第6話 黒髪黒目の少女は魔法使いを極める

私が転移したこの異世界。

レリウスリードという名前がついていた。


かつて創造神であるリンネの祖母ルーダラルダ様が創造された世界。

天には太陽が浮かび夜は月が照らす。

まるで地球のような惑星。


今日もこの世界で、私はせっせと魔物を狩っていた。



※※※※※



「はああああっっ!!!フレイムバーストオオオッッ!!!!!」


ズドドドドドオオオオオーーーーーンンン!!!!!!


巻き込まれ体を吹き飛ばされ、壊滅するキラーオーガの群れ。

だいぶ慣れてきた私はかなりのグロ耐性を獲得していた。


「うわああ……グロっ!?…美緒、あんたよく平気だね」

「うん?だって魔物でしょ?それに経験値稼がないと。強くなれないよ?」

「あー、まーね。……あんた前の世界の時も血とか平気だったの?」

「全然?鼻血出るだけでパニックだったよ?」


なぜかジト目を私に向けるリンネ。

私だって別に魔物を殲滅し尽くしたいわけじゃない。


必要だから戦っているだけだ。


「そもそもさ、リンネのおばあ様、ルーダラルダ様がこの世界作ったのでしょ?なんで魔物とか作ったの?」

「何よ美緒。あんた知ってるでしょ?」

「知ってるけど……私の理解はただの情報。リンネの意見も聞きたいなって」


私が情報として知っている魔物の意味は、まさに私がいま行っている行為の為の素材としての存在だ。

つまり経験値の為の物。

まさにゲームだ。


「んー。私さ、実は直接おばあさまと会ったことないのよね。いわゆる念?それとか時を超える奇跡?みたいなやつだけなのね。でもまあ、抑制効果とか他種族の成長の糧?みたいな」


「私の理解と一緒だね。だから時間がたつと死骸とか消えるのね。不思議」


この世界の魔物は死んで暫くすると消えてなくなる。

何でも魔素という物に還元され、また生まれるらしいのだ。


まさにゲームみたいなご都合主義。

しかも素材になるものや、売れるものについてはちゃんと残るし、食べられる魔物も何故か残る。


きっと作った創造神様は、色々な種族に繁栄してほしかったのだろう。

私はそんな気がしていた。


ちなみに自然豊かなこの世界には多くの種族が暮らしている。


ヒューマンにエルフ、ドワーフにフェアリー族。

ドラゴニュートや獣人族、魔族なんかももちろん暮らしているんだ。


「ふふっ」

「ん?どうしたの急に」

「うん?なんかさ、この世界昔私が遊んだゲームみたいだなって」

「えっ、ゲームじゃん」

「ああ、違うよ?世界を作るゲームがあったんだよね。星を選んで、海作ったり山作ったり、生命誕生させたり。まるで規模は違うけど…なんかルーダラルダ様の優しさが垣間見れるっていうか……」


私は魔法使いのサーチを唱えながらもリンネとお話をつづけた。

リンネももちろん戦える。

でもなんか今は彼女封印状態なんだよね。


「へえ。美緒は分かるんだね。うん、おばあさまはね、優しい世界を作りたかったんだって」

「そっか……」


でも私は知っている。

この世界が何度も滅びの危機を迎えたことを。


「まあ今は考えることじゃないんじゃない?全部救うんでしょ?」

「うん。そうだね」



※※※※※



優しい人が作りたかった優しい世界。

私はかつて地球で行われたマウスを使った実験『universeユニバース25』を思い浮かべてしまう。


もちろん私はただの社会人だったから詳しくは知らない。

短大もどっちかというと文系だったしね。


でも社会学の講義で聞いて興味を持った私はスマホの情報サイトから概要だけはかじっていた。


それは『外敵のいない食事も住環境も整った場所で、マウスがどのように変化していくか』を調べる実験だった。


数組のつがいをそこに放ち、そして瞬く間に増えて繁栄したかのように見えるマウスたち。

しかしストレスのないはずのその世界は同族間の身分格差が構築され、瞬く間に破滅へと向かった。


恐ろしいのは実験タイトルにある数字の25。

つまり25回行った実験が、経過の差異はあれどすべて同じ結末を迎えていた。


もちろん人間には考える力がある。

マウスの様に本能のみで行動するはずもない。

だけど…


美緒はかつて自分が住んでいた日本を思い起こす。

様々な面で弱かった自分。


目立つような迫害は受けなかったけど、他人は自分に対して無関心だった。

生物としての外敵、すなわち天敵がいない人間は、やはり同族間で戦争や迫害などを行っていた。


マウスの実験にはそれぞれフェーズという区切りがあったそうだ。

迎えた最終段階。


その報告を私はただの空想とは思えない嫌な気持ちになったことを思い出してしまう。

現代社会が抱える幾つもの社会問題。


余りに酷似しているそれは、まるで人類の終焉を予想し、あざ笑うかのようで。

美緒は身震いしたことを思い出していた。



※※※※※



私のサーチに、魔物の反応がヒットした。

同時にリンネも戦闘態勢に入る。

彼女もまた気付いたみたい。


「……何これ?……反応多くない?」

「美緒……逃げよう」

「えっ?」


真っ青な顔でつぶやくリンネ。

もしかして私たち、不味いゾーンにまで来ちゃってた?


