第9話 黒髪黒目の少女は友達を得る
本当にザッカートさんたちは優秀だ。
あれからすぐに『アルディ』の今の住処を突き止めていた。
凄いよね斥候のイニギアさんとロッジノさんの二人。
『アイツらは俺たちの生命線なんだ。俺の自慢の仲間さ』
ザッカートさんが誇らしげに言っていたっけ。
おかげで今は奴を捕獲する具体的な計画を練っているところ。
今回私が考えた作戦。
ズバリ『誘惑大作戦』
女癖の悪いあいつをミネアちゃんとルルーナちゃんの二人が酒場で誘惑して、薬を入れたお酒を飲ませて捕縛。私の『解呪』スキルで奴のコーディネーターの称号を弱体化させてあわよくば仲間に引き入れる、という作戦だ。
最初は私も行こうとしたんだけど…
全員に反対された。
うん。私色気とかないからね……
く、悔しくなんかないんだからねっ。
コホン。
作戦自体は至極単純。
でもあいつはエロジジイ。
きっと釣れる。
エルノールには「危険です」ってずっと反対されているけど…
でも私はアルディを殺す気にはなれなかった。
実際今のタイミングでは彼はまだ大きな暗躍はしていない。
今までこの世界ではさんざん引っ掻き回しては来たみたいだけどね。
取り敢えず私自身に今のところ被害はない。よね?
そもそも物語が始まるのは約3年後だ。
それに彼は性格がちょっとアレだけど、よくよく考えたら被害者なのかもしれない。
ひとり特別な使命を背負わされて、そして永遠ともいえる長い年月を彼は一人で過ごしていた。
だからといって放置は出来ない。
何よりそうすれば予定されている悲劇が起こってしまうのだから。
一番防ぎたいことは悪神となってしまうガナロとの接触。
帝国歴27年の春、つまり約2年後にアルディは封印されているガナロを解き放ち、あることないこと吹き込んでしまう。
『偽りの言霊』スキルを使用して。
私の記憶にもないし語られていないけど、何故かリンネの弟君のガナロはここよりはるか東方、極東の地『ジパング』の秘境に封印されているんだよね。
ジパングて……
まあ、うん。
やっぱり私に神様の理屈は分からない。
双子のはずだし、あの襲撃の際まだ生まれていないはずなのに……
あの「ノイズ」が原因なのかなあ……
今ガナロ君の対応はリンネに一任している。
今頃エルノールの転移で現地に行っているはずだ。
私は自分にできることをやるだけだ。
僧侶のジョブを極めよう。
悩んでいる暇はないのだから。
※※※※※
コンコン。
私が僧侶の呪文書を確認していたら執務室のドアがノックされた。
「はい。どうぞ」
「「しつれいしまーす」」
「しますにゃ」
ドアが開き今回の重要人物であるミネアちゃんと、ザッカートさんの妹ルルーナちゃん、そしてエルノールの妹でつい先日私が解呪し命の危機を回避したレリアーナちゃんの3人が執務室を訪れた。
「いらっしゃい。はあ…みんな可愛い♡」
この世界はやっぱりゲームの世界。
この3人、驚くほど可愛い。
そしてなんと私と同い年だ。
一気に執務室が明るく華やかな雰囲気に包まれる。
「「美緒さまもとっても可愛いです」」
「そうにゃ♡」
そしてすごく気を利かせてくれる。
うん。本当にいい子たちだ。
お世辞でもうれしいよ?
ふう……
「それで、どうしたの?みんな揃って」
思えばこうやって彼女たちと話をするのは初めてかもしれない。
色々立て込んでいたからね。
※※※※※
今このギルド本部には27名が生活を共にしている。
私とリンネ、それからエルノールと妹のレリアーナ。
ザッカート盗賊団の面々20名。
それからスルテッド一族に仕えていた執事長のザナークさんと家事長のファルマナさん、お二人のお孫さんのハイネ君。
ザナークさんご夫妻はエルノールのお父様の親友で60代の素敵なご夫婦。40年にわたってギルド本部のハード面の管理をしてくれていた人だ。
地下3階の管理者施設や、エルノールの使命など根幹にかかわるソフト面については知らない。
いわゆる『純粋な施設』としての管理人の様なものだ。
私もつい最近知ったんだよね。
何しろ魔法使いのジョブを極めるのに忙しかったし、妹のことでエルノールもバタバタしていたしね。
(いくら情報とリンネのスキルがあったとしてもここまで短縮できる自信がなかったのよね。…まさか3か月で到達しちゃうとは思ってもいなかった。チート恐るべし!!)
で、目途が立って落ち着いたタイミングでエルノールが紹介してくれました。
もちろんこの3人はゲームにはいなかった人たちだ。
そういえば情報の流入で私が朦朧としていた時に着替えや体を拭いてくれたのは実はファルマナさんだったようだ。
私の貧相な体はまだエルノールに見られていなかった。本当に良かった。
凄くほっとした。
改めて紹介されたときに、
「未婚の女性の裸を男性にさらすわけにはいかないからねえ」
そう言って優しく頭を撫でてくれたのよね。
なんかお母さんを思い出しちゃった。
ちょっと涙ぐんだのは私とファルマナさんだけの秘密だ。
えっと、という訳で今ここには27人いるんだけど、何と女性は6人だけ。
まだ男性に慣れていない私にとっていま訪れてくれた3人はなんていうか、そ、その。
お友達になりたいなって……
思っているんだよね。
もちろんリンネは私の中では友達だよ?
