第16話:勇者()サイド

「ミツルギ嬢のことは、もうよろしいのでは?」


 王城の一室でそう話すのは、スウェンティーン王国の国王エスタロイス・スウェンティーン三世。

 誰に向かって話しているのかと言うと、国王が宮廷魔術師に命じて三年がかりで召喚した勇者、佐々間晶だった。


「国王、そうはいかないでしょう。彼女は僕のせいで、右も左もわからない異世界に来てしまったのだよ。僕は彼女の安全を守る責任がある」

「ゆ、勇者殿。貴殿はまこと素晴らしい人間だ。オマケであるミツルギ嬢にまで、そのような気遣いをなさるのだから」

「ふっ。さっきも言ったように、彼女は勇者である僕を召喚した際に巻き込まれたに過ぎないんだ。転移の際に多少の特典を与えられはしたが、所詮は僕のオマケ。ひとりでは何もできないだろうし、何より彼女はか弱い女子なのだ。救いは必要なのだよ」

「勇者殿の慈悲深さたるや……わかりました。必ずやミツルギ嬢を見つけ出し、保護いたしましょうぞ」

「そうしてくれたまえ、国王」


 踵を返し、佐々間晶は部屋を出た。

 自信に満ち溢れた表情とは裏腹に、彼は焦っている。


 国王の執務室に呼ばれた時、その第一声は「そろそろ魔王討伐に出発なさいませぬか?」だった。

 ここへ来て三カ月。

 勇者として召喚され、自身も勇者だと自負している。何より鑑定結果や自分だけに見えるステータス画面には勇者と出ているのだから、疑いようもない。

 だが――


(いつだ……いつ僕は覚醒する? もう三カ月だぞ。未だに『勇者のカリスマ』しかないんだ!?)


 ステータス画面には一つのスキルだけが表示されていた。


『勇者のカリスマ』:その言動の全てが他者を惹きつける。


 それだけだ。おかげで何を言っても信頼され、彼はモテはやされていた。

 生徒会長であり、学校一のイケメンの自分にピッタリなスキルだ。彼はその程度にしか思っていない。


 だがいくらダンジョンに潜っても、それ以上のスキルは発現しなかった。

 スライムは倒せる。ゴブリンも倒せる……一匹なら。それ以外は知らない。対峙すると、何故か足が動かなくなるからだ。

 本人は武者震いだと思っているが、思いたいだけかもしれない。

 だがパーティーを組んでいるのだから、御剣マナが倒した分の経験値も入っているはず。

 ならばレベルが上がっていてもおかしくないのでは?


「もしかすると勇者だから、レベルが上がりにくいのか?」


 などと独り言を口にする。


 佐々間晶。彼は知らない。

 この世界はゲームのようなレベル制ではないということを。

 自分自身が努力し、経験を積まなければ強くなれないということを。


 そして彼は疑わなかった。


 自分こそが勇者である――ということを。

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