第18話:出国クエスト

「船でこの国を出たいんですけど……依頼を受ければ、手続き料が安くなるって聞いて」

「えぇ。役場での手続きだと、出国には四百五十エーン必要になります。ですが冒険者で、且つこちらから指定する依頼をひとつ受けていただければ二百エーンとなりますよ」


 半額以下だ! あと、思ったより高い……。

 旅人パックが五百エーンもしたし、懐事情は既に不安な状態なんだよね。

 金貨……もう一枚取っておけばよかった。


「あの、その中に船賃は……」

「含まれておりません。船賃は片道三百エーンですね」

「さ……だ、大丈夫。ギリギリいける」

「だ、大丈夫ですか?」

「大丈夫です」


 向こうについてすぐ、仕事を探せば大丈夫。宿も安い所を探せば、数日は泊まれるし。

 いや、テントがあるんだから、野宿って手もあるな。その方がいいかも。宿だって私だけじゃなく、モッモの分だってあるんだし。


「では冒険者カードを確認させていただきます」

「あ、はい」


 鉄のカードを見せる。カードを作るときに血を垂らしたりさせられたけど、それで本人確認ができりらしい。

 職員が何か呪文のようなものを唱えて、カードを返してくれた。

 受け取るとカードがぽぉっと光る。


「はい。ご本人の確認がとれました。冒険者になられたばかりのようですね」

「あ、はい。なったばっかりです。あの……ダメですか?」

「え? あぁ、いえ、別に大丈夫ですよ。こちらで依頼内容を調整しますので。そうですね、ちょうどいい依頼がございます。エグニドス王国に渡って、あちらの港町にあるギルドの支部に素材を届けて欲しいんです」


 お使いクエストか。簡単なものでよかった。

 その素材は薬の材料になるらしい。向こうの国だと数が少なくって、こちらから送らないと高騰してしまうんだとか。


「お待ちください。素材を用意してきますので。多少重たいですが、あなたでも持てるぐらいのものですよ」

「たくさんあっても大丈夫です」


 鞄に入れれば重さなんて感じないし。


 職員が奥へ行ってから、五分ぐらいかな。

 バタバタと慌てて戻って来た。


「す、すみませんっ。昨日の朝までは確かに素材があったはずなのに、今見たら在庫がなくって……。べ、別の依頼にしますね」

「別の……あの、その素材ってどこで取れますか? 薬ってことは薬草なのかな」

「いえ、イザーランの迷宮に生息する、レッドベアの腕なんです。正しくは肉球ですが」

「に、肉球……」


 何故かモッモは手を隠した。あんた肉球あるの?


「じゃあ、そのイザーランの迷宮って所に取りに行きます」

「え? で、でもひとりじゃ危険ですよ? それにあなたは駆け出し。依頼を引き受けさせるわけにはいきません」

「大丈夫です。ひとりでも行けますから」

「ダメです! 命を粗末にしないでくださいっ」


 この人もタントの町の職員と同じタイプか。

 うぅん。いくら大丈夫だと言っても、理解してくれなさそうだ。

 この人の言う通り、私は駆け出しの冒険者。そこは間違っていない。


「な? ひとりじゃ大変だっていっただろ?」


 急に男の声がすぐ隣から聞こえた。

 右頬に男の頬が触れ、左肩を抱き寄せるられる。


「そうそう。イザーランの迷宮ね。俺たちが一緒にいってやるよ」

「君は後ろで見てるだけでいいよ」

「モッモ、噛みつけ」

「はいでち! ガブッっちょ」

「イ、イッテェー!? な、何しやがるっ。こっちは親切で言ってやってんだぞっ」


 どこが。下心しかねーだろ。


「あ、あの……ギルドでの言い争いは――」

「なぁお嬢ちゃん。駆け出しだからわかんねぇかもしれねぇが、ダンジョンってのはな、お嬢ちゃんみたいなか弱い子が行くには、危険が多いんだよ」

「そうそう。だからお兄さんたちが、君を守ってやろうって言ってんだ。な?」

「……クソが」

「い、今、何て言ったのかな?」


 クソがって言ったんだよ。そう説明するのも面倒くさい。


「クソがって言われたんだよ、てめぇらは」

「イデデデデデッ。誰だ! 何しやがるっ」


 あれ、この声は……。


「ヴァルトさん?」


 私の肩に触れようとしていた男の方を、ヴァルトさんが鷲掴みにしている。

 後ろに払いのけると、私の隣に立った。


「こいつとは知り合いだ。ひとりじゃ依頼を受けさせられないっていうなら、俺が協力する。だったらいいだろう?」

「えっと……あ、はい。大丈夫です」

「え? ヴァルトさん?」

「なんでちか。モッモに会いたくなったでちか」

「ペットに興味はねぇ」


 協力って、一緒にダンジョンへ行くってこと?

 でもヴァルトさんは自分の仕事があるんじゃ。


「てめぇ、横から出て来て俺たちの邪魔をするのか!?」

「邪魔? いったい何を邪魔したっていうんだ? あぁー、貴様らがガキを口説く邪魔か? そりゃ悪かったな。だが相手にされてなかったように見えるが」

「う。うるせぇ!」


 あ、図星だってわかってんだ。

 てかアレって口説いてたの? いやいや、あんなのでなびく女はいないだろ。

 よっぽど女とは縁がなかったんだろうなぁ。


「俺たちはDランク……いや、次の昇級に必要なポイントは溜まってるし、実質Cランクだ。そんな俺たち三人より、貴様ひとりの方がいいっていうのか? そんな訳ねぇよな」


 何言ってんだろう、あいつ。

 相手の実力を肌で感じとれない雑魚なんだろうな。

 ヴァルトさんは強いよ。どのくらいかっていうのはわからないけど、少なくともあんたらよりは確実に強い。もしかすると私より……。


「お、おい……ヤバいって」

「はぁ? 何がだよ」

「あれ、あれ見ろよ」


 急にひとりが怯えだした。あれって、なんだろう?

 ヴァルトさんの方を見ているけど……あれ、冒険者カード持ってる。

 なんか見せつけてるように見えなくもない。


「え……Sランクだと!?」

「い、いい、行くぞっ」

「クソっ、覚えてろよ!」


 うわぁ、なんだあのコテコテな負け犬の遠吠えは。


 それよりもSランクって……冒険者ランクの上から二番目じゃん!?

 つ、強いってのはわかってたけど、そこまでとは。

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