第二十五筆 教祖様へのお布施!
龍は『男一匹ウルフ大将』の
次なるはライオン令嬢の執筆と完結、目指すべきは『書籍化』という大いなる夢。
だが、龍はやるべきことがある。
それは『お仕事』なんだ。
アマのワナビが『銭にならないWeb小説』で生活するのは難しい。
これが親の保護下の元で暮らしていたのならば別だが、龍は自炊して暮らしている。
書籍化作家を目指しているとはいえ、ほぼ趣味の延長線にいる龍。
今日も、馬車馬のように働いていた。ピシッピシッ!(鞭で叩く音)
「むぅ……ぬうううっ!」
我らが龍、両手で樽のように段ボールを抱えるその姿。
配送員として、とあるマンションの前に立っていた。
マンション『アナスタシア』。
読者諸君は覚えているだろうか。
ここで龍は身の毛もよだつ体験をしている。
〇-△-504号 鬼丸まりあ――。
あのボイトレをして欲しい声を出す『つらら女の部屋』である。
「てか……『まりあ』って名前だったんだ」
龍はその一風変わった苗字だけに注目していたので、下の名前は見ていなかった。
故に『まりあ』というプリティな名前に驚きを覚えた。
「つらら女に相応しくない名前だぜ」
おい龍、SNSなら炎上確実の失言だぞ。
「最後の最後でここか……」
辺りは日も暮れて、家に帰宅するパートらしいおばちゃんやご高齢の紳士やご婦人の姿が見える。
龍は平行立ちとなり、キュッと両腿を内側へと入れる。
これは空手で言うところの『三戦立ち』。
これから昇るべき
「ドラゴン・エクスキューショナー・ダッシュ!」
階段を龍はダッシュで駆け上がった。
エレベーターがあるのに何故使用しないのだろうか?
それには理由がある。
「今日のお夕飯は何にしようかしら?」
「ほっほっほっ……じいさんとHOTな夜を過ごすぞい!」
二台のエレベーターに『太ったおばちゃん』と『シルバーカーを押すマダム』が乗ったからだ。
龍の手に持つ段ボール箱は結構大きめのサイズだ。
狭いエレベーターに入ってはレディ達の邪魔になる、そう考えたのだ。
「ウラララララッ!」
五階まで全力で駆け上がる龍。
アパッチな雄叫びが階段に響き渡る。
「ズラララララッ!」
征け龍! このスーパマンなロードを駆け上がり! 仕事を完了させるのだ!
「ゼエゼエ……」
肩で息をする龍は階段を昇りきった。
酸欠気味であるがやり遂げた。
なお、後でマンションの住人からクレームが入ったのだがそれは割愛する。
「あ、後はつらら女の部屋に行くだけか……」
龍に緊張が走った。
これから『鬼丸まりあ』が住む部屋に行くのだ。
心臓がバクバクと鼓動が高鳴る。
RPGの勇者もきっとこんな感じでラスボスと対峙したんだろうな、と龍は無駄な想像をする。
「これを終わらせたら……感動のエンディングだ」
そして、いよいよラスボスが持つ部屋の前に立った龍。
「ひ、秘伝……龍骨……!」
と自信なさげにインターホンを鳴らす。
ピンポンと音は鳴るが――。
(へ、返事がない……ただの屍のようだ)
勝手に殺すな!
もう一度、インターホンを鳴らしてみな?
「うう……」
苦悩する龍、このままご不在連絡票をポストにぶち込んで逃げ出したい。
逃げるな、逃げちゃいけない。
君は魔王を倒す勇気ある者! 勇者なんだ!
「そ、そうだ……俺はWeb小説家の前に社会人なのだ!」
意を決した龍は乾坤一擲の一撃を押す!
「ドラゴン・ブレイバー・ショット!」
覚醒した配送員の一撃だ。
ピピピピンポーンと連続した音が部屋の中から聞こえてくる。
これならば、あのつらら女も気づいて出てくるだろう。
(どうじゃい!)
ドヤ顔、ドヤ顔だ!
