第13話:怒られた

 翌日の昼過ぎに、王都から冒険者が到着した。

 昨日のことを話して、それから廃坑まであの人の転移魔法で行って、中を調査して。

 オークやオーガの残党はなし。他に捕まっている人もなし。

 ただ、元々ここに住んでいたゴブリンが集めたっぽい石が結構あった。

 鑑定すると金が含まれていたから、換金すればそこそこのお金になる。これは応援で駆け付けた冒険者で分配することになった。


「じゃ、俺たちは王都のギルドに戻って報告をする。一度失敗した土地にはダークエルフも戻ってこないだろうが、周辺地域に警戒を呼び掛けないといけないだろうな」

「タントの町には俺の方から話しておく。あそこなら転移が使えるからな」

「便利な魔法が使えて羨ましいよ」


 とか言ってみんな王都に帰って行った。

 残ったのは私と、最初に駆け付けたあの人だけ。


「俺はタントに行くが、お前はどうするんだ? 行くなら転移の魔法を出してやるが」

「手数料とる?」

「……とらねぇよ」

「かわいいモッモのこのプリティーボディーを触らせてやるでち」

「行くぞ」

「モッモをむちするなでちぃーっ!」


 でも……このまま行ってもいいのかな。村の人たち、みんな不安だろうし。

 朝から亡くなった人の葬儀と埋葬を終え、今は片付けに終われている。

 大工を雇うって話を、さっき村長さんたちがしていた。

 わずかなお金で、何人雇えるか。そんな話だった。


「ここから先は当人たちの問題だ。俺たち冒険者が介入する必要はない」

「え……」


 考えてること、見抜かれてる?


「それともお前は、ここに留まるつもりか? このままこの村で暮らすつもりなのか?」

「それは……違う……」

「だったら割り切れ。いちいちその後のことまで気にかけていたら身が持たないぞ。こんなことはしょっちゅうあるんだからな」


 そうだ。私には私の目的がある。

 村の人たちのことは心配だけど、だからってここで立ち止まるわけにはいかない。

 

「見ろ。村の連中の顔を」

「顔……」


 モンスターに拉致られて、恐怖を拭いきれない人の顔……ううん、違う。

 まだ気持ちが落ち着かず、怯えた表情の人は確かにいる。

 でも、壊れた家財道具を運びながら笑みを浮かべている人もいる。

 

 復旧させようと、みんな頑張ってる。

 私が心配しなくたって、村の人たちはちゃんを前を向いているんだ。


「うん、わかった。町に戻ろう」

「じゃあ、魔法陣を出すぞ」


 彼が呪文を唱え、地面に魔法陣が出現する。

 一歩を踏み出す時――


「お姉ちゃん! お父さんを助けてくれて、ありがと~。きっとまた来てねっ。その時は僕は育てた野菜で、美味しいご飯をご馳走するよ!!」


 そんな声が聞こえて振り返ると、トットくんが笑顔で手を振ってくれていた。






「無茶をしないでください!! オークやオーガは、ゴブリンなんかとは違うんですからねっ。それにダークエルフまでいたなんて。まだ若いんですから、命を大事になさって!」

「えっと……はい、すみません、でした」


 町に戻って来て、冒険者ギルドへ報告をしにやってきた。

 夕方も過ぎてて、外は薄暗くなってきている。

 元々過疎っていたギルドだから、この時間にはもう冒険者は誰もいない。

 そこで私は、あの職員に怒られていた。


「まぁこいつもひとりでやれる自信があったから飛び出して行ったんだろう。実際、俺が到着したときにはオークもオーガも全滅させたあとだったしな」

「そ、それは……はぁ……。とりあえず素材をお預かりします」

「は、はい」


 なんか本気で心配してたみたいだ。私自身は、この人が言う様にひとりでもなんとかなるって思ったのもあったんだけど。

 でも職員は私のことを知らない。魔法も神聖魔法も使えるってことを。

 しかも冒険者登録したての、駆け出しだしねぇ。


 はは。よく考えたら心配されて当たり前か。

 心配……心配、してくれるんだ……。ほとんど知らない、私のことなんかを。


「査定額は二万三千エーンです。あとギルドから特別ほうしゅうとして二千エーンを加え、合計二万五千セーンとなります。よろしいですか?」

「に、二万!?」

「ご主人様、ご馳走がいっぱい食べられるっぷぃ。モッモは金のリンゴが――」

「そんなもんはない」


 にににに、に、二万。

 この世界の一エーンって、日本円にすると約百円ぐらいな感じなんだけど、そうなると……に、二百五十万!?

 え? うえぇぇ!?


 貧乏から一気に金持ちになった!


 こ、これで武器が――いや、武器はいらないんだった。ダークエルフの落し物があるし。

 あ。


「あ、あの。ダークエルフが持ってた武器、拾ったんです。あの、これって」

「まぁ、よかったですね。そちらも売却されますか? ダークエルフが持っていたものなら、魔法が付与されていたり、魔石で強化されたおのがおおいですし」

「いえ、その……自分で使いたいんですけど、いいですかね?」


 そう尋ねると、職員は首を傾げた。


「拾ったのなら、拾った人のものですよ?」

「あ、はい。じゃ、使います」


 ってことは、やっぱり武器は買わなくていい。

 一番お金使いそうな部分が解決したし、この大金どうしよう!?


 となると、こうかな。


 さっき渡されたお金の入った巾着から、金貨を一枚だけ取り出す。これ一枚で千エーンになる。


「あの、このお金――」


 職員に差し出したのは巾着の方。


「これで大工さんを雇って、あの村の復旧資金にしてください」

「え、でも……大金なんですよ!?」

「はい。私、武器持ってなかったから、お金が溜まったら真っ先に買おうって思ってて。でもタダで手に入れたし、だからいいんです」

「ご、ご主人様はなんて無欲でちか……。さすがモッモの勇者様でち。そんなご主人には、モッモのお腹に触れる権利を上げるでちよ」


 そう言ってモッモはカウンターの上に仰向けになって寝転んだ。


 さ、宿に行くかな。今日はお風呂のある宿に泊まろうっと。


「ご、ご主人様!? モッモをお忘れですよ! ご主人様!?」

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