第9話 意思
羽を広げて浮遊する。俺の中の悪魔が叫んでいる気さえするが、飲み込まれることはない。身体の中に二つの意思が共存しているような、そんな感じだ。
「いい!すごくいい!それを待っていたんだ!」
アーサーも空中に浮かび上がり、電気で作った雲に乗る。天候さえ変えてしまうような2つの力が衝突する。
そんな中でも、俺は冷静だった。羽を羽ばたかせながらただ浮遊感だけ感じる。音もない。まるでこの世界に俺しかいないように。
「
羽から噴出される炎がアーサーの方に飛んでいく。マシンガンのようなその炎を潜り抜けながら、アーサーはやはり抜けてきた。その拳はしっかりと握っていて、もう攻撃体勢に入っているよう。俺は羽を閉じて、防御する。
「
その羽でも抑えきれない衝撃が身体に伝わる。俺は後ろに吹き飛ばされて、遺跡に何回かぶつかった。
「痛ててて。あいつ殺す気だろ。」
弱くなった火をもう1回呼び戻して、羽を広げる。その熱で周りの地面はすぐに溶け、溶岩に変わる。粘性を帯びた炎がさらに粘性を帯び、翼の炎も厚くなる。
その目線の先で何かが光った。それは先生とやり合ったときもやっていたあの技だとすぐに分かった。
「
咄嗟にその攻撃を避けると、雷が落ちたところから地面がめくれ上がっている。威力もあれとは比べ物にならないほど、強くなっている。
「災害だな、お前は!」
「お前も変わらねぇだろ。」
回旋しながら俺はアーサーのところに飛んでいく。そして右脚に火を灯した。赤く燃える脚は空気抵抗でさらに熱を増し、青白く光る。そして、飛んできているアーサーの拳とぶつかった。
ジリジリと空間の歪みが広がりそして俺たちは別々の方向に飛ばされた。羽で身体を守りながら飛ばされていき、大きな遺跡の壁にぶつかった。
「ハハッ!さすがにこれは堪えるなぁ。」
遺跡に埋もれるようにして倒れながら笑う。頭から流れてくる血と痛みが自分も人間なんだと意識させてくれる。てか、こんな戦いをしているのに、こんなか擦り傷しかしていないのは多分俺が悪魔を宿しているからだろう。
もう一度羽を広げようとしても、片翼しか生えてこない。魔力がもう無くなってしまっているのか。もうこれ以上セコンズを維持し続けるのは難しそうだ。
「一旦休憩にしようぜ。」
「そうだな。俺も切れた。」
遠くからアーサーがそう叫んでいるのが聞こえる。セコンズを解除してノーマルに戻し、火の粉に乗って俺は身体を飛ばした。最初にいた遺跡の所まで戻ってみると、先に着いていたアーサーがいた。
「ひとまず、これで2人ともセコンズまで使えるようになった感じか。」
「そうだな。安定はしないけど。」
アーサーもなんの傷もなく、訓練を始める前の様子に戻っている。服だけはボロボロになっているが。戦いの中で俺もアーサーも成長したのか、魔力の流れが変わっている。
アーサーはいつの間にか持ってきていた夕飯を広げていた。
「薬草スープか?」
「そそ。魔力なくなっただろ。」
「ほぼ底ついてる感じだな。アーサーは?」
「俺も同じような感じ。単純な移動だけならできるけど、それ以上は無理。」
アーサーはスープをかき混ぜながらそう呟く。この部屋では時間を同期させていないから外の時間は分からないが、感覚的に8時くらいだろう。
このセコンズを使うと魔力の消費が多い。分かりきっていたことだが、ノーマルとセコンズでは約4倍ほどの差があるだろう。ノーマルでほとんど魔力を使わずに済んでいるからかもしれないが、それにしても燃費が悪い。
「次はどうやって魔力量を増やすかだな。」
「増やし方なんて1つしかないだろ。キャパは戦って引き上げていって、魔物やこういう薬草を食べるしかない。」
「それなら狩りに行かないといけないのか。」
「でも、俺たちには先生の許可なしに狩りには行けないな。」
「だよなー。」
アーサーが注いでくれたスープを飲みながら、これからの展望を考える。目標の第1段階までは来たが、その先のサーズはまだまだ遠い。そのために自分を育てる術も今はない。
「そういう所は先生が考えてくれてるだろ。今は今できることしようぜ。」
「そうだな。」
アーサーの作ってくれたスープは少し温かくて美味しかった。
その夜、ストレッチと入浴を済ませた俺は、ベッドに寝転びながら一冊の本を読んでいた。これは親から渡された、セコンズが使えるようになったら読んだらいいって本。はるか昔から継がれてきた本らしく、ページが破けているところや、文字が読めなくなっているところがあるが、一度使ってみたから何となく感覚は分かる。
「俺が使えたのは
そう呟いて俺は眠りに落ちる。ちょうどいいくらいの疲れで、いい眠りになりそうだった。
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