人なんだから。

私はきっと彼よりもお兄さん、マールデルダの事を知っている。


「あなた……本名ザイドレイト・ギアナニール、ザナンテス魔導国の6大貴族、ギアナニール侯爵家3男、だったかな?」

「っ!?」

「お兄さんは諜報部隊長で伝説のジョブである忍。しかも魔法もかなりのレベルで極めている。風魔法『スコールストーム』の保持者……一人で小さな国なら落とせそうね」


スコールストームは魔法使いの高等魔法だが習得には条件がある。

因みに私は使えない。

今はね。


「それで、あなたは何で来たの?……メリナエードさん、まだご存命よね。ソーマ草は見つかったのかしら」


サロンは静寂に包まれていた。

皆が何か恐ろしいものを見るような視線を私に向けている。

全てを知った今、私はもう遠慮はしないと決めた。

全ての手段を使って全部救う。


「わたし、ゲームマスターなの。知らない事はない。因みに……」


私はスキル『超元インベントリ』からソーマ草を取り出して見せる。

あっけにとられるドレイク。

そして肩を震わせて私を見つめた。


「はは、はははっ、すげえ、こりゃあすげえ。……美緒、いや美緒さま。どうか私も配下にお加えください」

「……ソーマ草は?」

「すでに処方済みです。……メリナは回復したと……手紙が来ました」


やはりこの世界進み方がおかしい。

早すぎる。


「……分かりました」


ソーマ草をしまい、私は大きく息を吐きだした。


「……ふう。……偉そうにしゃべるの疲れた。……分かったよドレイク。仲間は呼び捨て。良いかな?」


ちょっと威厳を出そうと思ってかっこつけていたけど……

やっぱり不自然だね。


明らかに場の雰囲気が和んだ。


「……神々しい……美緒さまはまさに女神さまの再来…」


何故かレルダン、涙流してるけど……

恐いからスルーで。


「ごめんねドレイク。試すようなこと言って。……気に障ったなら謝ります。ごめんなさい。……これからよろしくお願いします」

「あ、ああ。……大丈夫だ。驚いただけさ……こりゃあ敵わねえわけだ。……こちらこそ頼む。美緒」


実は彼にも重要な役割がある。

メインキャラクターではないけど決してモブではない。


彼は情報に特化する。

このゲームの命綱になる人物だ。


(やっぱり私、性格悪くなってるみたい)


因みにソーマ草は本物だよ?この薬草というか神レベルなんだけど…そういうことを知らないエインがこの前持ってきたのよね…たぶん彼の例のスキルよね……本当に有能。


私はにっこりとほほ笑んだ。



ギルド本部総勢30人。

一応アルディも入れてあげていますよ?

私の大切な仲間たち。

さあ、始めるよ。


シナリオにない新しい物語を!!



※※※※※



「アリアー、おーい、アリアー……ったく、どこ行ったんだあいつ」


アルディの『偽りの言霊』の効果が切れ、市場のはずれで寝ころんでいたレストールは目を覚まし幼馴染のアリアベールを探していた。


村で収穫した農作物を卸すため今回初めて二人で来ていたのだが、農作物と現金を交換した後あたりからの記憶がおかしい。


(金は…あるな。……確かエルフに声かけられて……くわ―分からん。取り敢えず探そう)


「あっ、そうだ。もしかしてあいつ、荷馬車のところかもしれない。行ってみるか」


市場の入口に、野菜を積んできた荷馬車を預けてあることを思い出したレストールは市場の中へと足を向けた。


市場はにぎわっており活気にあふれている。

見たことの無いような物が多く売られており、アリアを探しているはずなのに気付けば夢中になって店をのぞいていた。


そんな時不思議な水晶玉が目に入った。


フードを深くかぶった女性?が何やら集中し水晶玉に手をかざしている。

キラキラと輝く水晶。

レストールは気づけば立ち止まり、その水晶に目を奪われていた。


「……いつか再会するよ……大丈夫。女の子は無事さ」

「っ!?えっ?」


突然話しかけられ思わず硬直してしまう。


「ど、どういう……」

「ふむ。……あんた凄い星を、宿命を持ってるねえ。……強い力…信念……驚いた」


「……アリアは無事なのか?」

「ん?アリアっていうのかい。ああ、しばらくは会えないだろうが…元気じゃな」

「どこだ?アリアはどこに居る?!」


思わず興奮し大きな声をかける。

びくりと背中をはねさせる女性。

レストールは自分が何をしたのか気付き、大きく深呼吸しすぐさま謝罪をした。


「す、すまない。……「占い」?……まじないの一種なのか?」


改めて女性を見ると水晶玉の横に小さく「占い」と記してあった。

1回銀貨1枚とも。


「ふぉふぉ。問題なんてありゃしないよ。ほれ、銀貨1枚」

「あ、ああ」


女性はフードを下ろし顔を見せる。

老年の女性だ。


「まいどあり。……じゃがあたしゃ嘘は言っていない。まあ信じるかはあんた次第だがね……娘は問題ないよ。今は再会よりも鍛えるといい……レストール」

「っ!?…俺の名前…は、ははは。すげえ。……ありがとう。信じるさ」


そういってレストールは立ち去った。


「ふむ。これはシナリオを早めるのかねえ。……美緒、約束、今度こそ守ろうじゃないか」


そう呟き、老婆は溶けるように姿を消した。

まるでもともと何もなかったかのように。



※※※※※


「なあ、バラックさん。コイツいくらになる?」

「ああ?なんだよ、いらねえのか?」


馬車預かり場のバラックさんはウチの村の隣町から出稼ぎに来ている知り合いだ。

かれこれ10年くらいの付き合いで気心も知れている。


「俺冒険者になって鍛えようと思って」

「ふん。おとなしく農家やってたほうが良いと思うがねえ。……金貨2枚ってところだな」

「えっ?それだけ?!」

「イヤなら帰んな。大体お前、グビーザ村はどうするんだよ。ていうかアリアはどうした?」


心配そうな顔で問いかける。

ちょっと心苦しいけど俺は本当のことを話した。


「そうか。アリアがな。……まあお前、家族いねえし。……良いんじゃねえか。ほれ」


そういって俺に金貨を投げよこす。


「えっ?多いぞ?」

「ガキは黙って受け取っておけ。お前らの村と違ってここじゃ暮らすっていうのは金がかかるんだ。あー、登録にも金かかるぞ?冒険者。……あと下っ端はギルドの地下に安い宿泊施設があるから聞いてみろ」


顔を赤らめポリポリと頬をかきながらそっぽを向くバラック。

その様子に俺は思わず涙が出てきた。


「ぐっ……あ、ありがとう。バラックさん」

「早く行け。ったく、柄にもねえことはするもんじゃねえな。くすぐってえや……アリア、見つかると良いな」


俺は頭を下げ、貰った金貨を握りしめ歩き出す。

頑張ろう。

そう心に誓って。


待ってろよ、アリア。



※※※※※



ゲームではレストールは冒険者にはならない。

帝国歴27年に村が魔物に襲われ、助けに来た騎士団に志願する。


運命は、この世界のシナリオは予想もつかないほど変遷が始まっていた。

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