第四十筆 踊るサンバ、追い越された龍!
うだつの上がらないワナビが、新作を公開してからたった三日で書籍化作家となる。
それは路傍の石が、たちまち
そして、読者諸君はこう思ってしまっただろう。
「そんな魔法がこの世に存在するわけねーじゃん!」
そう、君はそんな感想を飛ばしたくなっただろう。
だが、
あるのだ、
いるのだ、
存在してるのだ。
たった三日で書籍化へとこぎつけた男が。
それが紅蓮マウザ――。
否ッ!
真異世界令嬢教の教祖!
紅蓮まうざりっとが!
前代未聞の偉業を達成したという『現実』を龍に突きつけたのである!
ギアドラゴン:く、黒鳥がたった三日で?
龍は目を見開き文字を打ち込む。
同じワナビであった紅蓮マウザを『たった三日』で書籍化作家に変えたリアル。
そのあまりにもウソっぽい現実に龍は己の頬をつねるほどである。
そして、頬をつねると痛みがある。これが現実と事実であることの証明でもあった。
紅蓮まうざりっと:いけないな、神に向かって『様』付けで呼ばないなんて。
まうざりっとは教祖であるからして、御神体として黒鳥を祀っているようだ。
長年、Web小説界隈で鎬を削ってきた
紅蓮まうざりっと:ふっ……UDAGAWAから今度『踊るサンバ令嬢と弱虫辺境伯!~リズムが織りなす愛のダンスバトル~』が出ますので、ギアドラゴンさんも本屋さんで買って下さいね。
「な、何だ……その頭の悪そうなタイトルは……」
とんでもない内容のタイトルだ。
サンバに辺境伯、中身がどんなものか全くもって想像できない。
紅蓮まうざりっと:まあ、見て下さいよ。
龍が動揺をしたのを察知したかのように、まうざりっとは自作のリンク先を貼り付けた。
「ひ、飛龍クリック!」
それではご覧いただこう!
これが新作公開してからたった三日で書籍化に至った作品のあらすじである!
――――――
【あらすじ】
サンバのリズムが響く異世界カルナヴァ。
アルヴィオラ家の令嬢マリシアは、その踊りの美しさと戦闘力で知られるダンサーでもあった。
しかし、マリシアはある過去の傷から心を閉ざし、他人との関わりを避けるようになっていた。
だがある日、マリシアは『弱虫辺境伯』と呼ばれるリオネル・レイエスに出会う。
リオネルは辺境の地を治める若き領主だが、戦いが苦手で周囲から頼りにされていない。
彼は魔族の脅威に悩まされ、民を守ることができない自分を責めていた。
そんなリオネルを見かねたマリシアは、彼にサンバのリズムを使った戦い方を教えることを決意する――。
――――――
「な、なんやこれ……」
ついつい呟いてしまった龍。
ファンタジーものにサンバとはこれ如何に。
令嬢が戦う内容のもののようだが、そもそも貴族のお嬢様が前線で戦うのだろうか。
それにサンバのリズムを使った戦い方などと――。
まあ、それはいい。
他の創作でもお姫様やお嬢様がバトるものは多々ある。
「むう……凄いポイント」
総合評価は四万を越えていた。納得の拾い上げである。
しかし、しかしである……。
異世界恋愛とバトルは読者層が全く別で水と油だ。
斬新なようで、ターゲットを絞り切れていない作品は普通爆死するはずである。
それがどうして受け、ランキングを駆け上がり、書籍化に至ったのか――。
ギアドラゴン:この内容は異世界恋愛とバトルもののようだけど……。
紅蓮まうざりっと:そうですよ、それがどうかしましたか?
ギアドラゴン:バカなメモリの無駄使いだ! うなぎと梅干を一緒に食すものだぞ! 相性が最悪だ!
紅蓮まうざりっと:だから、あなたはワナビなんですよ。このサンバ令嬢は、黒鳥様に冷静で的確な指導を受けて書き上げた『全く新しい異世界恋愛』なんだ。
ギアドラゴン:ま、全く新しい異世界恋愛だと!?
まうざりっとは言った。
このサンバ令嬢は『全く新しい異世界恋愛』であるという。
龍が目をぱちくりさせている間に、まうざりっとはメッセージを連投する。
紅蓮まうざりっと:ボクは黒鳥様のご指導を受け『覚醒』した!
紅蓮まうざりっと:ユニークな設定とコンセプト!
紅蓮まうざりっと:キャラクターの成長とドラマ!
紅蓮まうざりっと:リズム感とテンポの良いストーリー展開!
紅蓮まうざりっと:斬新さと王道!
紅蓮まうざりっと:これらを絶妙なバランスを守って毎話書き!
紅蓮まうざりっと:朝昼晩と作品を投稿して駆け上がり!
紅蓮まうざりっと:遂にはランキングトップとなった!
紅蓮まうざりっと:そして、ボクは天下のUDAGAWAに拾い上げられた!
紅蓮まうざりっと:あのまるぐりっとさえ成し得なかった! 短期での書籍化をボクは決めたのだ!
紅蓮まうざりっと、地獄の十連投。
これぞ名付けて『グレン・オブ・セイントフレア』である。
「ぐわあああああっ!」
龍は体に火で熱した鉄棒で殴られる感覚に襲われた。
何だか書籍化した理由がテキトーな感じもしないでもないが、知らぬ間にかつての
プロラノベ作家からの指導を受け、着実に筆力を高め、一足お先に書籍化を決めていたのである。
先を越されたような『敗北感』を龍はその身に受けていたのだ。
「マ、マウザ……」
まるざりっとの旧ペンネームを口にする龍。
しかし、スマホの画面にはマウザはいない。
プロからの指導とやらを受けて覚醒したWeb小説家『まうざりっと』がいるのだ。
カーミラのエビ餃子:私達やまるぐりっとでも、成し得なかった短期での書籍化――。
サクリンころも:まうざりっと様なら私達を真に導いてくれるはず!
カーミラのエビ餃子:身も心も作風も……。
サクリンころも:まうざりっと様に全てを捧げます!
Web小説界隈に突如登場した遅咲きランカー、書籍化作家へ忠誠の誓いを立てるグラトニーズ。
そして、全く返信しない龍にまうざりっとは煽るような文章を書き込む。
紅蓮まうざりっと:あなたと私では住む世界は違う、越えてしまったのですよ。
「ぐっ!」
龍は歯軋りする。
かつて迷走し、そのままWeb小説界隈からフェードアウトするかに思われていた
それが見事にカムバックし、他の厄介な書籍化作家のようにマウントを取ってきた。
しかし、龍は何も言えなかった。相手は自分より結果を残していた事実は変わらない。
自分はワナビ、まうざりっとは書籍化を決めた作家だからだ。
紅蓮まうざりっと:ギアドラゴンさん、あなたも黒鳥様の指導を受けなさい。このレイヴンクラブはそういう場所です。
ギアドラゴン:ここが?
やっと、メッセージを打ち込めた龍。
それはこの場所が自作の書籍化を目指す、Web小説家達のサロンであることを再確認するものだ。
――今日の夜八時半に黒鳥先生のサイバーラウンジがあるようですよ。
おやおや、どうやら今日の夜八時半に黒鳥のお話があるようだぞ。
なお、この突然の情報、書き込んだのはまうざりっとではない――。
色帯寸止め:まうざりっと君と書籍化に関するアレコレを話すようで。
「い、色帯寸止め先生!」
龍は驚愕した。
メッセージを書き飲んだのは二次創作の雄、色帯寸止め――。
過去にまるぐりっと達に燃やされた龍を励ましたプロ作家である。
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