第10話:百三十歳超え

「そ、そこに……村の人たちが……」

「ん、わかりました。じゃ、行ってきます」


 オーガに捕まってた女の人を地下室に連れて行き、奴らがどこにいるのか聞いた。

 森の北側に山があって、そこに村の人たちは連れて行かれたみたいだ。

 元々はゴブリンの巣穴で、今はオーガとオークが住み着いたんだろう。


「い、行くって今からか!? もう外は暗くなっているんだ、明るくなってからに――」

「朝になるまでに何人殺されますかね?」


 怯えるように叫んだおじさんも、そう言えば口を噤んで黙った。

 私がいない間にオーガが来たらどうしようって不安なんだろうね。


「心配しないでください。ちゃんと結界を張っていきますんで」

「お姉ちゃん、魔法も使えるの?」

「うん、そうだよ。今は武器がないから、魔法しか使ってないの」


 武器を買いたいけど、魔法を使うと高確率で消し炭になってしまう。

 風属性の魔法のほうがいいかもしれない。でもグロくなりやすいから、あんまり好きじゃないんだよね風は。


「結界から出なければ平気なんで、まだしばらく地下にいてください」

「わ、わかったよ。ほ、本当に大丈夫なのかい? その、こっちもだけど、君の方も」

「どっちも大丈夫です。じゃ、急ぎたいから行きますね」

「モッモは――「来いよ」ぷぃぃ」


 こそこそと地下室の奥へ行こうとしたから、首根っこを摘まみ上げてそのまま梯子を上った。

 歩いていくと時間がかかりそう。少しでも早く行きたいんだけど。


「モッモ。夜でも馬って走らせることができる?」

「できるっぷぃ」

「じゃあ北の山まで走らせて」

「ぷぃぷぃ、キューイッ」


 地下室から少し離れた木の枝に馬を止めてある。

 モッモが馬に話しかけ、私が乗ると馬は歩き出した。

 魔法の明かりで馬の前方を照らす。でも今日は満月で、意外と明るい。


「森を突っ切れない?」

「ダメでち。この森には馬や馬車が通れるような道はないでちから、足元が悪いっぷぃよ。馬があちを引っかけて転倒ちたら、ちんでちまうでち」

「迂回路しかないってことか。わかった、できるだけ急ごう。頑張って、お馬さん。気休めだけど――――女神の祝福、生命の活力……『ブレッシング』」


 神聖魔法のブレッシングは、身体能力を一定時間上昇させる効果がある。

 あと少しだけど、体力の消耗を抑えるって効果も。


「ヒヒヒヒヒィーン!」

「ぷぃーっ!? は、張り切りすぎでちぃーっ」

「いよぉーし! いっけぇー!!」


 予想外に馬は元気に走り出した。これなら思ったより早く着けそう。






 何度も何度もお尻にヒールをして、山までやってきた。

 オークやオーガが行き来しているせいか、馬が歩ける程度の道ができていて迷うことなく巣穴まで到着。


「緩い斜面でよかった」

「モッモは馬と一緒に――「来いって」やっぱち……」


 巣穴の入り口から少し離れた所で馬を止め、暗がりでも目が見えるように『暗視』の魔法を使う。

 入り口には何にもいないな。じゃ、中に入るか。


「モッモ。ちゃんとしがみついててね」

「キューッ」


 ハムスターぐらいの大きさだったら、制服のポケットにも入ったんだろうけど。モルモットサイズじゃ無理。

 ぷるぷる震えているというより、たんにキョロキョロしているモッモを肩に、巣穴の中へと入って行った。


 元々はゴブリンの巣穴。にしては天井が高いし、木材で壁を補強してある。


「これって鉱山か何かだったのかな」

「こ、ここは昔、モッモが子供の頃まで、鉄が取れる穴だったでちよ」

「モッモが? 一、二年前ってこと?」


 モルモットの寿命って、たぶん犬や猫よりは短いんじゃないかな。

 そう考えると十年前後だろうけど。


「違うっぷぃ。モッモは確かに若いでちが、百三十を少ち過ぎた立派な大人でち」


 ……は? 百三十歳超え?

 え、うそ。ジジぃじゃん。

 でもモッモは若いって言ってるし、モルモルモットの寿命ってめちゃくちゃ長い?


「じゃあ……百年ぐらい?」

「でち。ゴブリンは自分たちでは穴を掘らないでち。既にある穴を自分たちの巣にするでちよ」

「廃坑を利用した巣か。結構奥が深そう」


 とはいえ、オーガが通れるぐらい広い坑道は少ない。

 村で見た奴は、私がバンザイしても届かないぐらいの身長があった。

 今通っているメインの坑道から枝分かれしているのは、ほとんどが小さな横穴。まぁ私は通れるけど、オーガが通れそうにない。

 メインの坑道を進んでいくと、案の定奴らを見つけた。


 入り口からそう遠くはない、広くなった場所。

 そこにオークが二十体ぐらい、それからオーガが四体いた。

 捕まった人たちは……あ、いた。

 横穴の一つに太い木の枝を何本も刺さっていて、まるで牢屋のようになっている。その奥に人がいるのが見えた。

 

 ここは松明が焚かれているから、暗視はもういらない。モノクロだから見づらいんだよね。


「あいつらが村の人と離れててくれてよかったよ。全部まとめて切り刻む」

「ぷぇっ。でででで、でも、いっぱいいるでちよ!?」

 ――でちよ――でちよ――でちよ。


 モッモの大きな声が坑道内に響き渡る。

 その小さな体のどこから、そんな大きな声が出せるんだか。


「ウガッ。ウガアガガガァ!」

「に、んげ、ん。にん、げん。にんげん!」


 オークもオーガもこっちを見て、地団太を踏み始めた。


「ピュイーンッ。みみ、見つかったっぷぃ!?」

「そりゃあんたが大きな声だすからね。見つからない方がおかしいって」


 棍棒、石斧、それらを手にオークたちが突進してくる。

 あぁ、いいな。あんな連中ですら武器を持ってるよ。


「腹立つ。――風の鉾、貫け……『ウィンド・ジャベリン』」


 一点集中型の風の魔法。円錐型に渦巻く風が、オーク目掛けて飛んでいく。

 狙うのは心臓。


 風の鉾は勢いを止めることなくオークの胸を貫き、ドウっと音を立てて倒れる。

 辺り一面が血の海へと変わった。


「よし。今回はうまく魔力を抑えられたぞ」

「キュッ。お、抑えられたって……抑えられなかったら、どうなっていたでちか」

「鉾のサイズが大きくなりすぎて、ミンチ」

「キュッキューッ!? ご主人様怖いでち。危険人物でちぃ」

「うるさいなぁ。これでもマシになった方なんだからね」


 さて、残ってるのはオークが……八体と、オーガが四体か。

 じゃ、同じように風の鉾で――


 呪文を口にしようとした瞬間、別の方角から魔力を感知した。

 

「ご主人様、危ないっぷぃーっ!」

「モ、モッモ!?」


 突然肩から飛び降りたモッモが、宙に……舞った。

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