第31話 アリアベール

聖域でかなりの深さまで情報を理解した美緒はリンネとエルノールを伴い、昨日イニギアたちが連れてきた二人と面会するためサロンを訪れた。

因みにアルディには聖域で調べ物をするよう指示を出しており、ここには来ていない。


……一応報告を聞いたとはいえ、アルディの居ない所で事実確認が必要だと思ったからだ。


「それで、えっとアリアベールちゃん?あなた体は無事なの?そ、その……えっと…」


助けた時の状況は私も目覚めた後で聞いている。

服を脱がされ動くけど何故か縄で手首を縛られ、周りには怪しいおもちゃが散乱していたらしい。


心配過ぎる。


何しろ犯人はアルディだ。

今の彼は問題ないとは思うけど……

解呪前の彼ならさぞ悍ましいプレイを行ったことだろう。


「うあ、えっと……は、はい。大丈夫だと思いますけど…」


※※※※※


アリアベール。

ヒューマンの女の子で現在16歳。


ゲームの設定と同じでデイブス連邦国の北方の農村グビーザ村で農業をしていた女の子だ。

茶色の少し癖のあるショートボブではっきりとした目には鳶色の瞳が輝いている。

小さな鼻に可愛らしいピンクの唇。

くるくると変わる表情がまるで小動物の様でとても愛らしい。

ゲーム登場時より4年早いせいか、胸のボリュームは控えめだ。

私と同じくらいかな。

なんか親近感がわくね。


彼女はメインキャラではないけど革命騎士レストールの幼馴染で彼と愛を誓う重要な人物だ。

そして最終決戦前に亡くなってしまう悲運のヒロイン。

絶対に助けるけどねっ!


※※※※※


「えっと…美緒さま?……アリアって呼んでください。……ありがとうございます。滞在を許可してくれて、下さって」

「あ、うん。分かったよアリア。えっと、普通にしゃべって?なんか言いにくそう」

「あう、ご、ごめんなさい。私ただの平民で……分かった美緒さま。そうさせてもらうね」

「私の事も美緒で良いよ?年も近いし」


「ははっ、さすがはゲームマスター様だ。懐が深いねえ」


その様子を見ていたドレイクが口をはさんだ。

ザッカートは仏頂面でドレイクの頭を小突く。


「余計なこと言うな。カシラは今そっちの子と話してんだ。待っとけ」

「へいへい」


まるで反省していないドレイクはにやりと顔を歪ませる。

一方ザッカートは苦虫をかみつぶしたみたいに苦い顔だ。


「ねえエルノール」

「はい」

「アルディ連れてきて」

「……承知しました」


私はアリアの顔を見る。


「アリア、取り敢えず無事でよかった。一緒に居たレストールさんの行方が分からないってことよね?…ねえカイマルク、邸宅には誰もいなかったのよね」

「はい。コイツだけでしたね。気配もなかったから…すんません」

「ううん。アリアだけでも助けてくれてありがとう。あなたたちは本当に優秀ね。嬉しい」

「うあ……き、恐縮です」


顔を赤らめるカイマルク。

カイマルクはエルフの血を引いていることもありメチャクチャ美形だ。

アリアが彼を見て固まっていた。

(??緊張しているのかしら?…ああ、この子の表情……うんうん)


「コホン。アリア、気休めかもしれないけど、レストールさんは無事よ。だって強いでしょ彼」

「っ!?……うん。農民だけど彼村でも一番強くて……そうだよね。私は信じてあげなくちゃ」

「うん。だからさ、一緒に暮らそうか?彼に会えるまで」

「えっ?いいの?」

「まあ、色々お手伝いはしてもらうけど…アリア料理得意よね」

(そしてその間にこの子を鍛えよう。自分の身を守れるくらいには)


私はそう決意し、ザッカートに目を向ける。


「ザッカート。この子鍛えてあげてくれる?無茶のない範囲で。もちろん家事とかの合間。アリアも良いかな?強さは邪魔にならない。再会したときレストールさんを驚かせようよ」


