第5話 黒髪黒目の少女は目的を定める
「ねえ美緒。いつ決めたの?」
エルノールが驚愕でフリーズしていたのを何とかなだめすかし、今3人はギルドマスターの執務室でお茶をしながら今後の事について話し合いを行っていた。
リンネは見た目子供だが、実年齢は200歳を超えている。
創造神なのだからその力はすさまじい。
だが今は、ある縛りの中で彼女の本来の力は封印されているに等しい。
見た目は10歳程度。
しかし整った容姿はまさに絶世の美少女だ。
「…ん?ルートの事?…んーと、今が『帝国歴25年』って分かったときかな。ワンチャン全部救えるかもって思ったのよね」
リンネに見蕩れ、呆けていた私は何とか言葉を紡いだ。
若干言葉が崩れたのは御愛嬌。
まあこの神様、そういう事は気にしないらしい。
紅茶を口に含みほっと息を吐き出す。
「それから情報流入で確定したんだよ。私って軍師だけど、これってメインジョブでしょ?サブで『賢者』を選ぶつもりなの」
がたっと音を立てエルノールが立ち上がる。
「美緒さま!?それは……確かに可能ですが……そうか、だから時間が惜しいと」
「うん。まずは魔法使いを極めないと。その次は僧侶よね。大体1ジョブ極めるには2年必要だったはず。あと4年、私の情報とリンネのスキルを駆使すれば確実に間に合うわ」
私は決意を瞳に宿しリンネを見つめた。
「だからさ、リンネ。協力してほしい。あなたの力、私に貸して」
リンネは視線をそらし、ため息をつく。
そして俯き加減に話し始めた。
「……美緒はさ、このゲーム詳しいのよね?だったらもっと簡単な方法あるのも知っているでしょ?今この瞬間に私を殺せば対(つい)になる悪神も消滅する。……良いよ?私を殺しても……ぴっ!?」
リンネの頭に私はげんこつを落とす。
そして頬を膨らませ、ジト目でリンネを見つめた。
「あのね、私今言ったよね?私は全部を救いたいの。その中にはリンネだって入ってるんだよ?」
「うう…」
「まったく。神様のくせにそんなこと言わないの。まかせて。私勝算あるもん」
「「勝算??」」
涙目のリンネと驚愕の表情を浮かべるエルノール、ばっちりハモった。
君たち仲良しかなっ!?
「コホン。うん。まずはジョブを鍛えながら『コーディネーター』を捕らえるよ。そもそもリンネの弟君『ガナロ』がおかしくなるのだってあいつの『ちょっかい』のせいでしょ?わたし、頭に来ているんだよね」
長年続けていたゲーム攻略において、私にはいくつか腑に落ちない事があった。
情報もないしスチルもない。
でも確実に第3者がいくつかの場面で暗躍していた形跡があるのよね。
そして今回得た膨大な情報の中にそいつが居た。
『コーディネーター』
この世界における『調整者』という意味なのだろう。
ゲームバランスの面で見れば成程、確かにその存在意義はあるのだろう。
だけどシナリオを無視し、全てを救おうと考えている今の私。
それからしたらこいつはただの暗躍者、邪魔者だ。
何しろ嫌なタイミングで一番して欲しくない行動を起こす者だからだ。
その正体は。
超古代種族で今はもう現存していないエンシャントエルフ。
見た目美少年の『アルディ・リルルフェアリル』
何と御年2000歳。
性格はお察し。
※※※※※
「『コーディネーター』ですか?……私の情報には無い称号です」
「……美緒、あんたマジで言ってる?そいつの事は私も知ってる。奴は『流入者』だ。この世界に干渉できない代わりに生存を認めていたはず、なのだけど……」
多くを語りのどがカラカラだ。
私は紅茶をごくりと飲み干した。
「ふう。うん。……でもね、あいつ私たちが知らないスキルを隠し持っているんだよね。リンネ、あなた3代目でしょ。初代様が、創造神ルーダラルダ様がちゃんと
「っ!?おばあさまが…って、何で美緒は知っているの?まさか……」
「わたし『ゲームマスター』だよ。この世界のこと、全部わかる」
嘘は言っていない。
私はこの星が創造され人類が誕生してから今までの5000年の歴史を知っている。
あの情報流入で、全て脳に刻まれていた。
リンネのおばあ様、つまり初代の創造神ルーダラルダ様がこの世界を作ったときからの事を。
そして今から数年後の未来のことまで……
当然ながら個人の内面のことなどは分からない。
でも今それを言う必要ないよね?
二人絶句し私を見つめている。
まるで時が止まったかのように執務室は静寂に包まれていた。
うん。
本当ならこんなに恐ろしい存在はないよね。
我ながらとんでもないチートだ。
「だからさ、私を信じて。……私ね、前の世界でいろいろあって独りぼっちだった。そんな時このゲームに、みんなに救われたんだよね。……だから今度は私の番。お願いします。協力してください」
頭を下げ手を差し出す。
ここで断られたら……
もうその時は自分一人でも救う。
もう決めたんだ。
小刻みに震えている差し出した私の手が温かい感触に包まれる。
そしてさらに握られる力に重みが増した。
「頭を上げてください。私はマスターのしもべですよ?あなた様の御心のままに」
「まったく。あんた真面目なのか狂っているのか分からないよね。…心配だから協力してあげるわ」
私の胸の中に温かい何かが沸き上がる。
うっとりと私を見つめるエルノールと顔を赤らめそっぽを向いているリンネ。
私は今一人じゃない。
それがただ私は嬉しかったんだ。
「よろしくね!!」
そして物語は静かにそのスタートを切った。
本編開始まであと4年。
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