第四十一筆 渇望のダークパルス!

 サプライズの連続であった。

 このストギル作家が集うレイヴンクラブに、あのアンチストギル梁山泊の一人である色帯寸止めがいたのだ。


「何故、色帯寸止め先生がここに……」


 ここで改めて色帯寸止め先生をご紹介しよう。

 色帯寸止め、その昔「ダンジョンオデッセイ」というRPGのゲームノベライズを出版した歴戦のラノベ小説家である。

 その他、ゲームノベライズ及びコミックノベライズの作品を多数出版している二次創作のスペシャリスト。

 また、龍は元々『マスターカラテ迅』の二次創作を小説投稿サイト『セレナーデ』で公開していた。

 そのランキング内で常にいたのが色帯寸止めであり、龍にとって尊敬すべき物書きの一人であった。


 ギアドラゴン:あなたが何故ここに?


 色帯寸止め:いけませんか。


 ギアドラゴン:先生はストギルを批判するリプをよくしていませんでしたか。


 実は龍、グラトニーズに襲撃されたのを切っ掛けに色帯寸止めと相互になっていた。

 従って、この色帯寸止めが昨今のストギルを暗に批判していたことをよく知っている。

 何故なら、タイムラインで厄介なWeb小説家に『エアリプ』を飛ばしていたのがよく流れていたからだ。

 ちなみに豆知識の一つとして、エアリプのことを読者諸君に説明したいと思う。


 DXでは「@ユーザー名」で返信することをリプライと呼ぶが、エアリプは意見を述べたいアカウントへ「@」をつけずにリプを飛ばす自分の意見を間接的に述べる寸止めリプのことである。

 即ち、相手には特定されないが『わかる人にはわかってしまう』空砲。

 当てないリプは相手へのダメージがないかもしれない。


 ――だがそれは違う。


 このエアリプの恐ろしさは、自然と『理解わかってしまった賛同者』を集めることが出来てしまう点だ。

 エアリプ内で行われるやり取りは皆が空気を読み、批判したい対象者を全員で『ぼかしながらフルボッコ』することを可能としている。

 批判された対象者は『自分のことか、そうでないか』というジレンマに襲われ悩ませる。

 例えリプでレスバを吹っ掛けたところで「被害妄想ですか?」の一言で済まされ、それを見た『空気を読んだ賛同者達』にたちまちクソリプを飛ばされるフルコンタクトが待ち構えている攻防一体の技だ。


 なお、このエアリプは『当てないダメージを相手に負わせることが出来る』が同時に高等技術が求められる。

 相手に悟られず、かつ周りのフォロワー達が気付くかどうかの微妙な匙加減が必要だからだ。

 下手をすると自分がストギル作家や愛好家達により炎上する危険性を伴っている。


 しかし、色帯寸止めはその高等技術を巧く使いこなした。

 時には、有名ストギル作家の心を折る伝説を残しているほどだ。

 エアリプの達人、それが二次創作作家の色帯寸止めという男なのである。


 色帯寸止め:確かに私はアンチストギルとして、うまむすこくん達と暴れていました。しかしね、そんなことをして何になるというんですか? むやみやたらに相手を傷つけるだけで生産性がない虚しい行為ですよ。


 ギアドラゴン:そ、それはそうかもしれませんが……。


 確かに色帯寸止めのいうことは最もなことである。

 ストギル批判により始まる終わりのないバトルは何も生み出さないのも事実。

 しかし、何故だか龍の中でモヤモヤが残る。何だかおかしくないかという違和感だ。

 そんな龍がモヤってる間に、まうざりっとは驚くべきことを伝える。


 紅蓮まうざりっと:ふふっ……ギアドラゴンさん。今度、先生は『ストギル小説』を書くのを知っていますか。


 ギアドラゴン:い、色帯寸止め先生が!?


 何と色帯寸止めがストギル小説を執筆するというのだ。

 まうざりっとの右腕と左腕あるグラトニーズはより詳細な情報を龍に伝える。


 カーミラのエビ餃子:色帯寸止め先生は今度、新しく出来る小説投稿サイト『ガウロンセン』でストギル小説を公開するのよ!


 サクリンころも:しかも『専属契約』としてね!


 ギアドラゴン:ガ、ガウロンセン? 専属契約?


 龍は『ガウロンセン』という小説投稿サイトを初めて聞いた。

 全く聞いたこともない名前である。

 そんな情報弱者の龍にグラトニーズはご丁寧にも細かい説明をしてくれた。


 カーミラのエビ餃子:ガウロンセン、外資をバックに立ち上げられた小説投稿サイト。先月オープンしたばかりよ。


 サクリンころも:PV数に応じてインセンティブが貰えるの! つまり『読まれるだけでお金が貰える』超優良サイトってわけ!


 カーミラのエビ餃子:先生はガウロンセン編集から専属契約作家として誘われたの。


 サクリンころも:しかも、編集からのDMで依頼。流石は業界で活躍しただけあるわよね。


 グラトニーズの羨むメッセージを見て、龍は首を捻った。

 この二人は以前、アンチストギル梁山泊に燃やされたことがあった。(元々は龍のポストのせいだが)

 特にキレのいいエアリプを飛ばす色帯寸止めに、その繊細な心が傷つけられたはずだ。


 ギアドラゴン:お前ら、エラくフレンドリーだけど……先生に恨みがあるんじゃなかった?


