待ち合わせのすれ違い

ちびまるフォイ

一部は実際に発生したことを元に書いています

「あーーもしもし? 今どこ?」


『今改札出たところ』


「改札? え? でも俺も改札だよ? どのへん?」


『地下街通り』


「なんで? 中央口って言ったじゃん」


『いやなんか電車急に停車かえたみたいで』


「んーー? そんなことあるの?

 まあいいや。そっち向かうよ」


『わかった』


「はいはーーい」


電話を切って駅の構内を猛ダッシュ。

なんせ地下街は遠くて複雑。

相手をまたせちゃいけない。


「はぁはぁ。もしもし?」


『もしもし。聞こえるよ』


「地下街の改札ついたよ。いないけどどのへん?」


『え? 中央口だけど』


「はああ!? なんで移動してるの!?」


『途中で合流できると思ったんだよ』


「そんなわけないじゃん……。

 地下街なんてめっちゃ入り組んでるのに」


『そうか』


「もう一度戻るからそのまま動かないで」


『え。もう移動しちゃった』


「あーーもうっ。なんで移動しちゃうかなぁ」


『待たせちゃ悪いだろ?』


「だから早く合流したいんだよ!!」


『どうすればいい?』


「ええ……? ちょっと待って」


一旦通話アプリを下げて、今度は地図のアプリを開いた。


中央口と地下街の入口。

その中間地点にはちょうど待ち合わせで使われるスポットがあった。


「あのさ、〇〇の壁画がある場所わかる?」


『わかんない』


「場所送ったから、そこに来て。そこ以外では待たないで」


『うんわかった』


「これならいくらなんでも合流できるだろ……」


通話を切って猛ダッシュ2回目。


待ち合わせ場所に遅れてしまえば

また勝手に移動されてしまう可能性がある。


息を切らせてなんとか待ち合わせ場所の周辺に到着。


ちょうど壁画は修繕工事がされているようで、

真ん前は工事中の看板でバリケードのごとく封鎖されていた。


今度は電話がかかってきた。


『もしもし。壁画の前についたよ』


「あうん。こっちもついた……けど、これ前まで行けなくない?」


『なんで?』


「周囲全部が封鎖されてるじゃん。どうやって入ったんだよ」


『今はどのへん?』


「壁画の前にいけないから、その近くの階段にいる」


『あーー……』


「わかりそう?」


『ちょっと待って。あーー……見つけたかも』


「ほんと?」


『そっち向かう。動かないで。逃げないでね』


「そんなことするわけーー……」


そのときだった。



ーー やっと見つけた!



通話中のまま顔をあげた。


階段の踊り場では息を切らせた待ち合わせ先の友達がいた。

友達はわずかな苛立ちをにじませて話す。


「お前……なんで中央口にいないんだよ……」


「へ?」


「お前が中央口で待ち合わせっつったろ。

 で、いないからめっちゃ探したわ」


「いや俺は最初から中央口に……」


「すぐバレる嘘いうなよ。だったらなんでこんな階段にいるんだ」


「それはお前が……」


「電話してもずっと通話中なのか電話でねえし。

 メッセージ送ってもぜんぜん既読にならないし。

 もうめちゃめちゃ探し回ったぞ」


確認すると、友達から「今どこ?」などのメッセージが山のように積まれていた。

ずっと通話しているから気づかなかった。


「え……? 電話してくれてたんじゃないの……?」


「さっきも言っただろ。お前が通話中だったから

 何度電話してもぜんぜんつながらなかったんだよ」


みるみる血の気が引いていくのがわかる。

電話はまだ通話中だ。


友達はそれにも気づかず不思議そうに尋ねた。


「いったい誰と通話してたんだよ?」




おそるおそる。通話中のままのスマホを耳にあてがった。





『もう少しで捕まえられたのに』

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