第17話:海?の見える町
「え……海?」
ヴァルトさんの転移魔法で移動した先は、砂浜の見える大きな木の下。
カモメの声――波の音――船で大陸脱出か!
「いいや、湖だ」
「は? 湖? だって水平線が見えてるし、波だってあるじゃん」
「デカいからな。行くぞ」
デカい……これが海じゃないとは。
あのカモメも、海だと信じて鳴いてるに違いない。
「ここはどこでちか? あっちに町が見えるでちが」
「そうそう。ここってどこ、なんですか?」
地図を広げたって、ここがどこなのかわからない。
私が買った地図だと、王都からやや南側の一部範囲しか描かれてない。広範囲の地図だと、小さな町は描かれていないっていうからそうしたんだけど。
でも、湖なんてどこにもないし、地図の範囲外ってことになる。
「イグニスの町だ。港町でもある」
「海じゃないのに港町って……」
「海水はちょっぱいって聞いたでちよ」
「だから海じゃねぇって言ってるだろう。遊んでないで、さっさと行くぞ」
もしかして、あの町で地図買ったの……無駄だったかも?
旅人パックも、買ったはいいけど使わなかったし。
いや、これから使うんだ。地図は……買い直そう。
「うわぁ……人が多いぃ」
「そりゃ国境の港町だからな」
「へぇー……国境!? え、ここ国境!?」
がしっと頭を掴まれ「大きな声で騒ぐな」とお叱りを受ける。
いやさっきの時点で国境って教えてくれてりゃよかったのに。
「ここはタントの町から西に行った国境だ。このぐらい離れてた方がいいだろと思ったが、遠すぎたか?」
「いえ! 全然、バッチリですっ。国境ってことは、船に乗って向こうに行けば、違う国ってこと、ですか?」
「あぁ。向こうはエグニドス王国だ」
捜索依頼が出てたとしても、さすがに数日で国境までは届かないだろう。
そして国外まで行けば……国としてはもう追ってこれないはず!
「国境って、どうやって通れるんだろう。モッモ……知ってるわけないか」
「自慢じゃないでちが、ちらないでち!」
確かに自慢にはならないね。
「出国手続きは、役場か冒険者ギルドでやってるぞ。ギルドからだと出国税が安くなるし、面倒くせぇ手続きも全部向こうでやってくれる。ただし、依頼を受けることが前提だけどな」
「冒険者ギルドって、出国手続きもしてるんだ……ふぅんーん」
「冒険者限定でな。この町のギルドはこっちだ。ついてこい」
一般の人の手続きまではしてないってことか。まぁ依頼を受けるの前提だし、そりゃそうか。
ヴァルトさんの後をついて行き、王都にも負けず劣らずなギルドの建物へとやって来た。
人、いっぱいいるなぁ。タントとは大違いだ。
「町の近くにダンジョンがあるんだ。だから常に冒険者で賑わってるのさ」
「へぇ、ダンジョンかぁ」
私が知ってるのは、王城の地下にある人工ダンジョンだけ。
人工といっても、生息しているモンスターは本物だ。別のダンジョンから持ってきた『コア』を移植することで、まったく同じものが生成できるらしい。
違うのは、お宝が出ないってこと。そこが凄く残念だった。
「出国手続きはあっちだ。俺の案内はここまで。あとは自分で頑張れ」
「あ、はい。いろいろ……ありがとうございます」
「ご苦労だったでちよ。褒美にモッモの唇を見せてやるぷぃ――また無視でちか!?」
モッモが喋り出した途端、ヴァルトさんは踵を返して行ってしまった。
人の肩でじたばたしているモッモを摘まんで、前抱っこに持ち帰る。
教えて貰ったカウンターの方に行ったけど、ここも順番待ちの列があった。
並んでたら、後ろから来た人に声を掛けられる。
「ひとりかい? よかったら俺たちと一緒に――」
「…・・ちっ」
「え……いや、女の子ひとりだと、大変だよ? だからさ、俺たちと一緒に行こうよ、な?」
「うざ」
「ん? 何々、聞こえなかったけど。照れてるのかなぁ」
ほんっと、うざ。
普段から「話しかけるなクソ野郎」ってオーラ出しながら生きてるつもりなんだけど、それでも声をかけてくる男が必ずいる。
どうせなら相手をしてくれる女に話しかければいいのに、なんでわざわざ私みたいに色恋とかまったく興味のない女に話しかけるのかねぇ。
理解に苦しむよ。
「次の方どうぞ」
「はい」
一度振り返って男たちを睨みつけ、それからカウンターへと座った。
ヘラヘラ笑って、こっちがウザがってるのも気づいてないみたい。
脳内お花畑かよ。
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