第12話:無事帰還

「そうだったのかい。マナさんはずっとダンジョン通いだったんだね」

「そ、そうなんです。すみません、手伝ってもらって……その、ありがとう、ございます」


 手際の悪さをおじさんに見られていて、素材剥ぎをトットくんのおじさんが手伝ってくれた。

 オーガは素材になるのが角だけ。でもその角は結構高値で売れるらしい。 


「いやいや、お礼を言われるようなことじゃないよ。わたしは――いやわたしたちはマナさんに救われたんだ。こんな程度じゃ返しきれない恩を受けたんだよ」

「と、通りかかっただけですから」

「はっはっは。こんな廃坑に通りかかる人も、そう滅多にいないだろうけどねぇ。謙虚な子だよ、マナさんは」


 謙虚とかじゃなく、なんかお礼とか言われると落ち着かないだけだし。

 今まで――ううん、おばーちゃんに引き取られるまで、誰かからお礼を言われことなんてなかった。

 お礼を言わされたことは何度でもあるけど。


 人に対して苦手意識を持つのは、あの人たちに育てられたのが原因。

 母の義理妹一家に……。


「おい、まだやってるのか」


 嫌なことを思い出していた。でも呼ばれたおかげで、意識がこっちに戻ってくる。

 さっきの男の人が、呆れた顔をして立っていた。


「あ、えっと……」

「この子はダンジョン専門の冒険者なんだそうで、剥ぎ取りに慣れていないんだよ」

「ダンジョン専門? あぁ、死体を弄くるのが苦手ってことか。だったらこうすればいい」


 ん? なんか呪文? 唱えて……えぇ!?

 ぷかぁっと浮かんだオークの死体から、耳と牙が一瞬でスパスパッと切り落とされた!?

 しかも数体まとめて。

 な、なにその魔法! 私知らないよっ。


「風の精霊魔法とルーン魔法の『エア・ウィンド』それから鑑定を掛け合わせた、死体解体用のやつだ」

「え、ちょ。それ三つの魔法を混ぜてるってことじゃ」

「あぁ。お前にもできるだろう。その魔力があるんだからな」


 いやできるだろうって。

 んん? この人、私の魔力がどのくらいかわかるの?

 まぁ実力のある魔術師なら、相手の魔力量も見ただけでわかる――みたいなこと、宮廷魔術師がドヤ顔で言ってたけど。

 

 魔法を掛け合わせるのって、物凄く難しいって聞いた。

 ほとんどの場合、不可能だって。

 ただ、賢者級にもなればできなくもない――とも。

 つまりこの人、賢者級の魔法の使い手!?


 見た目は結構若いけど、いるところにはいるもんだね。天才って。


 でも習いたい。あの魔法があれば自分でブツブツ切らなくて済む。触るのが気持ち悪いんだよね。あと切るときの感触とか。


「終わったなら行くぞ。あとこれは素材剥ぎ代行手数料と、そのモルモルモットを助けてやった報酬で貰っておく」


 そう言って男の人はオークの牙を一つ取った。

 それだけでいいの? もっと持っていってもいいんだけどさ。


「ちっちっち。モッモのことは、モルモルモットと呼んで欲ちくないでちね。モッモはモッモでちから!」

「はぁ?」

「モッモはモッモでちから!」

「行くぞ」

「グクククッ! モッモをむちするなっぷぃーっ!」


 無視して行こう。






「転移魔法の準備をしてきてたんだ……」


 坑道から出ると、男の人が転移魔法を唱えて全員帰還。

 転移魔法を使うには、転移したい場所を予めセーブしなきゃならない。セーブっていうか、魔力を込めた力場を作っておくっていうか。

 とにかくそれをしないと転移できない。


「楽をするための基本だろ」

「ら、楽……なるほどね……」


 楽をするためにっていうけど、その魔法は賢者クラスの魔法なんだけどね。

 私も使えるけど、使ったことはない。

 まずダンジョンでは使用できないし、お城から出たこともなかったから使う機会がなかったってのもある。


 そう考えたら私、モッモがいた森で球根集めしてた時も、転移魔法で帰ればよかったんじゃん。

 今度から転移魔法のセーブも、こまめにやっておこう。


「お、お父さん!」

「トット! 無事だったかっ」


 ……無事に助けられて良かった。

 誰か食べられているんじゃないかって不安だったけど、全員無事だって言ってたし。

 結局、亡くなったのは村にあったあの遺体の人たちだけか。


「マナ様、本当にありがとうございました」

「え? さ、様!?」

「あなたはこの村の恩人です。なんとお礼をしたらいいか……今お出しできるお金は――」

「ちょ、別にいいって。わ、私はただ、通りすがりだし。お、お金はオークとかの素材を売れば貰えるから、別に、いい」

「し、しかし」

「私に渡すお金があるなら、壊れた家を建て直す費用に充ててっ、ください」


 村の半分近くの家は修理が必要だし、何軒かは人が住めないほど壊れている。

 建て直す費用だって結構いるだろう。


「……わかりました。正直言って、確かに今この村はお金に余裕がありませんから、そう言っていただけて有難く思っております」

「それより、あんたが村長か? 廃坑に連れて行かれたあんたらが全員無事だったのに、何か理由はないのか」


 割り込んできたのは、冒険者のあの人だ。

 全員無事だった理由って、みんな無事だったからいいじゃん。理由は必要なの?


「は、はい。奴らは――いえ、ダークエルフはわしらのことを、奴隷だと言っていました。死ぬまで一生働かせるだとかなんとか」


 ど、奴隷!?

 死ぬまで働かせるって、いったいどこで。何の仕事をさせるつもりだったの。


「奴は転移の魔法を事前に準備していたようだし、もしかすると別の場所に連れて行くつもりだったのかもな」

「で、でもそれなら、わざわざ何日もあの坑道に閉じ込めておく必要って、ないんじゃ」

「周辺の他の村も襲うつもりだったんだろう。実際昨日の深夜、ゼツの村にオークが姿を現している。たまたま村の宿屋に冒険者がいたから追い返したようだがな」


 あいつら、他の村も襲うつこりだったんだ。

 ダークエルフをひとり逃がしてしまったけど、連れて行かれる前に救出できてよかった。

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