でも彼女神様でしょ?
※※※※※
私がそんなことを考えて遠い目をしているとレリアーナちゃんがそっと私の手を取って、目に涙を浮かべた。
私はぎょっとしちゃったけど……
この子は自身の呪いのこと、そしてそれが運命だったことを知っていたんだ。
「美緒さま、ありがとう。私に希望をくれて。……わたし怖かった。もうすぐ死んじゃうんだって。諦めていた。スルテッド一族の宿命だから……だけど美緒さまが助けてくれた。わたし美緒さまの力になりたい」
キラキラ輝く瞳で見つめるレリアーナちゃん。
くうっ、この兄妹美しすぎる!?
私は何とか言葉を紡ぐ。
「え、えっと、その、気にしないで?私がしたくてやったことだから。…でもよかった。もう体は問題ない?」
「はい。もうすっかり元気です♡」
彼女、実は呪いでほとんど動く事が出来ない状況だった。
本当に助ける事が出来て良かった。
チートスキル大活躍だね。
私はにっこり微笑む。
「あう…尊い……美緒さま♡」
「それなら私も…ありがとう。あの時来てくれなかったらきっと今頃私…美緒さまは私の救世主だよ!!」
次はルルーナちゃんが目を輝かせる。
彼女は本当に危なかった。
こんなに可愛い子だ。
スタイルも……ふう。
物語では酷い凌辱を受けてしまうはずだった。
今回だってあと数時間遅かったら…
助けた時すでに彼女、服をはぎ取られてあられもない格好だったんだよね。
「あー、うん。もう沢山お礼はしてもらったよ?ね、取り敢えずお茶でも飲まない?」
「「はい♡」」
「にゃ♡」
※※※※※
私たち4人はお茶をしながら笑い合ってお話をした。
なんだかすごく肩の力が抜けた気がする。
凄く楽しい。
思えば多分小学校の時以来の楽しい時間だった。
このゲームに『はまった』のが中学校1年の春。
あれから私は今思えば不思議なくらい異常なまでにゲームに心を囚われた。
それこそ他人を寄せ付けなくなったのもあの頃からだ。
多分すでにこの運命が決まっていたのだろう。
神様のチートは奥が深いしきっと強制力も半端ない。
ねえ、ルーダラルダ様?
一度しっかり説明してくださいね?
もしお父さんやお母さんが事故に合ったことも、予定通りだとしたら…
私は……
………
心に黒く冷たいものが湧き出してくる…………
………
……
…
「……、…さま?……美緒さま?!」
「はっ!?……あ、うん、ごめんね」
いけない。
今はまだ考える時じゃない。
決めたんだ。
みんな救うって。
本当に考えるのは全部終わってからだ。
何より今はこの子たちとおしゃべりがしたい。
「えっと、ねえミネアちゃ……」
「美緒さま、いや美緒?」
私が話しかける言葉にミネアちゃんはかぶせ気味に遮ってきた。
目には真剣な色を浮かべている。
「ごめんにゃ。でもうちら同い年にゃ?失礼かもにゃけど…お互い呼び捨てとか、ダメにゃ?にゃんか壁を感じるにゃ。遠いって言うか…もっと仲良くなりたいにゃ」
えっ、それって……
「だってうち美緒と友達になりたいにゃ。だめ?」
「わ、わたしもっ!」
「うん。なりたい。美緒さま…美緒と友達になりたいっ!!」
「みんな……わ、私なんかが友達で…いいの?」
3人凄く可愛いのに。
私みたいなつまらない女……
本当に、いいの?
なんだろう。
彼女たちのまるでいたわるような想いが伝わってくる。
心が沸き立つ。
欲が出てしまう。
急に鼻の奥がつんとする。
感情のコントロールが効かない。
嬉しいはずなのに……
涙があふれてくる。
そんな私を見てすっとルルーナが立ち上がり、そっと抱きしめてくれた。
優しいぬくもりが私の心の壁を溶かしていくようで。
「もう。『私なんか』とか言わないの。私は美緒さま、ううん美緒が好き。優しくて頑張るあなたが、凄く可愛い美緒が大好き。だから、そんな顔しないで?もっと自信持ってよ。美緒、本当にスッゴク可愛いんだから」
レリアーナとミネアも立ち上がりそっと私を抱きしめた。
「美緒、時々すごく怖い顔しているんだよ?そんなに無理しないで。頼りないとは思うけど、私たちあなたの力になりたい」
「そうだにゃ。美緒は一人じゃにゃいんにゃよ?うちらが、みんながいるんにゃから。にゃ」
ああ。
そうか。
今の私は幸せなりたいんだ。
諦めなくていいんだ。
望んでいいんだ。
甦る過去の私。
独りぼっちだった私。
諦めていた私。
本当は欲しかったんだ。
友達。
泣いたり笑ったり、愚痴を言ったり。
こ、コイバナとかしちゃったり……
本当の私をさらけ出せる、そんな本当の友達が。
認識した想いが私の心をかき乱す。
溢れる涙が、ずっと渇望していた気持ちがどんどん溢れてくる。
わたしはまるで子供のように大きな声で泣いたんだ。
気が付けば心の中にあった大きな穴が修復されていくような不思議な感覚がした。
そして胸の中が温かくなっていたんだ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます