第4話:ぷぃぷぃ
「ポレポレ草の球根は、ここから東の森に生えています。滅多に群生していませんので、たくさん集めるためには森中を歩く必要があるかもしれません」
冒険者ギルドの職員にそう言われ、さっそく東の森に来た。
お昼ご飯のお弁当を買ったら、所持金ゼロになってしまった。
今夜の宿代とご飯代……いや、できれば二、三日分のそれを稼ぎたい。
ポレポレ草の詳細絵をもらったから、さっそく探してみる。
職員曰く、薬草採取は不人気お仕事ナンバーワンなんだそうだ。
草むしりなんてカッコ悪い。
だいたいの冒険者はそう言うらしい。
それでも駆け出し冒険者ぐらいは、モンスターと戦う怖さもあって薬草採取を引き受けてくれる。
だけどここは王都から近く、冒険者を目指す駆け出しはあっちに集まるんだとか。
「あった。アレかなぁ――鑑定」
魔法を使って、見つけた草がポレポレ草かどうか確かめる。
うん、ポレポレ草で間違いないね。
ギルドから借りたスコップを使って掘り起こし、これまた借りた布に土ごと包んで鞄の中へ。
「あぁ、これ不人気になるのも納得だわ。凄く面倒くさいし、アイテムボックス的なもの持ってないと、絶対重くなる奴じゃん」
球根はピンポン玉ぐらいかな? それプラス土だから、決して軽いものじゃない。
私は重量無視の鞄持ってるけど、普通の鞄だと十個ぐらい採取したらかなり重くなりそう。
それに鞄の容量問題だってあるだろうし。
「報酬は採取量で決まるのに、これじゃあ受けてくれる人がいないのも納得。ま、私には関係のない問題だけど」
スコップで掘るのは面倒だから、次からは土属性の魔法を使うことにした。
本当は土の塊を浮かせて敵に投げつける魔法だけど、投げなければいいだけ。
「らっくちーん」
……なんだけど、見つけるのが面倒だった。
滅多に群生してないって言ってた通り、ポレポレ草を一本見つけても、その周りに同じ草はない。
採取して歩いて、見つけたら採取してまた歩いて、これの繰り返し。
お腹が空いてきた。今何個ぐらい採取したんだろう?
鞄の中に手を入れて、浮かび上がるインベントリ画面でその数を数える。
「まだ三十個にもなってない……歩いてばかりいるからお腹も空くし……はぁ」
こんなことならお城を出るとき、ヒラヒラしたドレスを一緒に渡されたアクセサリーを持ち出すんだった。
でも高価なアクセサリーを、私みたいな子供が持ってたら不審に思われるかもって持ってこなかったんだよね。
「仕方ない。ひとりでやるって決めたんだし、頑張ろう」
あのバカ勇者と取り巻きどもと一緒にやっていくより、数億倍マシだ。
「もうちょっと奥に行って、そしたらお昼ご飯食べよう」
ポレポレ草を探しながら森の奥へと進んでいく。
森や山はモンスターの生息区域になってるけど、それも場所次第だって聞いた。
ゼロではないけど、たいした数はいない所もある。たいていは町の近くにあるのがソレだ。
ここもそういった、割と安全な森なんだろうな。森に来て二時間ぐらい経つけど、一匹も見てないし。
「あった」
見つけたポレポレ草の方へ駆け寄ろうとした矢先。
「キュイィィィーッ」
奥から甲高い悲鳴が聞こえた。
子供!?
またどっかの親子がチンピラに絡まれてるとか、もしかしてモンスターに襲われているとか?
自然と走り出した私の行く手には、くすんだ緑色をした肌の小さな人影――ゴブリンがいた。
モンスターに襲われた人がいる!
ゴブリンが雑魚だと言っても、それは冒険者だったり訓練を積んだ兵士が抱く感想。
一般の人にとっては、決して油断できる相手じゃない。もちろん、なんでもいいから武器になりそうな物を持っていれば、大人が二、三人いれば倒せるらしいけど。
でもさっきの声は子供の……あれ?
子供はおろか、人の姿が見えない。
「ゴフッ。ゴギャーッ!」
あ、こっちに気づいた。
ゴブリンの数は五匹。うち二匹がこっちにやって来る。
装備は武器も含めて、お城に置いて来た。
チンピラと違って、相手は醜いモンスター。さすがに素手で殴りたくない。
「――炎の礫『ファイア・ボール』」
火球を五つ作って、それを放つ。
走って来た二匹にそれぞれ一発ずつ命中して、残りの三匹にも火球が飛んでいく。
「ゴッ、ゴギャ――」
一匹逃げようと踵を返そうとしたけど、もう遅い。
横腹に火球が直撃し、その一瞬で消し炭になった。
まだ魔力ってのを抑えて魔法撃つの、難しいんだよね。
ファイア・ボールは初級の攻撃魔法だって言うけど、どうしても雑魚相手に使うとこうなっちゃう。
おかげで素材も取れないし、早く武器を手に入れないとなぁ。
「っと。さっきの悲鳴は結局なんなんだろう?」
ゴブリンは何かをしていた。
ひとりじゃ何もできないような不良グループが、誰かを虐めているような――そんな感じのやつを。
でも誰もいない。
「プィプィ……」
「ん?」
なんか地面で動いた。
「たち……けて……プゥ」
もぞりと動いたそれは、茶色と黒、そして白色が混ざった……
「ハ、ハムスター……違う、モルモット!?」
だった。
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