第三十九筆 自分勝手なエコーチェンバー!
なんてこったい、パンナコッタ。
あのマウザが、まうざりっとと名を改めていた。それにアイコンもイケメンだ。
名もアイコンも変えたマウザ、終いには『真異世界令嬢教』の教祖を名乗っていやがる。
「真がつかない異世界令嬢教はどうなったんだ!?」
全身から滝のような汗を流す龍。
元々異世界令嬢教の教祖は鬼丸である。
その異世界令嬢教から派生したのが、真異世界令嬢教なのは名前から理解出来る。
ただ、その別派の長が何故マウザ――まうざりっとになっているのか?
全くわけワケメだ、そこで龍は質問をストレート直球で投げつけた。
ギアドラゴン:異世界令嬢教はどうなったんだ!
そう、前の異世界令嬢教はどうなったんだ。
素朴な疑問だ。
今日もわざわざ鬼丸=教祖まるぐりっとに脅され、呼び出されて、
まるぐりっとはまだこの世に存在しているのだ。(勝手に殺すな)
それが勝手に別派、真異世界令嬢教を作って許されるのか。
云わば、夏休みにキッズが学者に日常のあれこれを質問する電話相談のようなものである。
紅蓮まうざりっと:ギアドラゴンさんは知らないんですか。
ギアドラゴン:何が?
紅蓮まうざりっと:まるぐりっとは長期休業に入ったのですよ。
ギアドラゴン:ちょ、長期休業ですと!?
紅蓮まうざりっと:こちらをご覧下さい。
まうざりっとは一枚の画像を貼り付けた。
それはまるぐりっとのポストをスクショした画像であった。
まるぐりっと:【ご報告】今回、塩令嬢の書籍化とコミカライズ化がなくなったことを機会に今一度自分を見つめたいと思います。それと同時にこれまで書いていた異世界恋愛の作風を見直し、新しい自分の作風を構築したいと考えております。それでは暫く低浮上となります――ごきげんよう。
ほげえええっ!
なんと、まるぐりっとは長期休業に入ってしまった。
今日、実際ご本人様に会ったときにそんなことは言ってはなかった。
しかし、よくよく思い出すとまるぐりっとはこんなことを述べていた。
『ハロワよ、あなたが紹介してくれた『求職者支援訓練』を受けるの』
と――。
つまり、遠回しな作家業からの緩い引退宣言とも考えられる。
彼女は文筆業から距離を取ったのだ。
(今日は日曜日だからハロワは空いてないぞ!)
そんなツッコミを入れるが時すでに遅し。
まるぐりっとはH市のハロワへ、しかも
哀れなり鬼丸、社会常識が欠けまくっているが大丈夫かい?
まあ、それは一先ず置いておこう。
鬼丸が休業に入ったということで、何故『真異世界令嬢教』が立ち上がったのか。
その疑問に答えるように、新教祖からメッセージが送信される。
紅蓮まうざりっと:まるぐりっとはランキングと書籍化から逃げ出したんだ。そんな弱いヤツに異世界令嬢教は任せられない。
ギアドラゴン:よ、呼び捨てだと!? マウザ、お前は今まで『まるぐりっと様』と呼んでいたではないか!
紅蓮まうざりっと:その名で呼ぶな! ボクはマウザではない! 『まうざりっと』だ!
画面越しのテキスト文だが、マウザの怒りを感じる。
いや、今はマウザではない――。
真異世界令嬢教の教祖まうざりっとなのだ。
紅蓮まうざりっと:たかが、出版社が潰れたくらいで心が折れるなんて言語道断だ。あんな弱い作家だとは思わなかったよ。
ギアドラゴン:ご、言語道断って……。
紅蓮まうざりっと:知ってるかい、ギアドラゴンさん? あの宣言の後にまるぐりっとのヤツは『ストギルのアカウントごと消した』のさ。
ギアドラゴン:ア、アカウントごと消した!?
紅蓮まうざりっと:昨日、界隈では大騒ぎだったんだよ? 電脳小説大賞の一次に三作品も突破し、大賞候補の最有力だったのにさ――。
以降、長々とまるぐりっとを批判する長文を書き込まれたが、龍の目には入らなかった。
鬼丸はストギルのアカウントごと消し去ったというのだ。
それはこれまで築き上げたWebの地位や名誉、また異世界令嬢教の教祖を捨て去ることに等しい行為だった。
故に何のアナウンスもない状況で『異世界令嬢教の解散』を唐突に出されたと同じ意味を持つ。
紅蓮まうざりっと:彼女のアカウントが消滅したことでボク達はパニックになった。彼女の異世界恋愛を
続いて、グラトニーズの二人もまるぐりっとを批判する。
カーミラのエビ餃子:『異世界恋愛が書籍化の近道』と言ってたもん! もっと読者に受ける秘訣を持っていたはずなのに! 教えないまま消えるだなんて許せない!
サクリンころも:何冊も自分だけ本を出しやがって……。私だって多くの作品を世に出したい……。私の夢は作品がアニメ化して声優の神島さんに会うことなんだ……。
「な、なんだこいつら……」(てか、声優の神島って誰だよ)
龍は思った。
何てこいつらは、自分勝手で自分の軸がないんだろうと――。
創作者の一人として、パニックになる
彼ら彼女らは異世界恋愛が好きだから、その象徴たるまるぐりっとを応援していたのではないのか?
いなくなった途端に、応援していたまるぐりっとを批判する意味がわからない……。
それに、何だかまうざりっと達の言葉から『書籍化したいから異世界恋愛を書いてました』とも聞きとれる。
創作者としてのプライドはないのか、龍はそう強く思ったのである。
紅蓮まうざりっと:そこで、ボクは『真異世界令嬢教』を立ち上げた。まるぐりっとがいなくなった今、誰かがその『教え』を守り続けなければならないと思ったからね。
まうざりっとと化したマウザ。
異世界令嬢教の拠り所を守るために新派閥を立ち上げたというのだ。
しかし、しかしである――。
ギアドラゴン:出来るのか。お前は商業作家じゃないんだぞ。
そう、マウザ時代の彼は龍と同じくワナビである。
一冊も書籍化したこともないし、ランキング入りしたこともない『路傍の石』なのだ。
紅蓮まうざりっと:アハハハハハッ!
秒速で返ってきたのは『笑い』の文字列。
グラトニーズの二人は小馬鹿にするようなメッセージを送る。
カーミラのエビ餃子:情報弱者って、あんたのためにある言葉ね。おバカさん。
サクリンころも:まうざりっと様をあんたと一緒にすンじゃないわよ!
ギアドラゴン:ど、どういう意味だ!
その龍の言葉に、まうざりっとから驚愕のメッセージが返される。
紅蓮まうざりっと:ボクは『書籍化作家』になるんですよ。
ギアドラゴン:え?
紅蓮まうざりっと:もう一度言いますよ? ボクは『書籍化作家』になるんですよ。しかも、公開してから『たった三日でランキング入りと書籍化』という偉業を引っ提げてね。
ギアドラゴン:ウ、ウソやろ!
それはまさしく!
――大驚失色!
――疾風怒濤!
――天変地異!
ワナビだったマウザが書籍化作家様になるというのだ!
更に驚くべきことは『新作公開してからたった三日』でのランキング入りと書籍化!
どういう魔法を使ったのだろうか?
その秘訣を真異世界令嬢教の教祖! まうざりっとは答える!
紅蓮まうざりっと:全ては神である黒鳥響士郎様のお導きによるものさッ!
そう、このレイブンクラブの主催者である黒鳥響士郎。
彼が
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