第11話:棚ぼた

「モッモ!?」


 宙に舞うモッモに向かって、黒い刃が飛んでくる。その刃を、モッモはまともに喰らった。

 そんな……モッモ!?

 落下する前に慌てて救い上げる。

 モッモはグッタリしていて、それで……。


「モ、モッモのことより、あいつ、でち。ダークエルフ、倒すで、ちよ」

「モッモ!? すぐに回復を――」

「チッ。モルモルモットか。下等生物の分際で、このわたしの邪魔をするな!」


 ――下等。

 あいつ、今モッモのこと、下等って言った?

 モッモは私を庇ったってのに、バカにした?


「私、お前みたいな奴、大っ嫌い」

「それがどうした! かかれっグズども!」


 ダークエルフの号令で、残ったオークとオーガが襲って来た。


 パチンと指を鳴らして、魔法を再発動させる。直近の魔法は、魔力を練るだけでも再発動できる。ただし、威力は半減するけど。

 でもそれで問題ない。

 ウィンド・ジャベリンはさっきと同じようにオークと、そしてオーガの心臓を貫いた。

 雑魚は全部片づけた。残りはあいつだけ……ううん、もう一匹いるな。


「クッ。人間め。よくも邪魔をしてくれたな!」

「おー、さすがダークエルフ。オーガより流暢に喋ってる」

「§¶Θεκб!」

「ごめん、何言ってるかわからない」


 なんかご立腹なようで、私にはわからない言語でまくし立てている。

 だからわからないって言ってるじゃん。

 あ、なんか呪文唱えだした。あれは精霊魔法かな。私も少しだけ精霊魔法を使えるけど、ちょっと言語が違うから自信ない。


「やっぱり精霊魔法か。闇の精霊を召喚したってことね。はいはい」

「死ねっ、人間!」

「お断りします」


 返事をしてから、私も精霊を召喚する。


「光の精霊、清らかなる乙女――」

「な……何故……何故小娘ごときがソレを召喚できるのだ!? あ、ああ、あぐああぁぁーっ」

「聖なる使徒――ヴァルキリー」


 辺りを光が包む。どこかで闇の精霊の断末魔が聞こえた気がする。聖なる光によって、闇はかき消されたんだろう。

 邪悪な存在であるダークエルフも、両手で目を覆って右往左往している。

 指の隙間からこっちを睨んでいるのが見えた。また何か呪文を唱えだしている。

 でももう遅い。


 私が右手を掲げ、振り下ろす。


「ヴァルキリーズ・ジャベリン!」


 召喚した光の上位精霊ヴァルキリーが、私と同じように右手を掲げ、振り下ろす。

 光の槍がダークエルフの頭上に降り注ぎ、最後はヴァルキリー自身が槍を構えて奴を貫いた。

 光によって貫かれたダークエルフの体には、傷らしい傷はない。精神、生命を削り取られて、その魂はもうここにはない。


「やったでち! ダークエルフを倒ちたっぷぃ!」

「モッモ、無事だったの!?」


 いやなんかめっちゃ元気じゃん。なんで?


「もるぷぃぷぃ。モッモは魔法に――」

「モッモ!」


 もう一つあった気配が動いた。魔法じゃない。投擲による攻撃!

 しかもモッモを狙って――


 キーンッと甲高い音が鳴り響く。

 飛んできた短剣は、別の短剣によって弾かれていた。


「ぷぷぃぷぎゃーっ! なななななななんでちかっ」


 二本の短剣。一本は隠れていたもうひとりのダークエルフのもの。

 じゃあ、もう一本は?

