第7話:モンスター事情と悪モッモ

「はーい、A定食おまちどうさまぁ。それとキャベツの葉っぱね」

「ぷぃぷぃ~」


 A定食五エーン。キャベツ……一エーン。

 はぁ……。


「何日かゆっくりしようかと思ったけど、すぐに仕事を探そう」

「お手伝いするぷぃ。植物探しなら得意っぷぃよ」

「そればっかりって訳にもいかないでしょ」


 モルモルモットの特技は、草を嗅ぎわける事。

 確かに薬草採取にはもってこいだけど、薬草採取じゃいつまで経っても元の世界に戻る方法を探せない。


「ねぇ、さっきの話だけどさ。モンスターって魔王に従ってるわけじゃないみたいな?」

「ぷぃぷぃ。ちたがってる奴らもいるぷぃよ。そういう奴らは魔国にいるっぷぃ。あと妖魔種は魔王の覇気をビシビシ受けるっぷぃから、怖くて服従ちているっぷぃね」


 妖魔種っていうのは、ゴブリンだったりオークとかオーガ、ダークエルフもそこに分類されたはず。

 ただ魔王がいちいち「どこどこを襲え」とか指示しているのではなく、普段通りあいつらは過ごしているともモルモルモットは言う。

 

「モンスターには二種類のタイプがいるっぷぃ。おバカでとにかく狂暴なダケな奴と、賢くて理性のある奴と。モルモルモットは賢くて理性があるぷぃ。だから人に対して中立っぷぃ」

「か、賢い?」

「人の言葉話す。賢いモルモルモット!」


 鼻をすんすん鳴らしてドヤるモルモットが、賢いとは思えない。

 でも人の言葉を理解して喋ってるのは確かだし。


「モルモルモットを見て、六割の人種はかわいいと言って襲ってこないでち。だからモルモルモットたちも、人種を襲わないでち」

「残り四割は?」

「モルモルモットたちがかわいいから、攫って売り飛ばすっぷぃ」


 ……ダメじゃん人種。


「ちなみにモンスターの場合だと、九割がモルモルモットを餌だと思っている、でち。ぷるぷる」


 モンスターよりは人の方がまだマシってことか。


「モルモルモット賢い。ご主人様の疑問にも答えられるでち。お役に立つぷぃよ、お得でちよ!」

「何そのネットショッピングみたいなうたい文句」

「ねっとしょっぴんぐ?」

「あー、なんでもない。でもなぁ、薬草採取に役立つ程度の子を連れて行っても――」

「お役に立つぷるぁ! モルモルモット賢い。かわいい。絶対役に立つ!」


 立ちそうにないから森に捨てて行きたいんじゃん!


「ぷぃぷぃ。ぷぃ~」


 じーっと私を見つめるモルモルモット。その小さな手にはキャベルの葉っぱが握られている。

 賢くてかわいい、ねぇ。モルモットがかわいいなんて思ったこと――な、い……。


「きゅる~ん」

「うああぁぁぁあぁぁ。わかった、連れて行ってやるから。でも絶対、あんたがかわいいからじゃないからねっ!」

「ククク。人種、ちょろいでち」


 あ、クッソこいつ。確信犯か!

 はぁ……まぁいいや。ハムスターよりは大きいけど、小型犬よりは小さいし肩に乗せられる。このぐらいなら乗せたまま戦っても、そんなに邪魔にはならないだろうし。


 夕食を済ませて部屋に戻ってからふと気がついた。


「あんた、名前は?」

「キュイ。モルモルモット」

「いや、それ種族の名前でしょ。あ・ん・た・の名前」

「クク。モルモルモット」

「もしかして個々に名前はないの?」


 モルモルモットが頷く。名前がないのは不便だし、モルモルモットってなんか長い。


「名前つける。んー……モッモ。うん、短くなっていいね。あんたの名前はモッモ。異論があれば――」

「モッモ! モルモルモットのモッモ!」


 あんなに目を輝かせて。異論はなさそうだね。

 さて、明日も早くからギルドに行きたいし、早く寝ようっと。


「モッモ。モルモルモットのモッモ……」

「モッモ言ってないで、寝ろって。――ん?」


 なんかモルモルモットの、いやモッモの体が光ってるような……気のせいか。






「東の村にオーガが出た?」


 朝一で冒険者ギルドにいくと、職員がみんな慌ただしく動き回ってる。

 何かあったっぽいな。なんだろう?

 昨日の職員が私のことを見て、こっちにやって来た。


「ごめんなさいね。今日はちょっとお仕事の紹介できないかも」

「そう、なんですか」

「キュイ。何かあったでちか?」

「そうなのよ、モルモルモットちゃん」

「モルモルモットではなく、モッモと呼ぶがいいぷぃよ」


 なんでお前が偉そうなんだ。


「ついさっき東の村から怪我人が駆けこんで来てね。村にオーガが出たって……それで対応に追われているのよ」

「オ、オーガでちか!? この辺りにそんな奴、いなかったっぷぃ」

「えぇ。すぐ東の森はモルモルモットたちしか生息していなかったし、そこから北東の森にもゴブリンとスライム程度だったのに。どうしてオーガが」


 別の所から引っ越してきたのかな。ゴブリンみたいに。

 あれ? もしかして東の森にいたゴブリンって……。


「モッモ。モルモルモットを攫ったゴブリンたちって、少し前に引っ越してきたっていってたよね」

「そうぷぃ。奴らは元々、北東の森を縄張りにちていたゴブリンっぷぃ」

「え? その話、詳しく教えてくださいっ」


 職員に言われ、一昨日のことを話した。

 そのうえで、北東の森にいたゴブリンが東の森に移ってきた理由が――。


「オーガ……。奴らに縄張りを荒らされ、東の森に住処を移したのでしょうね」


 そしてオーガは村を襲った。

 もしかして……東の森にゴブリンがいたことを昨日の時点で私が話していたら、村が襲われる前に対処できていたんじゃ。

 森に一泊しないで、夜遅くなっても町に戻っていたらこんなことになっていなかったんじゃ。


 ポンっと肩を叩かれ、ギルドの職員が私を見ていた。


「村がオーガに襲われたのは三日前の深夜。あなたが私から依頼を受ける、数時間前のことです。あなたが思い悩むひつようはないのよ」

「……三日、前。じ、じゃあ、早く助けにいかないとっ」

「えぇ、わかっています。でもオーガがどのくらいいるのかもわからないし、この町に駐在している冒険者では戦力不足なの。だから今、早馬で王都のギルドに応援を――ま、待ってください! どこに行くんですか!」


 王都近くからこの町まで、荷車で半日以上かかった。早馬って言ったって、数時間はかかるでしょ。

 そこから冒険者を集めて馬車でこっちに来て貰って、今日中に到着するかも怪しい。

 そんなの待ってられるもんか!


 東の村。あの親子が暮らす村なんじゃないの?

 荷車に乗せてくれて、宿代とご飯代まで出してくれたあの親子の――。


「モッモ、走るからしっかり掴まって」

「キュー!? 無茶でちっ。東の村まで人間の足だと一日近くかかるっぷぃ」

「そんなに!? でも待ってたって、ここを出発するのは明日になるじゃんっ」

「クックック。モッモに任せるでち」


 ピョンと肩から飛び降りたモッモは、ニタァっと悪そうな笑みを浮かべた。




****************

モルモルモットの名前は、モルモットとわかりやすく、且つ違いを出すために

「モル」を増やしてみました。

私のネームセンスなんてこんなもんです絶望的ですみません

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