第2話 格差

「そんじゃ、今日も始めていくぞ〜!」


先生がパンと手を叩いたその瞬間、教室は1人の生み出す空間に包まれた。


「『最高法廷ジャッジズ』!」


ジャッジが作り上げたその空間は、まるで法廷のようなもの。先生は答弁台のようなところに立たされて、動けないように足を拘束されている。ジャッジの後ろには審判のような山羊の怪物がいる。左手には天秤を、右手には木槌を持ち、先生を見下ろしている。


「さて、あなたを裁こうにも、あなたには罪がないので難しいですね。だからこうしましょう。」


ジャッジが手を上げると咆号と共に山羊の怪物が動き始めた。


「『仮想殺人マルガイ』。これであなたは有罪です。」


ジャッジは笑ってそう言う。この技は無実の相手を罪を犯したことにさせ、そして有罪をとる。絶対に逃れなれない技だ。


 山羊の怪物が先生に襲いかかる。が、先生は笑っていた。


「ここまでのアイデアはいい。まずジャッジをぶつけてきたことには点をやろう。でも、甘いな。」


そう、この空間では傍聴人である俺たちには一切の言論及び行動を許可されていない。つまり、動けるのはジャッジ、そして先生だけだ。


「『光の剣ライトニング』」


突如として先生の右手に現れた光の剣。白く輝くその剣を1度振るだけで、山羊の怪物諸共、ジャッジの作った空間は崩れていく。


「惜しかったな。まずは1人。」


瞬間移動した先生はジャッジを蹴飛ばし、ついた土埃を払った。外部3位で入学した男ですら、足元にも及ばない。


 先生がこっちを向いた瞬間、先生は石化して動かなくなった。この能力はそう、カーターのものだ。


「アーサー!」

「分かってる!」


アーサーの右腕から光が放たれる、それと同時に文字も現れて、帯電し始めた。その電気が段々と槍のような形に変わり、周りに雷を落とし始める。


「これでも喰らえ!『雷槍サンダーランス』!」


アーサーの投げた槍は先生にしっかりと命中し、石化した先生は崩れた。


 が、それも光に変わってまた人型になる。


「だから、そういう攻撃は俺には通じないんだって。何回もやってきてるから分かってるだろ?」


後頭部をポリポリと掻きながら立ち上がる先生はまだ余裕がありそうだ。


「そんな力じゃ勝てる相手にも勝てないぞ。あと、悪魔たちにはそんな力通用するわけないからな。」


1歩ずつ歩いていく先生の足元から、氷の結晶のような光の模様が現れていく。


「『アスタリスク』。」


その光は、俺たちの体に向かってくる閃光と変わり、100発を超えるような光の槍が一度に飛んできた。


 光の槍が止んだ頃には、カーターは傷だらけで倒れていた。そこまで威力を強くしていないから生きてはいる。ただ気絶しているだけだ。


「君たちの誰よりも、俺は君に期待しているんだよ。アリシア。」

「それは光栄ですね、先生。」


光の槍を掻い潜り、先生のすぐ側まで近づいたアリシアが剣を抜く。それに合わせて光の剣で対応した先生は、軽くいなすように剣を振り、そしてアリシアを受け流す。


「でも、動きが惜しいな。そう、もうちょっと力を抜いて動いてみる感じだ。」

「なんでこっちは殺しにいってるのに先生はそんなに余裕なんですかね。」

「さあ。」


2人とも机の上に立ち、そして構える。


 すると先生の後方から雷が飛んできた。


「そんな礫、意味ないって。」


光の剣を盾のように変形させて、飛んでくる雷を受け止める。そして余った右手で銃のような形を作って、光の弾丸を飛ばした。アーサーはそれに撃ち抜かれて気絶。


 あそこは聖域だ。剣による対等な会話を望んでいるのだろう。攻撃しようとしていた俺とカーディアンはその足を1度止めてタイミングを計り直す。


「さあ、続きだ。」


割れた窓から風が入ってくる。2人は2mほど距離を取ったまま、動きすらしない。


 そのとき、アリシアの腕に魔力が流れていった。右腕は今、俺たちと同じように悪魔が宿っている状態。でも、その割には澄んでいる。


「それ、疲れるだろ?」

「そうですね。でも、これくらいは払えます。」


アリシアは音もなく動き出し、先生と剣を交える。火花と共に床が抉れていき、足場にしていた机も砕けた。2人は一度離れて、互いの剣をぶつけ合う。順手で8回、アリシアだけ逆手に持ち替えて3回。先生より二回り小さい身体を活かして押し込んだアリシアは、そのまま猛攻を仕掛ける。流石に危ないと判断した先生は、後ろに軽く飛ぶ。アリシアはその瞬間を見逃さなかった。


「『碧空の煌めきジ・オーダー』」


アリシアの斬撃は教室の壁を破り、外に出れるようになった。先生ももちろんそれに巻き込まれたはずなのに、ギリギリで避けたのか、ピンピンしている。


「お手本だ。」


先生も斬撃を飛ばす。その斬撃は、この学院の校舎を真っ二つに分けた。


「あっ、また怒られる。」


アリシアはその斬撃を剣で防いだが、そのまま外の森まで飛ばされていく。でも、アリシアに構ってる暇なんてない。


「行くぞ、カーディアン!」

「おう!」


斬撃を避け、先生の元に走り始める。俺は瓦礫の1つを蹴り上げ、その上に乗った。


「やっと骨のあるヤツらが来たな。楽しませてくれよ。」


先生の魔力がさらに増大する。そして背中に光の円が現れた。


「『光龍リアドラ』」


円から黄色い龍が現れ、その咆号と共に無数の光が降り注ぐ。


「カーディアン、頼む。」

「ああ、『焔龍ヒドラ』」


カーディアンが左腕を地面に叩きつけると、そこに炎が上がり、やがて2匹の龍に変わる。片方に俺が、もう片方にカーディアンが乗ると、光を避けながら進んでいく。


 俺に宿る悪魔、リリスの能力は半径10mの空間にあるものを、自分の思うとおりに操れるというもの。ただし、そのものの魔力出力が自身の魔力出力よりも低いという条件付きだ。


 人差し指をクイッと上げると、狙い通りパイプが1本浮いてくる。魔力の伝導率は低いがこういうその場で調達できる武器ってのは使いやすい。そのパイプを持ちながら、先生の方に近づく。


攻撃アタック会心クリティカル破壊ディストラクション…」


自由の能力っていうものは、扱うものの潜在能力すら操作できる。つまり、攻撃力からスピードまで俺の思い通りなのだ。


 パイプを振ると、斬撃とも何とも言えない、そんな攻撃が空を駆け、地面は抉れる。先生は光に変わり、どこかに消える。が、それも俺たちの狙い通りだ。


「『爆炎ボムズ』」


先生が消えるタイミングを見計らっていたカーディアンが掌印を組み、空間全体を爆発させる。


 先生の光は波動ではない。粒子だ。つまり、爆発で遥か彼方まで飛ばすことが出来るということ。のはずだ。


「そんなに甘いわけないだろ。ばーか。」


気づけば俺の目の前に先生がいて、俺はそのまま蹴り飛ばされる。カーディアンも同じく飛ばされた。


「っし。今日の手合わせ終わり。なかなか良くなってきたが、まだまだだな。」


ボロボロになった教壇の上に立ち、傷だらけの俺たちを見る。何だか楽しそうだ。


「じゃあ、今日の連絡だ。お前たちには2人1組になってもらい、学院内順位決定戦に出てもらう。」

『は?』


突然の出来事に、痛みすらも忘れて起き上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る