龍の勇気あるインターホン押し四連撃が決まった。
だが――。
「あぅ……あああ……ぁぁぁ……ああっ……」
中からうめき声が聞こえてくる。
「ふんむっ!」
龍は額から冷たい汗が流れる。
覚醒したインターホン押し『ドラゴン・ブレイバー・ショット』を喰らったはずだ。
それなのに鬼丸はドアを開けず、中からうめき声をあげる。
これはうるさいインターホンを押した龍への報復なのだろうか。
「だ、誰……ううう……あああ……ぁ……ぁ……」
「ヤ、ヤマネコ運輸の宅急便です!」
「ド、ド……ア……あ……け……」
蚊の鳴くような声がインターホンから微かに聞こえる。
その声はまるでゾンビのようだった。
「あ、あの声が聞き取りずらくて――」
「ドアを開けて入れ!」
「ひっ!」
割れた大きな声が龍の耳に鳴り響いた。
鬼丸はドアを開けて入れというのだ。
「ど、どうする龍!」
龍は悩みに悩んだ。
下手に部屋に入って襲われたら……いや、訴えられたらどうしよう。
何しろ第三者がいない状況だ。
鬼丸が「このクソ野郎が私の部屋に勝手に入った!」とウソをついて訴えるかもしれない。
取り越し苦労に想像を傾ける龍、目を瞑り一休さんのように考えると――。
ドサッ!
擬音が聞こえた。
ポクポクチーンと頓知を働かせる前に部屋から大きな音がしたのだ。
「ま、まさか!」
人が倒れているかもしれない。
あのインターホン越しから聞こえたうめき声は、鬼丸に襲われている人間の声だ。
そんなわけねーだろ、とツッコミたいが想像力豊かな龍は急いで部屋に入った。
「大丈夫ですか!」(鬼丸に襲われている人に対して)
と龍が部屋に入った瞬間だった。
「うわあああああっ!」
龍は悲鳴を上げる。
何と目の前に『不気味な女』が倒れていたのだ。
うつ伏せに倒れ、長い黒髪が顔を全体を覆っている。
まさにホラーだ。
「ハ……ン…………」
「ハ、ハン?」
「コォ……ォォ……ォ……!」
「ハン……コーホー?」
「ハンコッ!」
「ひゃっ!」
女の右手にはちっさいハンコが握られていた。
それは荷物を受け取る意志の証明である。
「こ、こちらに!」
龍は震えながら領収書を床に置いた。
「……ッ!」
女は四つ這いでカサカサ進むと、
ドンッ!
とハンコを無造作に叩きつける。
そこには『鬼丸』の印鑑が押されていた。
そう、この女が『鬼丸まりあ』である。
(お、鬼丸!)
龍は余りにもの恐ろしさで半泣きだ。
気持ちはホラーゲームのサバイバーの気持ちだろう。
「あ、ありがとうございました!」
マニュアル通りのお礼を述べ、龍は急いで脱出しようとするが――。
「待てッ!」
鬼丸は龍を止める。
その声は薄く鋭く龍の鼓膜を貫いた。
「……開けろ」
「え?」
「開けろと言ってるんだよ!」
開けろと鬼丸は命令する。
だけども、そんなことを配送員が出来るはずもない。
「じ、自分で開けて下さい……」
龍は唇を震わせながら伝えるも、
「体調が悪いんだ……開ける力がない……」
と鬼丸は述べる。
「これで開けろ!」
その手にはカッターナイフが握られていた。
これで荷物を開けろというのだ。
「うんぐっ!」
深く息を飲む龍は生きた心地がしない。
逆らったら呪い殺されるのではないかと思い首を縦に振る。
そして、鬼丸からカッターナイフをそっと受け取るとH張りされた箱を開封した。
「え、栄養ドリンク?」
箱の中には栄養ドリンクが何本か入っていた。
そこにはメッセージカードもあり文字が書かれている。
『紅蓮マウザです! まるぐりっと様バンザイ!』
(ま、まさか!)
龍は確信した。
この『鬼丸まりあ』が『まるぐりっと』であることに――。
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