第3話:仕事探し

「お姉ちゃん、助けてくれてありがとう」

「本当にありがとうございます。なんとお礼を言っていいか」


 十歳ぐらいの男の子と、その父親にお礼を言われる。


「別に……ただ通りかかっただけだし……お礼なら、えっと、ここから一番近い町に行くには、どっちの道に進めばいいか教えて、ください」


 王都から伸びる道を南に進んだ。とにかく王都から離れる、それだけを考えて。

 街道を歩いてたら王国兵士とすれ違うこともあった。だからこそ、街道は安全だと聞いている。

 でも私にとっては都合が悪い。もし私の顔を知っている兵士だったら、連れ戻されるかのしれないから。

 

 だから街道から枝分かれした支道を進んだんだけど、そこでチンピラに絡まれていた親子に遭遇した。

 お決まりのセリフ「金を出せ! 殺されてーのか」っていうのが聞こえたから、ぶっ飛ばした。

 

「一番近いと言えば、王都――」

「あ、それ以外で」

「え、それ以外……えっと、それだったらこの道をずっと進んで――よかったらうちの荷車に乗って行くかい? わたしらも次の町で一泊する予定でね」


 荷車……あ、あれか。

 馬も無事だし、壊れた所もなさそう。

 つまり――歩かなくて済む!


「よ、よろしく、お願いします」

「そんな、頭を下げないでおくれ。助けてもらったのはこっちなんだから。さ、乗った乗った」


 おじさんはそう言ってくれるけど、実は結構困ってた。

 ずっと王都の――いや、お城の地下にある人工ダンジョンと部屋とを行き来するだけの三カ月だったから、王都周辺のことすら何も知らない。

 

 町に着いたら地図を買おう。

 お金が足りなきゃ、仕事を見つけないと。

 冒険者ギルドですぐにできる仕事があればいいんだけど。






「すみません。宿代、ありがとうございました」


 王都を出た翌朝、宿の前で昨日のおじさんに頭を下げた。

 町に到着したのは陽が暮れてから。だから冒険者ギルドにもいけなかったし、仕事も探せなかった。

 所持金、十エーン。安い食堂でご飯食べたら、そこでお終いなレベル。


 それを知ったおじさんが、私の宿代と夕食代、朝ごはん代も払ってくれた。


「いやいや、頭を下げる必要なんてないんだよ。マナさんが助けてくれなかったら、この半年で育てた野菜の納品代を全て奪われていただろうし、命があったかもわからないんだ。むしろこんなお礼しかできなくて、申し訳ないぐらいだよ」

「そんなこと、ないです。私の方こそ、助かりました」


 たまたまあそこを通りかかっただけ。

 たまたま悪い奴がいて、そいつらをぶっ飛ばせる力があっただけ。

 別に善意でやったわけじゃない。たまたま……たまたま、なだけだもん。


 それなのにお金を出してもらうなんて、なんか……恥ずかしい。


「それじゃあわたしらは東の村に帰るけど、ひとりで大丈夫かい? お金のあてがないなら、しばらくうちに来てもいいんだよ?」」

「大丈夫です。冒険者ギルドで、仕事を紹介してもらいますから」

「そうかい。マナさんぐらい強ければ、すぐに稼げる仕事も見つかるだろう」


 だといいな。

 おじさんはこの町にある冒険者ギルドの場所も教えてくれた。

 お礼を言って別れるとき、何度も何度も男の子――トットくんが手を振って見送ってくれた。

 この町から馬車で、あと四時間ぐらいで村に着くっていってたっけ。

 無事に帰れるよう、祈っておくね。


 教えて貰った冒険者ギルドは、王都にあったソレよりこじんまりしている。冒険者っぽい人も少ないし、受付も二つしかない。

 冒険者が少なくても、受付が二つしかないせいでカウンターだけは混んでいた。

 列の最後尾に並んで待つこと三十分、ぐらい?


「お待たせしました、次の方どうぞ」


 やっと私の番だ。

 そう思ったら、ちょっと緊張する。

 王都の時もそうだったし、どう話を切り出せばいいのかわからない。

 自分から人に話しかけるのが苦手で、コミュ力ゼロだし。


 モンスターを倒して拾った素材を売るときは、それをカウンターに出せば査定してくれたからいい。

 お城の兵士からも、ギルドでは素材の買取をしているって聞いていたし。

 仕事を紹介してもらうのって、どうやればいいんだろう。


「どうかなさいましたか?」

「あっ……いえ、あの……お、お金がなくって……その」


 うわぁぁっ、これじゃあ物乞いみたいじゃん。

 そうじゃなくって、えっと……。

 働かせてください?

 いや、これだとギルドで働かせてって言ってるように聞こえるし。

 えっと、えっと……。


「なるほど! お金が必要だから、手っ取り早く稼げる仕事を紹介して欲しいってことですね!?」

「え……は、はいっ。そうです」


 よかったぁ、察してくれて。


「そんなあなたにピッタリなお仕事がございます!」

「そ……そう、ですか?」

「はいっ!」


 こ、この人、なんでそんなに鼻息荒いの? なんか……ヤバい仕事を紹介されるんじゃ……。


「それはズバリ!!」

「ズ、ズバリ?」


 あ、なんか帰りたくなってきた。帰る場所もないけど。


「ポレポレ草の球根採取です!!」


 …………。

 ほとんどお使いクエストレベルじゃん!


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