第10話 黒髪黒目の少女は評価される
うちミネアにゃ。
さっき友達ににゃった美緒たちと楽しいおしゃべりを終え今は部屋に一人でいるにゃ。
改めてうちら、いや世界の希望ににゃる彼女の事を考えていたにゃ。
※※※※※
異世界人で『ゲームマスター』っていう伝説の称号を持つ美緒。
凄い努力をして強い力を手に入れ、そして的確な指示を出して皆を導く凄い人にゃ。
創造神であらせられるリンネ様だって美緒の言う事を聞いているくらいにゃもん。
本当にすごいにゃ。
うちと同じ年齢にゃのに彼女は恐ろしく覚悟の決まった表情をしているのにゃ。
称号がそうさせるのか彼女の本来の性格にゃのかは分からない。
ひとつだけわかるのは彼女があり得ないくらい重い使命を背負っているってことにゃ。
この世界で生きてきたうちなんかじゃ想像もつかにゃいほどの重い使命。
凄く強い人にゃ。
でも。
時折消えてしまいそうにゃほど存在が揺らいで見える時があるのにゃ。
凄く怖い顔をして、まるで小さにゃ女の子が泣いているようにゃ錯覚を覚えるにゃ。
いきなり違う世界に召喚され、色々な摂理や常識の違う場所に連れてこられた彼女。
考えただけでうちは蹲ってしまうにゃ。
「私ね、あっちの世界にいた時は独りぼっちだったんだ。だから今はとても楽しいの」
お話ししたときに彼女は言ったんだにゃ。
でも、どうしてそんにゃに悲しそうにゃ顔で笑うのにゃ?
「あー、うん。みんなは分からないかもだけど、こっちの世界は美男美女ばかりなのよね。私と違って。ははは……」
どうしてそんにゃに自分を卑下するにゃ?
美緒、鏡見たことにゃいのかにゃ?
凄く可愛いにゃ。
そして時折すごく怖い表情をするにゃ。
目の前にいるのににゃんかすごく遠くにいる感じがしてしまうのにゃ。
この子は、美緒は。
危ういにゃ。
いろいろにゃことが『ちぐはぐ』すぎるにゃ。
うちは細かい事は分からにゃいけど、このままじゃいつか美緒が壊れるんじゃにゃいかって改めて思うにゃ。
そういえば親方が言っていたにゃ。
「カシラはとんでもねえ。俺は今まであんなに強くて脆い奴を見たことがねえ。妹の、俺達の恩人だ。一生かけて俺は助けてやりてえ。ミネア、お前はカシラと同じ年で同姓だ。力になってやってくれねえか」
あの鈍い親方まで気づくほど、美緒は危ういのにゃ。
……なんか親方、顔が赤かったにゃあ……まさか!?
大体親方は熟女好きにゃのにゃ。
うん。
違うよにゃ?!
ふにゃん。
ともかくどうにか友達にはにゃれたはずにゃ。
うちはあの子を助けたいにゃ。
もっと仲良くにゃりたいにゃ。
※※※※※
私はザッカート盗賊団、頭領であるザッカートの妹ルルーナ。
団が発足した当時まだ8歳だった私。
皆から妹のように大切にされ、両親の居ない寂しさを感じることなく私は大きくなっていった。
いつかみんなの力になりたい。
そう思いながら努力は続けてきたつもり。
残念ながら私のジョブは『索敵助手』とか言う、あまり役に立たないジョブ。
でも少しは仕事ができるようになってきて、ミネアと二人団の為になってきたと思っていた矢先―――
私はあいつら、リーディルのやつらに捕らえられてしまった。
酷いけがをしたナルカが最後まで庇ってくれていたけど、私は連れ去られ、いきなり殴られた。
ああ、もうだめだ……
そう思った。
きっと兄さんたちは私を助けには来ない。
私一人の為に、全員を危険にさらすこと、絶対に兄さんは選べない。
せめて絶対泣くもんかって私は歯を食いしばっていた。
でも男たちはそんな私をあざ笑うかのように……
何人もの男がいやらしく乱暴に……
恐怖で涙が滲んでしまったんだ。
その時だった。
美緒が私を助けてくれた。
彼女は凄い魔法を使ってあっという間にあいつらを吹き飛ばして、視線だけで殺すような目をして言い放った。
「この子は返してもらいますね?異論はないよね?!」
驚いた。
きっと私よりも小さい女の子。
彼女はまるで鬼の様な表情で、凄まじい魔力を放ちながら沢山いる男たちを圧倒していた。
彼女が来てくれなかったら。
私は間違いなく酷い目にあわされた。
兄さんには言ってないけど、服をはぎ取られ体は散々いじられてしまっていた。
貞操だけは美緒のおかげで守る事が出来たけど。