 カーミラのエビ餃子:恨み? 何を言ってるの。


 サクリンころも:あんたの言ってる意味がわかんない。


 ギアドラゴン:え? お前ら打ち切り作家に向けて、先生がエアリプを飛ばしてただろ。


 打ち切り作家というタブー。

 天然な相手の傷口に塩を塗り込むような龍の言葉。

 すかさず、色帯寸止めは戒めのメッセージが飛んできた。


 色帯寸止め:ギアドラゴンくん、失言と変な勘繰りは止めてもらおうか。


 ギアドラゴン:い、色帯寸止め先生!


 色帯寸止め:あれは彼女達ではありません。別の作家さんへ向けてのものですよ。


 何と別の作家に向けてのものだという。

 おかしい、あの時のエアリプは確実にグラトニーズに向けてのものであった。

 それが色帯寸止め本人曰く「違う」というのだ。


 カーミラのエビ餃子:ああ、あんたのせいでアンチストギル梁山泊に見つかったときのことね。


 サクリンころも:最初、あのポストは私達のことじゃないかなと思ってたけど……。


 カーミラのエビ餃子:このレイヴンクラブで先生とお話してわかった。


 サクリンころも:あのエアリプは「私達に向けてのものじゃない」とね!


(こ、こいつら単純すぎないか?)


 龍は思った「このグラトニーズ、何とチョロいことか」と。

 どう考えても、色帯寸止めの名人芸レベルのエアリプは二人に向けてのものだ。

 それが飛ばした本人が違うといえば、それが正しいと思い込んでいる。

 いや、思いこまされているのが正解かもしれない。

 それほどまでに巧妙、また直接的な名指しを避けるエアリプの恐ろしさなのである。


 色帯寸止め:さて、余談が過ぎましたね。 まうざりっとくん――。


 紅蓮まうざりっと:ええ、そろそろ本題に入りましょうか。


 ギアドラゴン:本題?


 紅蓮まうざりっと:先生が言ってたでしょう。今日の夜八時半にサイバーラウンジがあると。


 サイバーラウンジ、それはDXにある機能の一つである。

 これはユーザー同士がリアルタイムで音声による会話を可能とするもの。

 また、その会話をリスナーとして聞くことが出来る。


 紅蓮まうざりっと:ボクと先生、そして黒鳥様の三人で『テーマを設けてのお話』があるのさ。


 色帯寸止め:黒鳥様に導かれ、見事に成功と復活を遂げた我々が黒鳥先生と色々とね。


 何と黒鳥、まうざりっと、色帯寸止めのお三方が語り合うという。

 テーマは一体何だろうか?

 それについては、グラトニーズによりご説明があるぞ!


 カーミラのエビ餃子:テーマは『書籍化するためのコツ』!


 サクリンころも:現代ラノベ界の神であらせられる黒鳥様!


 カーミラのエビ餃子:そして『三日で書籍化を決めた』まうざりっと様と『二次創作のスペシャリスト』色帯寸止め先生が!


 サクリンころも:ランキング攻略や読者に受けるための創作論を語り合うの!


 カーミラのエビ餃子:いつ聞くの? 今でしょ!


 サクリンころも:この機会を逃したら一生後悔する!


「こ、こいつらハイになってやがる! アドレナリン出まくってるだろ!」


 龍はグラトニーズのハイテンションにドン引きした。

 こいつらは一度受賞や拾い上げで書籍化を達成したというのに、それでもなお渇望していた。


「うっ……なんだこの声は……」


 その時である。

 どこからともなく龍の脳内に女らしき声が聞こえた。

 それも女二人、つまりグラトニーズの声だ。


 ここで終わってなるものか!

 書籍化だ、書籍化をまたするんだ!

 打ち切られたのなら新作を再び書籍化させちゃる!

 ビッグに売れて自分と作品を世に轟かせてやる!

 そのためなら、悪魔に魂を売ろうが、ケツを嘗めようが、身も心も売り渡してやらァ!

 私達は彼らから書籍化するためのノウハウを吸収して!

 何冊も本屋の棚に自作を並ばせてやるゥ!


「こ、これはカーミラとサクリンの声なのか!?」


 そんな気迫と執念!

 否、怨念がッ! 魂の絶叫がッ!

 スマホ画面を貫き!


 ――ビリビリビリビリビリィ!


 擬音として! 龍の全身に『ダークパルス』が流れ込んできた!


「う、うわあああああっ!」


 暗黒のパルスにより、龍は尺取虫のように身をよじらせた。

 街中でお前何やってんだ! 傍から見たら不審者だぞ!


「一人で何やってんの?」


 そんな龍に声をかける女神がいた。


「こ、古田島マネージャー?」


 その女神は古田島梓、龍が勤めるヤマネコ運輸の上司である。

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