第4話 柔軟
訓練場は俺たちが自由に設定できる空間だ。環境から広さ、暑さや建造物の硬度まで。この学院のような建物から何も無い平原まで何もかもを作ることが出来る。しかも、それは中に入っている特定の1人の頭の中で想像した通りになり、それによる魔力の消費は一切ない。
「とりあえず、私がヤバいよね。」
「まあ、現状を見る感じはな。」
現状、アリシアよりも俺の方が強いってのは分かりきっていること。それは能力的な部分だ。
そもそも、俺の能力は自分よりも魔力出力が低いもの全てに適応される。つまり、何もしていない時は魔力がゼロであるアリシアも、俺が扱えるものになり得るということだ。
それでも、1対1でよーいドンで能力なしで勝負を始めたら、俺には勝ち目がないだろう。それも分かりきっていること。今まで能力に頼りきった戦い方をしてきた弊害だ。
「俺は俺で体術が弱いからな。そこはよく分かっている。でも、アリシアはもっと強いんじゃないか?」
「強い?私が?」
「そうだ。ストッパーをかけている気がしてしょうがないんだが、俺の勘違いか?」
少なくとも、体の一部に悪魔を移すなんて芸当、俺にはできない。それが出来るということは、剣の中のヘルヴォルを上手く使いこなしているということで、俺たちみたいに元から取り憑いているから使えるのとはレベルが違う。
アリシアは剣を抜く。その魔力はゆっくりと右腕に流れていった。周りの空気も歪んでいくようなそんな魔力は、俺の魔力よりも濃い。出力は多分アリシアの方が遥かに上だろう。今までも剣を何回か使おうとしてきたが、出力が俺の方が低くて無理だった。
「イメージとしては流すって感じより食わせるって感じかな。剣に許してるって感じ。でも、私みたいに魔力が全くないからこういうのができるのかも。」
そう言いながらアリシアは剣を振り始める。その斬撃を避けながら1歩後ろに飛ぶと、周りの木が全部斬られた。それを確認して俺は目の前で手を握る。すると斬られた木が全部アリシアのところに集まっていく。
「それは…ヤバい!」
アリシアは大きく飛んで、集まった木の上に飛び乗る。その頃には俺は1本の木の枝を持って、アリシアの眼前にいた。
「今のところは木を全部切り倒してから抜けるか、木の下を潜り抜けるべきだっただろうな。」
「そうだね。」
アリシアはすぐに俺と距離を取り、すぐにまた構える。凄まじい集中力だ。俺が指を動かすだけで体が反応しそうなほど。
俺は手元の木を凝縮させて、槍のような形にする。葉は数枚をまとめて、身体の周りを回す。
「さあ、第2ラウンドだ。」
俺は葉で作った弾丸をアリシアのほうに飛ばす。それはしっかりと剣で真っ二つに斬られて、地面を転がった。それを見て俺も距離を詰める。リーチの有利を活かしながら詰めるがアリシアはギリギリのところで避けながら、確実に俺に攻撃を入れようと剣を振る。それはしっかりと躱して俺は右脚を踏み込んだ。
地面は割れ、そこから木の龍が飛び出してくる。大きさは20mほど。先端の方は俺の能力圏外だが、そのための攻撃ではない。あくまで、アリシアを地面から離すだけの攻撃だ。
アリシアは龍に喰われないように剣で守りながら、上空に飛ばされる。落下してくるところを見計らって、俺は木に乗り飛び出した。アリシアはまだ落下中。でも、少し楽しそうだった。
「そう来ると思ってたよ。」
アリシアは落下しながら俺の方を向き、剣を振る。飛んでくる斬撃は今までのどれよりも速い。ヒリヒリとした感覚が肌を走り、俺は軌道を少し下に変え、ギリギリのところで避ける。斬撃は頬を掠め、そこから少しだけ血が出た。
その傷もすぐに塞がり、俺は少し出た血に手を触れた。血の量と密度を少し調整して、鎌のような形に変える。そしてアリシアと刃を交えた。
ここまでの動作はあくまで布石だ。剣と鎌で勝負を仕掛けているように感じさせるための。アリシアならこれはきっと避けずに受け止めると分かっていたから。
固体に変えていた血液を液体に戻す。すると、血刃は液体に戻り、アリシアの顔にかかる。
「このままその血を爆発させたら俺の勝ちだな。」
「それはずるいって。てか、
「柔軟性だよ、柔軟性。」
諦めたようにため息を吐きながら、アリシアは剣を収める。俺も操作していた木を全部落とし、血を全部自分の手元に移動させて捨てた。
薄々気づいていたが、アリシアは全身が悪魔なのだろう。なんの悪魔かは分からないが、恐らく剣と同じヘルヴォルだ。それなら、俺のような芸当もできるはずだし、体から剣を生やすことも出来るかもしれない。それはソースの姿がどうなのかによるが。
でも、少なくともアリシアの強さはこんなものじゃないってことは分かった。俺も悪魔の能力を使わないと勝てっこないと思ったんだから。
「なぁ、アリシア。もうちょっと接続できるんじゃないか?」
地面に降りてきたアリシアに俺はそう言った。
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