第15話:出発

「テントと毛布……あれ、寝袋がない?」


 店員さんが持ってきたのは、ちょっとおきめのリュックだった。

 その中身を取り出して、ひとつひとつ確認作業をさせられている。「あの、


「寝袋なんかに入って寝てたら、夜中に襲われた時、すぐに動けねぇだろ」

「ん……お、おぉ」


 確かにそうかも。急いで起きないといけないって時に蓑虫状態だと、寝袋から慌てて出ようとする間に襲われてしまう。

 だから毛布なのか。しかもこれ、ダブルサイズぐらいある。敷き掛け同時使用ってことかな。


 それから調理器具、コップとフォーク。救急箱に入ってそうな包帯とか、なんか塗り薬とか……。


「あの、これはいらない、かな」

「お嬢ちゃん、小さな怪我も命取りになることがあるんだぜ」

「あ、はい。その……それはわかってるんだけど……回復魔法、使えるんで」


 そう言うと、やや間があって……おじさんは薬関係をそっと抜き取った。


「あぁ、そういやお前、助けた村人に治癒魔法を使っていたな」

「う、うん」

「……ルーン魔法と神聖魔法、か」


 ヴェルトさんがこっち見てる。

 ルーン魔法と神聖魔法は、同じ『魔法』でもその原理はまったく別物。

 同時に使える人なんて滅多にいない――というのは聞いている。


「いや、精霊魔法もあったな」

「ぅ……」


 そして精霊魔法も、さっきの二つとはまったく異なる魔法だ。

 三つの異なる形態の魔法が使えたのは、歴史に名を刻むような大賢者だけ。

 お城でそう教えられたもんなぁ。

 

「ふっ。モッモのご主人様なのだから、それぐらい当然でち。何故ならモッモのご主人様なのでちから!」

「おい、なんで私の頭の上に乗ってんだよ」

「モッモがこいつを見下ろすためでち。ご主人様、もう少し背伸びするでちよ」


 頭を振って落としてやった。


「んじゃあ確認を続けるが、いいか?」

「あ、はい。お願いします」


 リュックの中身は、私が思っていたよりいっぱい入っていた。

 よかった。何も知らずに買い物してたら、テントと寝袋、あと鍋だけ買って町を出ていたかもしれない。






「収納よし、と」

「四角い背負い袋なんて、かわってるでちね」


 背負い袋じゃなくて、学校指定の鞄だけどね。

 肩にかけてショルダーにもなるし、リュックのように背負うこともできる。

 私はリュック派だから、いつもこうして背負ってるけど。この方が手が使えて便利だし。


「三系統の魔法が使えて、空間収納鞄持ちのガキか……そんなガキがいれば、噂になっててもおかしくないんだがな」

「ぅ……えっと……ちょっと訳ありで。ぼ、冒険者になったのはつい、最近だし」

「ふーん……ま、いいさ。誰にだって詮索されたくないことの一つや二つあるだろうしな」


 そう話すってことは、この人もあるってことか。

 そういえば……この人の耳……少し尖ってる。もしかしてハーフエルフってやつかな?

 まぁ、詮索しないでおこう。


「か、買い物、手伝ってくれてありがとう、ございます。じゃ、私もう行くので」

「ぷぃ!? もう行くでちか!?」

「今日中に町を出て、別の所に行くよ」

「ぷいぃーっ! モッモはもっといっぱい、おいちぃ物を食べたかったでち。あ、じゃあ王都に――」

「却下。王都だけは絶対嫌」


 一分一秒でも早く、王都から離れたいっていうのに。

 てかこいつ、食べ歩きするために渡しについて来たんじゃないだろうな。


「普通、駆け出しの連中は王都に行きたがるもんだがな」

「ぅ……だからその……訳ありだから」

「まさか罪を犯して逃げてるとかじゃねぇだろうな?」

「違うっ。悪いことなんて何もしてないし!」


 むしろこっちは被害者だっての。

 勝手に召喚して、勇者のオマケでしたごめーんって。

 生徒会長のすぐ隣にいたから、そこは仕方ないとしても、元の世界に戻せよっていう。

 戻せる方法がわからないまま、召喚魔法使うな!


「あー、なんかよくわからんが、不愉快な目にあったらしいのは想像できる」

「え?」

「ご主人様、怖い顔ちてるでち」

「え?」


 怖い顔、してた?

 あー、うん。まぁ嫌な事思い出してたから。


「と、とにかくそういう事なんで、もう行きますね」


 最後にもう一度頭を下げて踵を返した。


「もっきゅ!? ま、待つでち。モッモを置いていかないでほちぃでち!」


 必死に走って来たモッモが、私の足の上に乗っかる。

 重い。


 片方の肩にずっと乗られてたら、変に凝るし、頭の上だって首が疲れるし、だからって歩かせたら遅いし。

 なんか考えないとなぁ。


 さぁて、どっちに行こう。地図は買ったし、行先はそれを見て考えればいいか。

 まずは南だ。王都がここから北にあるからね。


「王都から離れたいんだろ」


 地図を広げてじーって見ていると、そんな声が後ろから聞こえた。

 

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