成金

 大正時代の華族以外のお金持ちの職業は、以下の通りです。

 

 銀行、鉄道、海運、貿易、炭鉱経営、代議士、医者、上級官僚、軍幹部、地主(不動産)


 現代の高収入の職業と似ている部分もありますね。


 明治の末から大正の初め、日本の財政は日露戦争時の膨大な借金が重くのしかかる一方、経済は不況に苦しんでいました。

 ところが、第一次世界大戦開戦(1914年)から1年ほど 経た つと、主戦場から遠く離れた日本は軍需品の供給基地になりました。

 ロシアとイギリスへの輸出が増大、好況に転じます。日本と同じく大戦景気を迎えたアメリカ向けの生糸輸出も激増しました。


 この第1次大戦ブームによって蓄財した企業家たちを、人々は羨望と非難まじりに「成金(なりきん)」と呼びました。

 語源は将棋です。

 最も弱い駒である「歩」が敵陣へ入った途端、突然「金」になって強くなることになぞらえ、急激に富を得た人のことを指す言葉になりました。

 

  成金の職業として、特に 造船業 が多かったことも覚えておきましょう。


 実際の成金は、享楽と型破りな贅沢の末に破産して哀れな末路を辿る人が多かったようです。

 日本史の教科書や資料集に「どうだ明るくなったろう」と、明かり代わりに百円札を燃やす成金の風刺画が載っています。

 これがまさに当時の成金のイメージでした。

 

 当時の日本は「紳商」という言葉があるように、商人にも紳士的な品格が求められていました。

 華族には西洋の貴族同様にノブレス・オブリージュという高貴な者の義務が期待され、自らも積極的にそれを果たそうとしていました。

 紳士とは公共の利益とマナーを尊重する男性のことであり、利己的な成功ばかりを追求し、そのように振舞う無礼者は「似非紳士」(えせしんし)と呼ばれて白い目で見られました。

 多くの成金の振る舞いは似非紳士に該当しており、社交の場で嫌われていたようです。


 漫画『離縁は致しかねます!』(山口恵/著・アムコミ)のヒロインの夫・瀬田 寛志はまさにこの成金で、社交界では悪どい商売で成り上がった卑しい男と噂されて嫌われています。


 また、漫画『煙と蜜』(長蔵ヒロコ/著・KADOKAWA)のヒロイン姫子の祖父・花塚敬次郎は一代で財を成した成金で「欲しいものはすべて金で手に入れてきたが、どうしても手に入らぬものがある」と語り、男爵位を持つ軍人・土屋文治と孫娘を婚約させます。



次回は、サラリーマン編です!

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