第5話:モルモルモット

「――癒しの光『ヒール・ライト』」

「プィプィプィ~! おぉ、これが癒しの光でちか。ぬくぬくぷぃ」


 人語を喋るモルモット。なんて非常識なんだろう、この世界は。


 ゴブリンに苛められていたのはモルモット。しかも人の言葉を話すやつ。


「じゃ、私忙しいから」

「お待ちくださいっ。たちけて欲しいのでち」

「助けたじゃん」

「仲間がーっ。仲間が奴らに……ゴブリンに攫われてちまったぷぃぃぃっ」


 このモルモットも一緒に攫われたけど、なんとかゴブリンの巣から逃げてきたらしい。

 そして町に行って冒険者を呼んでこようとしていたとか。

 モルモットがゴブリン討伐の依頼をしに人間の町に……異世界ってやっぱり凄い所だな。


「モルモットなんか攫って、ゴブリンは何すんの?」

「モルモットではないぷぃ。動物型モンスターに分類される齧歯類、モルモルモットっぷぃ」

「モルが増えただけじゃん! ……え、モンスター?」

「ぷぃ~」


 モルモットの、モンスター?

 人の言葉を喋ってる以外は、見た目も大きさも、私が知ってるモルモットそのもの。

 これがモンスター?


「ささっ、勇者様。ゴブリンどもをぶっ倒しにいくぷぃ。こっちこっち」

「え、ちょっと待って。なんで行くことが前提になってんの」


 ぽてぽてと歩きだしたモルモット――じゃなくってモルモルモットがピタリと止まって、振り向いた。


「キュイーン!? あ、あなたはこんなにかわいいモルモルモットが、ゴブリンに食べられてもいいって言うでちか!?」

「うわぁ、自分で自分をかわいいって言ってる。うざぁ」

「人でなしぃー! 鬼ぃー! 悪魔ぁー! 魔王ぉー!」


 モンスターから魔王って言われるの、なんか複雑なんだけど。

 そもそもモンスターって、魔王の手下なわけじゃん。


「さ、行くでち」

「え? さっきまでのやり取りはなんだったの? え? ちょっと」


 こいつ……鋼の精神だ!?






「あそこでち」

「ふーん。ゴブリンの巣って、やっぱり洞窟の中なんだ」

「さぁ行くでち勇者様。モルモルモットはここで応援するぷぃ」

「来いよ」

「うわぁーっ。何するぷぃ。か弱いモルモルモットに何するぷぃーっ」


 私だけ行かせようったってそうはいかない。

 結局このモルモルモットがプイプイキュイキュイとずっと騒ぐから、仕方なしにここまで来てやった。

 まぁ相手はゴブリンだし、運が良ければあいつらがお宝をため込んでいるかもしれない。ないかもしれないけど。


 あと、こいつが――「ポレポレ草? 知ってるっぷい! いっぱい咲いてる場所もちってるぷぃ! 聞きたいぷぃかぁ?」とか言うから、交換条件で引き受けてやった。


「ゴブ?」

「ゴ、ゴブ!」

「キュイィンッ。お、大きな音を出すから、気づかれたっぷぃよ!」


 あんたが大きな声をだしたからでしょ。人のせいにするな。


「――炎の礫『ファイア・ボール』」


 洞窟の入り口に、見張りですと言わんばかりの二匹のゴブリンがいた。

 飛ばした火球は二つ。直撃し、一瞬でゴブリンの体は真っ黒に焦げた。

 うん、さっきより火力は抑えられたね。


「す、凄いでち」

「今ので奥からゴブリンが出てく……うわぁ、いっぱい出てくるんだけど。この森ってモンスターが少ないんじゃないの?」

「少し前までは、モルたちちかいなかったぷぃ。あいつら、急にこの森に来て、あそこに住み着いたぷ」


 引っ越しかぁ。にしても多い。

 奥から出てきたのはニ十匹ぐらい。ファイア・ボールは最大で十発しか出せないし――。


「――爆ぜよ、炎よ……『フレア』」


 範囲系の攻撃魔法で爆散させた。

 これまた遺体から素材が取れないから、正直ダメなヤツなんだよね。

 あとでこいつにポレポレ草の球根採取、手伝わせよう。


「もういないかな?」

「中に入るでち! みんなぁー、モルモルモットが来たでちよぉー!」

「ちょ、まだ中にいるかもしれないでしょ!」


 駆け出したモルモルモットだったけど、私の言葉を聞いてピタりと止まった。

 そしてポテポテと戻って来て、私の足をよじ登る。爪が引っかかって痛いからやめれ。

 摘まんで肩の上に乗せると、そのまま頭によじ登って「突撃もるぁー!」と勇ましく号令を出す。

 実際は全然勇ましくもないけど。


「はぁ……ちゃんと落ちないように掴まってなよ」

「キュイ! キュ……ギュイイイィィィィィィッー!」


 ぐっと足を踏み込んで、走る。

 異世界転移で強化された身体能力。今ならオリンピック陸上で、余裕の金メダルを取れると思う。

 と言っても、この世界にはもっと凄い人がいるんだろうけどね。


「ゴブリン発見。――炎の礫『ファイア・ボール』」


 フレアだと洞窟の壁ごと破壊しそうだから控えておこう。

 見つけ次第ゴブリンをぶっ倒し、最深部まであっという間。


「ゴブッ。ゴッゴゴブブ」

「何言ってるかわからない。『ファイア・ボール』」

「ゴブアァァァァァァァァ」


 あいつ、他のゴブリンより少し大きかったな。そういう個体は群れのリーダーだって聞いた気がする。

 リーダーごとお引越しでもしてたのかな。


「みんな無事ぷぃ!?」

「モルモルモット、無事ぷぃ」

「キューイっ。お前も無事でよかったぷぷぃ」


 ぷぃぷぃキュイキュイと、もうどれが最初に助けたモルモルモットかわからなくなった。

 




**************************

今作のマスコット何にしようと考えていた時にモルモットを思いつきまして。

それでXでモルモットを検索して見まくっているうちに

モルモットがかわいくてわかいくて仕方なくなってきて

毎日モルモット検索しまくるようになってしまいました。

うちは猫が4匹いるのでモルモットは飼えない・・・

みんな

モルモットを崇め奉ろう!

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