「そりゃあいいが……アリア、お前今ジョブは」

「え?……なんですかそれ?」


思わず頭を抱えるザッカート。

そして大きくため息をつく。


「カシラ、取り敢えず基礎で良いか?女だからな、僧侶あたりか」

「うん。聖堂で付与してくれる?アリア、この後アルディ来るから。そしたらザッカートに付いて行って」

「う、うん」


予定より早い。

今はまだ帝国歴25年。

レストールが頭角を現すのは確か27年。


でもチャンスだ。

今なら万全の準備ができる。


「ところでカシラ……その、リンネ様なのか?その美人さん」


顔を赤らめ私に問いかけるザッカート。

確かにさっきから団員の皆さんもチラチラ見ていた。


いけない。

忘れてた。


「あっ、うん。なんかリンネ、覚醒したんだって。スッゴク可愛いよね♡力も増してるから、怒らせないでね」

「ふふ。なーにザッカート。……見蕩れちゃった?」

「なあっ!?そ、そんなわけ……ったく、あーなんだ。服、サイズ合ってねえぞ。エロすぎだ」

「っ!?……うあ、も、もう、ばかっ!!」


慌てて走り去るリンネ。

あー、確かに胸とか凄い事になっていたっけ。

私は少しだけ反省した。


く、悔しくなんか、ないんだからねっ。


「美緒、僕のこと呼んだ?……げっ?!変態娘!」


そんなタイミングでアルディがやってきてアリアを見ていきなり意味の分からない事を口にする。


「??変態娘????」

「な、な、何言って……って……誰?」


顔を赤く染めキッとアルディを睨み付けるアリア。

変化したアルディを知らないアリアはぽかんとしてしまう。

何故かアルディはたじろいでいる?


「だ、だってこの子、ごにょごにょごにょごにょごにょごにょいきなり自分でごにょごにょてさ、そしたらごにょごにょごにょごにょとか言い出すし、じゃあちょっと怖がらせようとごにょごにょごにょ「ごにょごにょごにょごにょ」とか言うしね。ついでにごにょごにょたら体をビクンビクンごにょごにょするし。ははは、さすがの僕も引いたっていうか……」


それはそれは悍ましい事をアルディはアリアに行っていた。

いや、行おうとしていた。

まあ、やはり胸とかは触られちゃったらしいけど……


実際には『やばい内容』は未遂だ。

良かった。

この子まっさらだ。


しかし意外過ぎるアリアの反応にアルディですら恐れおののいたそうだ。


「まあ僕はほら、その時にはごにょごにょないしさ、この子もまだごにょにょはごにょごにょだし…あー、取り敢えず水をいっぱいごにょごにょで、そうするとごにょごにょごにょごにょじゃん?」


さらにとんでもない事を言うアルディ。

ねえ!ねえっ!??ねええええっっ??!!!!!

あんた何やってんの!???


正直者のスキルのせいでアルディは多くの人がいる前であり得ない破廉恥な事を宣った。

全員の顔から表情が消える。

アリアは真っ赤だが……


「ははは。『そんな小さいの嫌っ!もっと太くて大きいのっ!!』とか言ってさ。この子経験ないのに……やばいでしょ?…っ!?ひぎい?!」


やれやれといった感じで宣うアルディに私は無詠唱で麻痺をプレゼントした。


「あんた……やっぱり女の敵!!100回死ね!!!!」

「ぐぎぎぎいいい」



※※※※※


あー、誤解でした。はい。

全く経験のないアリア。

そうだよね。

良かったよ。


「耳かきの話じゃなかったんですか?針みたいのじゃ細すぎて……だから私……うう、恥ずかしい」


うんうん。

良かった。

この子天然ちゃんだ。


因みにアルディの変化にもみんなびっくりしてたけど……

彼の発言の方が100倍は衝撃だったね。


やっぱりちょん切った方が良いのかな。


因みにレストールには何もしないでただ追い出しただけらしい。

清々しいほどに男には興味ないよねコイツ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る