第十三筆 だからお前はワナビなのだ!
まるぐりっとからのフォロー、変わり果てたマウザ、異世界令嬢教の教義。
今日はなんとタルタルソースの如き濃厚で、ハバネロのように刺激的な日なのだろうか。
龍は苦虫を嚙み潰したような顔となる。
「エリオスが……女体化しとる! エミリアになっとる!」
令嬢小説と化した『暁の戦士団』への嘆きだ。
どうしてこうなった。マウザ、君はどうして令嬢に魂を売ったのか。
それは偏に『書籍化』のためである。
流行に乗ったり、人気作の型を真似れば自作が書籍化しやすいという。
そうでなくとも、Web読者からのブクマや評価、感想が貰いやすいリアルがあった。
紅蓮マウザ@真面目令嬢小説家:ギアドラゴンさん! これを見て、見て、見て! ブクマが一気に増えましたァ! 総合評価ポイントが「500」越えましたアアアッ! ウホッウホッウホッ!
マウザからスクショが送られてきた。
自作のブクマ登録数、評価ポイント数、総合評価数の数値だ。
改変前と比べると圧倒的に数値が増えていたのだ。
それはまるでドーピングをしたかのような確かな効果があった。
紅蓮マウザ@真面目令嬢小説家:何で僕は今まで『ド地味なファンタジー』を書いてたんだろう! こいつぁグレートですよ! ギアドラゴンさんも早く異世界恋愛書いて! 目覚めて下さいねエエエん!
龍は「お、おう」と微妙な相槌を打つのみ。
自分の作品が誰かから評価されれば嬉しいものだ。
確かに数値上は圧倒的に改変後ではある。
しかし、それと同時にマウザから持ち味、良さが消えたような気もしないでもない。
「ぬぅ!」
マウザのハイなメッセージの次はあいつだ。
まるぐりっとからメッセージが送信されてきた。
まるぐりっと@「塩対応令嬢」書籍化とコミカライズ決定!:マウザからメッセージは届いた?
ギアドラゴン:なんてことをしてくれたんだ! マウザを返せ! 暁の戦士団を返せ!
まるぐりっと@「塩対応令嬢」書籍化とコミカライズ決定!:何か問題でも?
ギアドラゴン:ど、どういう意味だ。
まるぐりっと@「塩対応令嬢」書籍化とコミカライズ決定!:マウザからスクショが送られてきたでしょう。暁の戦士団は令嬢ものにすることで『ポイントが急上昇』したのよ。
ギアドラゴン:し、しかし……あれでは……。
まるぐりっと@「塩対応令嬢」書籍化とコミカライズ決定!:次にあんたは『創作ではない』と言う。
ギアドラゴン:創作ではない!
龍は「ハッ!」と口元を押さえる。
異世界恋愛教の教祖、まるぐりっとに龍の心が読まれていたのだ。
まるぐりっと@「塩対応令嬢」書籍化とコミカライズ決定!:ワナビっていつもそうなのよね、現実を見ないで好きなものだけ書いちゃってさ。だから、ランキング上位に食い込めなかったり、公募に作品出しても選考で弾かれちゃう。書籍化出来ないのも当たり前のお話よね。それなのに公募で落ちるとピーピー騒ぐから笑っちゃう。中には、同じ作品を色んな公募にグルグル回すアホもいて爆笑する。
ギアドラゴン:な、なんだと! みんな必死にやってるんだぞ!
まるぐりっと@「塩対応令嬢」書籍化とコミカライズ決定!:聞きなさい。出版社は『銭になる商品』だけしか出したくないの。商業作家は常に流行を読んで、マーケティングに沿って『作品を書き上げる』の。それが『プロの世界』なんだ。
まるぐりっとからの厳しい意見。
事実、出版社も営利団体なのだ。表現したいものを表現する芸術とは相反する部分がある。
売れる商品を出してお金を稼がねば、会社を維持できないし、従業員を養ってはいけない。
それは理解しつつも、龍はまるぐりっとの意見に納得できなかった。
ギアドラゴン:で、でも……作品は面白かったら……。
まるぐりっと@「塩対応令嬢」書籍化とコミカライズ決定!:あー、それもワナビがよくほざく言葉ね。その『面白い』ってのも、あんたらの脳内だけの話よね? 読者はテンプレや流行ジャンル以外、面白いと思っていないから。
ギアドラゴン:そ、そんな! バナナ!
龍は「バカな」を誤って「バナナ」と表記して送信してしまった。
それほどまでに心を揺さぶられたのだ。
まるぐりっとの「Webの読者はテンプレや流行ジャンル以外、面白いとは思っていない」が信じられなかった。
面白い作品を書けば読者は理解してくれる、その信念で龍は作品を書き続けていたからだ。
まるぐりっと@「塩対応令嬢」書籍化とコミカライズ決定!:現実を見な。あんたの「男一匹ウルフ大将」の総合評価ポイントは?
龍は絶望した顔で事実を伝える。
ギアドラゴン:28。
まるぐりっと@「塩対応令嬢」書籍化とコミカライズ決定!:論外な数値ね。少しだけポイントが増えたようだけど。
あれから、ほんのりポイントは増えたようだが「28」は論外すぎるほど論外な数値。
ランキング外にある作品であり、ストギルに掲載される百万以上の作品の中で埋もれた存在になっていた。
例え面白くとも、作品が読まれなければ、目立たなければ意味がないのだ。
事実、ポイントを稼ぎ、ランキングを駆け上がらないと自作は他人の目に留まらない。
また、ポイント数が多くあれば一定数の購買層がいると出版社が判断し書籍化に繋がるかもしれない――。
悲しすぎるほど悲しい現実、それが市場経済の厳しさだ。
「俺は……俺の創作は……自己満足だったのかッ!」
龍は打ちのめされた。
まるぐりっと@「塩対応令嬢」書籍化とコミカライズ決定!:私があんたを救ってやる。
ギアドラゴン:え?
絶望した龍。
だが、まるぐりっとからメッセージが送信された。
龍を救ってやるというのだ。
まるぐりっと@「塩対応令嬢」書籍化とコミカライズ決定!:あんたは異世界恋愛を書くんだよ。
ギアドラゴン:お、俺が異世界恋愛を!
まるぐりっと@「塩対応令嬢」書籍化とコミカライズ決定!:私があんたの
どうする龍!
お前は恋愛ものが大の苦手なワナビスト!
ブクマのためか?
ポイントのためか?
ランキングのためか?
否! そんな小さいもののためではないッ!
それら全ては踏み台だッ!
全ては『書籍化』するために!
龍よ、お前は『選択の時』が迫られたッ!
Not even the points, I want the publication. 底辺脱出なるか。
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