 飛んで来たのは私が入って来た坑道の方から。

 視線を向けると、真っ暗闇の中から男が出てきた。


「ガキがひとりで飛び出したって言うから急いで来てみたが、随分と派手にやってるようだな」

「……どちらさま?」

「お前と同じ冒険者だ。タントの町のギルド職員に頼まれて来たが、無駄骨だったようだ――クソッ。無駄話し過ぎた」

「え? あ、ああぁぁー!? に、逃げたぁぁっ」


 突然ダークエルフの気配が消えた。魔法を使ったんだ。たぶん転移系か何か。

 なんかダークエルフがオーガたちのご主人様みたいな感じだったけど……ご主人様……。


「モッモ!? モッモ、怪我はっ」

「キュ? モッモは怪我ないっぷぃ」

「怪我はないって、あんたモロに魔法喰らってたじゃん!」

「クッククク。モッモは不死身でち」


 は? モルモルモットって、そういう類のモンスター?


「知らねぇのか。モルモルモットには魔法が一切効かねぇ。だが物理攻撃にはまったくと言っていいほど耐性がない。そういう生き物だ」

「え? そ、なの?」

「モッモ凄いでちよ?」

「だったら先に言ってよっ。心配して損し……あ、あぁ! そうだ。村の人」


 し、心配とか、してないし。それより村の人だ。

 早く解放してあげないと――そう思ったけど、乱入してきた自称冒険者だという男の人が、もう枝を斬って救出していた。

 次々に中から出てくる村の人。その中にあのおじさんもいた。


「マナさんっ。息子はっ、トットを知らないかい!?」

「村にいます。無事ですから、安心、してください」

「あぁ、よかった。神様……マナさん、ありがとう。君にまた助けられるとは思ってもみなかったよ」

「……た、たまたまですから。たまたま……じ、じゃあここを出ましょう。アレがあるから落ち着かないだろうし」


 アレっていうのは、モンスターの死体だ。

 どういう原理なのかはわからないけど、この世界のモンスターは死ねば四、五時間で死体が消える。ダンジョンの中にいるモンスターは、もっと早く消える。

 消える前に剥ぎ取った素材は残ってるけど、死んでから時間が経つとそれに合わせて素材も劣化するって仕組み。


「おい。死体から素材を剥ぎ取らないのか」

「え? あ……でも」

「今回のは正式な依頼じゃねえから、タダ働きだぞ。それが嫌ならちゃんと素材を持ち帰ることだな。こいつらは俺が外に連れて行く。お前はやることをやれ」

「う、うん……ありがとう、ございます」


 とお礼を言ったものの、死体から素材を剥ぎ取るってのが……。

 はぁ……。ダンジョンのモンスターだと、素材がポロっと出るんだよねぇぇ。

 でも地上のモンスターだとそうはいかなくって、解体……しなきゃならないんだよ。

 そういう仕組みだっていうのは教えて貰ったけど、解体の仕方は教えて貰ってないし、どこが素材になるのかも知らない!


「どちたでちか、ご主人様」

「あー……モッモはこいつらのどこが素材になるか知ってる?」

「ちってるでちよ。オークは耳が薬になるでち。牙は刃物を研ぐのに使えて、粉にちて鉄と混ぜると切れ味もよくなるっていうでぷぃよ」

「み、耳と牙……うっ。これ切り落とさなきゃいけないの? いや、剣とか持ってないし」

「剣、落ちてるでちよ」


 落ちてる?

 あ――ダークエルフが投げた短剣!

 装備したら呪われたりしないか、念のため鑑定っと。

 うわ……これ地味にいい短剣だ。

 中級以上のモンスターが落とす魔石と鉄を精錬した刃で、切れ味と耐久性が通常のものより遥かに優れているって説明に出てる。

 しかも魔法との相性もよくって、付与効果が二割増しになるって。


「あっちにもあるっぷぃ」

「あっち? お、おおぉぉ!」


 最初に倒したダークエルフがいた場所に、細身の剣が落ちていた。

 ヴァルキリーありがとう!

 剣を残してくれたんだね!


 やったね。これでモンスターを消し炭にしないで、素材を取ることができるようになる。

 あとは……素材剥ぎに……慣れなきゃいけないけど。

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