第三十八筆 闇のサロンにヤツがいた!

 黒鳥により設立された『レイヴンクラブ』。

 集まる者達は全て、何らかの形で黒鳥と接触して入会した者達である。

 まだ書籍化に至っていないワナビは勿論のこと、これからストギル小説を始める者、書籍化を達成したプロと様々。

 メンバーはのべ五十人以上と大所帯だ。

 レイヴンクラブ内ではスレッドが立てられ、創作のことがテキストチャットで語られている。


 ※スレッド:掲示板などのメッセージを話題ごとにまとめたもの。


 挨拶文には黒鳥より、このようなメッセージが書かれていた。


 <黒鳥響士郎>


 レイヴンクラブへようこそ!

 私はこのサーバーの管理者、黒鳥響士郎です。

 と……皆さんは既に私のことは知っていますよね。(笑)

 書籍化やコミカライズ、アニメ化もガンガンしていますから。(笑)


 オホン……。

 さて、ここは書籍化を目指すサロンです。

 まだ書籍化に至っていないWeb小説家の皆さん、そして既にその夢を叶えた書籍化作家の方々が集まり、交流し、情報を共有するために立ち上げました。


 そして、レイヴンクラブはこの黒鳥はもちろんのこと、私の弟子やその弟子が認めたものしか入会出来ない『会員制』となっています。

 故にこのサロンに於いては『プロもワナビも関係ありません』。

 皆様は云わば導かれし創作者、黒鳥の可愛い子供達です。


 執筆の技術やストーリー構築のコツ、マーケティングや出版業界の裏側まで、幅広い話題でお互いに積極的な答弁をしていきましょう。

 成功者からのアドバイスを得たり、自分の経験を共有したりすることで、より良い作品作りを目指していくわけです。

 

 出版への道のりは決して簡単ではありません。

 が、このコミュニティが少しでも皆さんの力になれることを黒鳥は願っています。


 皆さんの作品が世に出る瞬間を楽しみにしています!

 一緒に夢を追いかけ、実現させていきましょうね!


「のっけから拗らせているな」


 龍は挨拶文から醸し出される黒鳥の性格を看破した。

 冒頭の四行目で、書籍化などを遠回しに自慢する文が書かれていたからだ。

 鬼丸に誘われ、そのままレイヴンクラブに入会した龍。

 如何にラノベ業界に実績があろうと、黒鳥響士郎から漏れ出るマウント気質に鼻持ちならない気分となる。

 この怪しげなサロン即効で退会したい気分であるが――。


『登らなければ、やってみなければわからない境地もあるでしょう』


 再び鬼丸の言葉が脳内でエコーする。

 やまびこだ、やまびこのように鬼丸の言葉が脳味噌に木霊する。

 書籍化へのロードを突き進むならば、好き嫌いで人を判断してはならない。


「やってみよう、いってみよう」


 ここで作者が好きな野球ネタを唐突にぶち込みたいと思う。

 某ライオン球団のHという名将がいた。

 就任当初は選手から嫌われていたという。

 しかし、その手腕に選手達も納得し、指示に従うと遂には優勝して黄金時代を築き上げた。


 然らば、我流が強い龍も他者からの意見を参考にしながら実力をつけていかなければならない。

 いつまでも、好き勝手にやってはいけないと心の内で思っていた。

 そのため、この自己啓発セミナーのようなサロン『レイヴンクラブ』へと突入したのだ。


「どんな話をしているのかな」


 龍はとりあえず、レイヴンクラブ内でどんな会話がされているのか見ることにした。

 多くあるスレッドにあるもので、龍が目をつけたのは『読者を飽きさせない!新しい展開アイデア!』というものである。

 そこには見覚えのある名前があった。


 カーミラのエビ餃子:最近、異世界恋愛でよくある展開ばかりになってしまって……何か新しいアイデアを取り入れたいんだよね。


 サクリンころも:ひねりを加えると面白くなるよね。例えば主人公が異世界の住人じゃなくて、異世界に召喚された神様だったりするとか。


「こ、こいつら……ここにおったんか……」


 カーミラのエビ餃子とサクリンころも。

 龍が以前、鬼丸ことまるぐりっととケンカになった際に送り込まれた刺客『グラトニーズ』である。

 このお二人さんも、どうやらレイヴンクラブの会員になっているようだ。

 龍は何とも言えない気持ちになるが――。


「フェアリー・ドラゴン・タップ!」


 親指だけでスマホの画面をタップする。

 早速メッセージを打ち込むことにしたのだ。


 ギアドラゴン:はじめまして、ギアドラゴンです。


 挨拶するのは社会人の常識だ。

 嫌な二人がいるが、ここも好き嫌いで人を判断してはならない。

 リアルな職場だって、イヤな上司やお客に感情を殺して挨拶しなくてはならないからだ。

 さて、はじめましての挨拶をする龍。

 すると、グラトニーズからメッセージが返ってきた。


 カーミラのエビ餃子:あ、あんたが何でここに!