恐かった。
本当に穢されると、殺されると思った。
美緒に助けられた後、私はこっそり湯あみした。
アイツらに触れられた体を少しでもキレイにしたかったんだ。
でも、いくつもの刻まれた痣。
男たちに乱暴に触れられたことを思い出し、私は一人お湯につかりながら泣いていた。
そんな時美緒が湯場に現れて、優しく抱きしめてくれた。
「ごめんね。助けるのが遅くなって……ごめんね。怖かったよね……ぐすっ」
そして美緒はそんな私の為に泣いて、覚えたばかりのヒールを何度も使って体を癒してくれた。
関係ないのに彼女は自分のことのように涙を流してくれたんだ。
嬉しかった。
何より大好きなみんなとまた一緒に暮らせる事。
そして私はこの人に報いたいって思ったんだ。
私を助けてくれた美緒たちは仲間を求めていた。
兄さんも美緒の凄さに気づいたらしくて…
まさか伝説のゲームマスターとは思わなかったけど。
この世界での『ゲームマスター』はおとぎ話レベルの伝説だ。
それに一緒に居た女の子。
創造神リンネ様だった。
やたらカッコいい男の人もあの『リッドバレー』を管理する当主とか言うし。
もう理解が追い付かず、私はただ笑う事しかできなかった。
兄さんは美緒たちと行動を共にすることを即決したんだ。
そんな中美緒はずっと私の手を繋いでくれて……
心にあった恐怖は。
気づいた時には消えていた。
※※※※※
あの後とても苦労したけど、どうにか私たちは一人も欠けずに禁忌地であるリッドバレーにたどり着いた。
どうやらこれも私たちを試す試練の一つだったみたい。
一人ひとり美緒から鑑定も受けたしね。
人を見れる鑑定なんて聞いたことがない。
やっぱり美緒は凄い。
どうやら合格をもらえた私たちはリッドバレーにある古代遺跡『ギルド本部』へ入ることを許された。
中に入って私はびっくりした。
見たこともない魔道具で溢れかえる施設。
壁に触れただけで光魔法が発動して室内は明るいし。
多分風魔法なのかな。
施設内は一定の温度が保たれていてとても居心地がいい。
あてがわれた部屋だってとても清潔で本当に嬉しかったんだよね。
ご飯とかもすごくおいしくて。
初めて見たトイレの衝撃はきっと一生忘れられないと思う。
あんなに柔らかい紙も初めて経験したしね。
そして何より湯場が超豪華。
凄くいい匂いの石鹸?シャンプー?とかあって。
美緒の髪、すっごくキレイな謎が解けたのよね。
あの子メチャクチャいい匂いするし。
何はともあれ早速私たち盗賊団は仕事を任された。
あのうさん臭いエルフ『アルディ』の捕獲のための調査。
私の体を舐めまわすように見てきた少年。
うん、そうだったんだね。
アイツエロジジイだったんだ。
納得。
そして怒りが込み上げてきた。
すぐに奴の居所は判明した。
ついでに行動パターンも。
うちの斥候であるイニギアとロッジノが珍しく張り切っていたんだよね。
美緒は人たらしだ。
ひとりひとり手を取って可愛い笑顔を向けて、
「皆さんを信頼しています。でも、危ない事はしないでくださいね?皆さんに何かあったら私泣いちゃいますから」
とか言うし。
うちの男どもみんな赤い顔でフリーズしていたっけ。
しかも美緒多分何もわかってない。
多分だけどあの子まっさらだ。
危なすぎる。
まあ、そんなこんなでとても忙しかったんだよね。
私は改めてお礼が言いたかったのに、なかなかお話が出来なかった。
だからミネアと最近友達になったレリアーナの3人で美緒に会いに行く事にした。
もしかしたら迷惑かもしれないけど。
でも時折見せる美緒の表情がとても怖くて、私はいてもたってもいられなかったんだ。
そして私たちは友達になった。
私の感想だけど、危なかったと思う。
もしあと数日遅れていたら……
取り返しのつかないことになってしまっていたかもしれない。
そのくらい美緒は心が疲弊していた。
自覚がないままに。
泣きながら『ありがとう』って何度も言う美緒。
私もつられて大泣きしたんだ。
ミネアもレリアーナも泣いていたっけ。
彼女の使命は恐ろしいほど重い。
私は大した力はないけど絶対に力になりたいって思ったんだ。
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