第8話 自我

 ここまで同年代の奴に対して勝てないという感情を抱いたのは久しぶりだ。あのルペルですら、少しは勝てる気がしているくらいだから。


 でも違う。こいつは、こいつだけには勝てる気がしなくなった。


「上げてけよ!カーディアン!」


空中に浮いたまんまのアーサーは自在に雷を放出している。しかもその速さも威力もさっきまでとは比にならないほどだ。


火蝶レッド・ラビリンス


予測できる分は全部止めているが、その割合も半々くらい。開けている場所だから建物に当たることもなく、そのまま俺に当たる。


「俺にここまで引き出させた男がそんなものかよ!もっとボルテージ上げろよ!」


さっきまで浮いたまんまだったアーサーは俺に近づいてきて、鳩尾に拳を入れる。光の速度とほぼ同じ速さのパンチに防御する術もなく、俺はそのまま吹き飛ばされる。


 腹がジリジリと痛む。肋骨は2本ほどいかれたか。でも、これくらいの怪我なんとでもなる。


「さすがに痛てぇな。殺しに来てるだろ、お前。」

「お前こそ、さっきは殺そうとしてきたくせに。」


バチバチと肌で電気を爆ぜさせながら歩いてくるアーサー。その手にはさっきまではなかった棒があった。


「何だよ。それ。」

「これか?これは空気中の二酸化炭素をバラバラにして、炭素から作ったやつだ。そんで、もう1つ。これは電気を通す。」


アーサーは棒を振る。嫌な予感がして俺は咄嗟に屈んだ。そして背後遥か彼方から何かが崩れるような音がした。


「おぉ、使いやすいなこれ。」


アーサーはその棒を眺めて笑う。真っ黒いその棒は電気を纏い、キラキラと輝いている。こんな棒で攻撃されたら掠っただけでも致命傷になるだろう。


 掌を広げ、円盤を作る。そしてそれを飛ばした。


「何だよ。その礫。そんなので俺を倒せると思ってるのか?」

「思っちゃいねぇよ。火蛇サラマンダー


火蛇はさっき出した円盤の中から出てくる。そしてそれを真っ直ぐアーサーに向かわせた。


「これくらいいくらでも…」

「逃げ切れるか?逃げ切ってみろよ。」


俺は両手を組む。広さはそうだな。俺とアーサーが中に入るくらい。火力は火蝶よりも少し弱いくらい。でも、中から外には絶対に出られないように設定する。


火炎空間レッドルーム


アーサーが逃げるよりも早く、空間を構築する。火蛇が向かってきているのは2方向。そして俺で3方向だ。


「砲火」


左腕から噴出される粘性を帯びた炎が飛んでいく。


「これで焼け切れろ!」

「んなわけねぇだろうが!」


アーサーは突如光り出し、その身体から出る電気で火蛇と砲火を相殺、そして火炎空間を吹き飛ばす。


 でもそれすら想定済み。この遺跡の近くには海があることを知っていた。アーサーも俺も能力的には適していない場所だが、それでいい。


「せいぜいそこで足掻いときな。」


今のアーサーの状態は常に放電し続けている状態。でもここは海。常に放電し続ける水中だ。


 しかし、ここでは俺も滞空できない。炎の足場を作るような場所がないから。つまり俺も海中に飛び込むことがある。


「(でも俺は対策済みだ。)」


やり方は簡単。常に熱を放出し続けること。左腕で熱を作り出し、その蒸発した空間に身を置く。海底に沈んでいくが、苦しくなったらまた上がればいいだけの話だ。


「(さて、アーサーの方はどうだか。)」


アーサーが落ちていった方向に進む。そこには、笑っているアーサーがいた。


ぱっぱびひふんああひあやっぱり自分から来た。」


その手にはあの棒がない。確かにあのとき、俺の攻撃を霧散させたとき、その手には何もなかった。


ほかひひほほほっあおかしいと思ったふほうひ向こうにほひへひへひう置いてきているへんはほ電荷とははへへひっへふはああ離れていってるからな。」


電気は少しずつ溢れ出して行っている。その証拠に周りの魚たちも感電している。こんな状態で何をしかけてこようと言うのか。


ひゃーひはふんへひふチャージは済んでいる


その瞬間、アーサーの手元に異様な閃光が走った。まるで溜めているように。


 嫌な予感がした。もしもあの棒を引きつける手段があるのなら。もしも、その引きつける力ですら自由に扱えるのなら。それは回避不可避の必殺技となりうる。


「雷迎!」


その瞬間、水蒸気爆発を起こし、さっきの遺跡から飛んできた棒が俺の左腹を抉る。


 さっきまで左腕を纏っていた火も消えて、力が抜けていく気がする。


(これで終わりか?コルト・カーディアン)


頭の中で誰かの声が鳴り響く。これはきっとアテナだ。


(まだ終われない。俺はこんな所では止まってられない。)

(そうか、それならそれなりの力を渡してやろう。飲まれたらお前の負け。飲まれなかったらお前の勝ち。どうだ?面白いだろう?)

(あぁ、それ。最高だ。)


 心の中の炎が点く気がする。どこかに押し込んでいた熱のような何かだ。


「身体が暖かい。炎がまるで俺の事を包んでくれている。そんな感じがする。」

「面白いセコンズだな。」

「それはどうも。」


全身から滾っている炎は黄色。そして、背中から生えている翼は轟々と赤く燃え盛っている出来ている。


「烈身・モデルファルコン


手をグーパーしてみる。違和感は全くない。ただ少しだけ動きやすくなったようだ。


「よし、来い。」

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