「リ、リンネ?でも、反応…そんなに強くない様な……」

「そういう事じゃない。…悪魔だよ」

「あ、悪魔?」

「っ!?ひ、ひいいっ、間に合わないっ!?」


突然近づいてくる、ざわざわガサガサというまるで虫のような音。

そして私は思い知る。


「っ!?ひ……いやああああああああああ―――――――――!!!!」

「きゃあああああああああ――――――!!!!!!」


奴が来た。

それも覆いつくすほどの大軍で。


「ゴ、ゴ、ゴキブリ?!!……気持ち悪いっ!!……うああ、フ、フレイムバーストオオオオ!!!!」

「く、来るな、来るなあああああ!!!!『神の獄炎』!!!!!!」


カッ!!!!!

ズドオオオオオオオオオーーーーーーーーーーンンンン!!!!!!


瞬間紡がれた私とリンネの最大魔法。

黒い悪魔はそのほとんどが焼き殺された。


だけど……

奴等はしつこい。


少し小型の、魔法を避けた個体が私の腕にしがみついた。


「い、イヤアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーー!!!!」

「み、美緒?……うあ、キャアアアアアアアアアアーーーーーーーー!!!!!」


そしてリンネにも取り付く。


私とリンネはブチギレた。

そしてそこはまさに地獄と化していた。



※※※※※



なんとか振り切り、ギルドへと戻った私たち。

流石に精神的に疲れ果て、私とリンネはそれぞれ部屋へと戻った。


「……体についてないよね?」


怖かった。

うん。

アイツらはまさに悪魔だ。


「……悪魔……か」


私はベッドに体を投げ出し、天井を見つめる。


「……この世界での悪魔……別の世界の神とその眷属……」


実はさっき言ったこの世界の滅びを迎えそうになった原因。

世界中の種族の同族同士の戦争もだけど……


一番の原因はまさに異世界の神によるものだった。


何故か嫉妬に狂った異世界の神。

それにより3000年前創造神ルーダラルダ様は大きなダメージを受け2代目のマナレルナ様へとこの世界のかじ取りを引き継いだんだ。


「確かその頃よね。コーディネーターであるアルディを創造したのって」


以前リンネが『流入者』って言っていたけど……

……本当はルーダラルダ様が創造されたのよね。


「……干渉を良しとしないルールもその時……何があったんだろ」


私は心を落ち着けて、流入してきた情報を再度検証してみた。

目を閉じ浮かぶ情景……

やがてそれは私の脳内に形を作り、まるで物語のように展開していったんだ。



※※※※※



……2代目の創造神マナレルナ様はルーダラルダ様の指示により世界への干渉をやめた。

それが良かったのかこの星自体が成熟したのかは分からないが、その後約2000年は平穏に時が刻まれていく。

もちろん多くの種族が繁栄と衰退を繰り返したけど。


しかし200年前。


著しく知能を高めたあるヒューマンの一族がこの星の禁忌、つまり創造神を手にかけた。


神の保有するアーティーファクトを欲して。

もちろん通常神に対してヒューマンは無力だ。


しかしその時、創造神マナレルナ様は身ごもっていた。


干渉はしなかったが神はこの星で暮らしていた。

この秘境の地、リッドバレーに存在するギルド本部で。


理屈は分からない。


でもその時、神の絶対防御は働かなかった。

もしかしたらリンネの父がヒューマンだったことが原因かもしれないが…


瀕死の彼女は身ごもった我が子を古代禁呪でシステムへと組み込んだ。

そして施設の絶対防御を発動、もともとこの地を信仰対象にしていたエルノールの一族、スルテッド一族へと神託としてここの管理を任せ…ザザ……たの…ザ……ザザ…だ。


ん?

なんだろ。

……ここの情報だけノイズが走る?


そのあとは問題ない?

???


ともかく。

その時紡がれた伝承。

ゲームマスターの伝承。


そして今に至る。



※※※※※



「……腑には落ちないけどね」


私は思わず独り言ちてしまう。


そもそもなんで地球の日本で発売されたゲームにそういう事が組み込まれたのか、とか。

やっぱりこの世界自体が神様のシミュレーションゲームなの?とか。


なんで全く力のない私が選ばれたのか?とか、ね。


エルノール曰く、


「美緒さまがいらっしゃることは私がサブマスターを引き継いだ数年前に知っていました」


とか言っていたし。


リンネは神様だけど、そんな事情から本当の力には目覚めていない。

そして実の母がヒューマンによって殺されたことも知らない。


……弟君は知ることになるんだよね。

それで狂う。


あいつ、アルディが教えちゃうから。


本当に余計な事ばかりするよね。

私は大きくため息をついた。



※※※※※



あの決意の日から3か月。

私は自身の情報とリンネのスキルにより魔法使いのジョブを極めていた。


「……ヘルフレア」


かざした手のひらから膨大な魔力が紡がれ、青い炎が顕現。

ものすごい速さで目標の地点へと着弾する。


カッ………ズガアアアアアアアアーーーーーーーーーーンン………


大気が震え地響きが伝わってくる。

数百メートル離れているのに熱を感じるほどの威力だ。

遠く離れた森から一斉に飛行できる魔物たちが逃げまどっていった。


「……えぐっ」


ゲームでは殆どエフェクトとかなかったからな~


『ピコン……経験値を取得しました……レベルが上がりました……ジョブレベルは上限に達しています……』


環境破壊及び無差別殺戮をしてしまった美緒は静かに手を合わせた。

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