第9話:オーバーキルの悲劇

「オーガが村に来たのは三日前の昼過ぎでした。その時は一体だけだったし、すぐに森へ引き返したから慌てることはないだろうと思って……」


 地下室でこれまでの経緯を聞くことにした。

 森の方へと戻ったオーガは、だけど夜中に仲間を連れて戻って来た。

 最初から偵察をしに来ていたんだろうな。


 三日間、このくらい地下室でじっと息を殺して助けが来るのを待っていた。

 私が来て、今ここには魔法の明かりが照らしている。

 明るいことに安心したのか、子供たちは眠ってしまった。


「オーガは何体かのオークを従えています。奴らはわしらを村の外に出さないよう、見張っていました。二人ばかりが見せしめに……殺されました」

「なんで村に閉じ込めたんだろう。村を襲撃したのなら、その……変な話、皆殺し、にするよね?」

「わしらにも理由はわかりません。ただ知恵をつけた妖魔が、人間を家畜のように扱うというのは、耳にしたことがあります」

「奴らは腹を空かせたときにだけ、俺らを食う気なんだろう。その証拠に、村のもんは連れて行かれちまったし」


 人間を家畜に!?

 だったら急いで助け出さないと、食べられてしまうっ。


「そうだ。トットくんのお父さんは?」

「トビーは……トットの父親は一昨日の夕方に村に戻ってきて、そこでオークに見つかったんだ。トットを逃がすためにオークの気を引いて、そんで捕まった」

「なんとかトットだけは助けられたが……なぁお嬢さん、他の冒険者はいつ来るんだね?」

「……たぶん、明日以降――「キュイ」」


 モッモが短く鳴く。その鼻先は天井に向いていて、それから私を見た。

 わかってる。


「静かにしてください。明かりを弱めます」


 来た。オークかオーガかはわからないけど、モンスターが来てる。

 気配からして、一体じゃない。でもこの気配は……私にとって脅威とは感じなかった。


 何故かわかるんだよね。自分より強い相手か、弱い相手なのか。

 これも転移特典なのかな。


「キュ。人間のニオイもするでち。生きてる人間」

「え? 別の場所にも生存者が?」

「違うでち。オーガと一緒でちよ」


 は? 人間がオーガと一緒?

 するとその答えはすぐにわかった。


「イヤァーッ。たす、助けてっ」


 女の人の悲鳴が聞こえた。


「この声は……ニナさんじゃないか」

「オークに捕まったニナが、なんでここに?」


 捕まえた人をわざわざ村に連れてくるって……まさか。


「フゴフゴ。ニンゲン、出て、くる。こいつ、ころ、す」


 喋った!?

 モッモに比べるとかなりカタコトだけど、喋ってる。知能があるってこと?


「ここにいる人間を捕まえるために、人質ってやつでちね」

「モンスターのクセに、そんな知能あったんだ」

「きっと魔王の力で知能が高くなったでちね。モルモルモット程ではないでちが」

「そんな……わしらはどうすればいいんだ。出て行けばわしらも捕まるし、出ていかなければニナが殺されるんだろう? どうすればいいんだ、どうすれば」


 出て行っても行かなくても、この場合死人が出ることに変わりはない。

 私がいなければ――ね。


「どうもしなくていい。そこにいて。モッモ」

「モッモはここでご主人様を応援して――ぷぃいぃっ、か弱いモルモルモットなんでちよぉ」

「知らんわ」


 モッモの首根っこを掴んで肩に乗せ、階段を上って扉を押し上げて外に出た。

 気づかれないように気配を殺したおかげで、この場所は見つかってないみたい。

 オーガたちの姿が見える場所へ移動して、その位置関係を確認する。


 一、二、三……八体か。一体だけ大きくて、他の七体と見た目が違う奴がいる。あれがオーガかな。

 オークは豚みたいな顔だって言ってたし、確かに七体は豚っぽい。オーガは角があって、鬼っぽい見た目かな。


 よし。位置は把握したし、行くか。


「モッモ、森から援軍がこないか見てて」

「わ、わかったっぷぃ」

「――風の刃『エア・ウィンド』」


 飛ばした刃が七体のオークに飛んでいく。


「「プギッ」」


 ほぼ同時に七体の首が飛び、ドウっと音を立てて倒れた。


「にん、げんっ。ヌグアアアァァァァッ!」

「キュイィィィィィッ!?」

「あぁ、どっちもうるさい」


 雄たけびを上げたオーガの懐に飛び込み、全力で蹴りを入れる。

 奴がよろめき、その隙に女の人の手を引いた。その際、彼女の頭を掴んでいたを払い除けて捨てる。


「走って」

「あ、ぅ……」

「走って!」


 恐怖で状況が把握できなくなってるんだろうな。それでも怒鳴ると、ようやく力なく走り出した。

 私は踵を返して、振り下ろされる拳を躱す。


「グヒ、ギギ……にん、げん、殺す。お前、喰う!」

「それは無理。だってお前、私より弱いから。――轟け、雷神の雄叫び。来いっ……『トール・ハンマー』!」


 一瞬、空が光る。

 それと同時に轟音が鳴り響き、上空から伸びた青白い雷がオーガを突き刺す。

 むわっと湧き上がる風と、そして肉が焦げたニオイ。


「んぁ。オーバーキルだったかな」


 残ったのは、プスプスと煙を昇らせた肉の塊。

 雷の温度が高すぎたみたいで、もう炭になってるな。


「ゴブリンよりだいぶ強いっていうから上級魔法にしてみたんだけど。これならファイア・ボールでもよかったかも」

「キュイッ。ご、ご主人様、魔法のコントロールへたくそでちか!?」

「うるさいなぁ。暴走はしないから大丈夫だって。ただ素材も取れない有り様になるけど」


 実際、そこが一番の問題かも。

 オーガの素材……高く売れただろうなぁ。

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