 サクリンころも:アンチストギル梁山泊のお前がいるんだよ!


 カーミラのエビ餃子:だいたいスレ違いよ。挨拶は『自己紹介』のところでしなさいよアホ。


 サクリンころも:そうよ! ここはアイデアをお互いに出して研鑽するスレなんだから! 出ていけ!


 罵詈雑言の嵐が秒速で返ってきた。

 SNSでの嫌味な言動がそのままこのサロンでも放たれていた。

 やっぱり、イヤなヤツはイヤなままだった。


 そらそうよ。

 彼女達 (女性かは不明だが)は龍へのクソ引用を起点に『アンチストギル梁山泊』が現れ、メンタルを傷つけられ鍵垢やブロックするまでに追い込まれていてしまった。

 従って、龍は全くアンチストギル梁山泊とは関係ないのだが、この二人の脳内では『アンチストギルの人』に認定されてしまっていた。

 全く人の思い込みは恐ろしいものである。


「ク、クソったれーっ!」


 眉間に皺を寄せ、額から怒りの汗を流す龍。

 普通に挨拶したのに、何故ここまでボロカスに言われなきゃならんのだ。

 龍はグラトニーズの思い込みには全く気付かず「この非常識人どもめ!」とキレちまった。


「殴られたら殴り返せだよキミィ! 目には目、歯には歯じゃい!」


 不動明王のような顔を作り出す龍。

 これより、グラトニーズへ「だまらっしゃい打ち切り作家が!」の暴言メッセージを打ち込もうとするが……。


 ――お止めなさい。


 お止めなさい。

 龍の眼にメッセージが飛び込んできた。

 グラトニーズを注意する何者かのメッセージだ。


「お、お前はーっ!?」


 そのメッセージは懐かしき強筆敵ともからのものだった。


 紅蓮まうざりっと:グラトニーズ、ここは書籍化を目指すものが集う聖地。無駄な争いはおよしなさい。


 それは龍と共にWeb小説界で切磋琢磨した――。


「マ、マウザじゃなくなってる!?」


 紅蓮マウザから改め『紅蓮まうざりっと』であった。

 どういうことか名前も変わり、アイコンもブラックライオンの雄度の高いものから百八十度変わっていた。


「し、しかも……イケメンのアイコン!」


 なんと、ストギル漫画によくいそうな黒髪イケメン主人公のアイコンになっている。

 どこかの漫画から無断借用したのだろうか。


 カーミラのエビ餃子:ま、まうざりっと様!


 サクリンころも:私達は別に……。


「ど、どういうことだ!?」


 書籍化経験ありのグラトニーズがマウザ、否まうぐりっとにへりくだっている。

 龍と同じワナビであったはずのWeb小説家に頭が上がらない感じだ。

 一体全体どういうことであろうか。


 紅蓮まうざりっと:久しぶりだね、ギアドラゴンさん。


 ギアドラゴン:マ、マウザなのか?


 紅蓮まうざりっと:ふん……聞くのもイヤなくらいの黒歴史ネームだね。


 ギアドラゴン:く、黒歴史ネームってお前……。


 紅蓮まうざりっと:僕は『負け犬ワナビのマウザ』じゃない。


 ギアドラゴン:マウザじゃない?


 紅蓮まうざりっと:ボクは『真異世界令嬢教』の教祖! 紅蓮まうざりっとさッ!


「な、なんだってーっ!?」


 龍は休日で人通りの多い道で雄々しく叫ぶ。


「な、なにあの人?」

「あんまり見ちゃダメよ……」


 通行人の若い女性二人組は龍から遠ざかる。

 完全に『ヤバい人』扱いであるが、そんなことはどうでもいい。(よくないけど)


「真異世界令嬢教ってなんだよ!」


 それよりも『真異世界令嬢教』というワードだ。

 異世界令嬢教に『真』の文字がついている。

 それに、その教祖が『まうざりっと』と改名したマウザがなっている。

 このレイヴンクラブ、曲者しかいない闇のサロン――。

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