第八筆 我が強筆敵!
夜、仕事を終えた龍は自宅で瞑想を行っていた。
胡坐をかき、両手は臍下に置いている。
「スゥ……ハァ……ッ!」
息をゆっくりと吸い、吐き、雑念を捨てるように努める。
これは龍が編み出した精神統一法『龍息禅』である。
空手の呼吸法と動画サイトで覚えたヨガ業者の座禅法を組み合わせて作った龍オリジナルの秘法。
有名な時代小説家が精神統一してから執筆作業に入ると聞き、己自身で作り出したそうだ。
全く、龍はいい歳こいて中二病に未だに患っているようだ。
「喝ッ!」
瞑想時間は5分。(短い)
されども濃密な5分間であった。
龍が創作活動を行う上で一つの答えが出たようだ。
「面倒だから、じゃがいもはこのままだッ!」
結局、龍は無修正にすることにした。
このじゃがいもは、男一匹ウルフ大将の世界に出るじゃがいも。
ややこしいがそう理解してくれ、細けぇこたぁいいんだよ。
龍は己を貫き、面倒くさい読者を無視することに決めた。
届いた感想及び通知されたリプや引用も全てスルーすることにした。
全くもって、龍のメンタルはオリハルコン級の硬度であることを読者諸君らに伝えておこう。
「しかし、鍵垢か」
そして、今日気づいたことがある。
宿敵まるぐりっとのアカウントが鍵垢となっていたのだ。
何が起きたのだろうと龍は思った。
己が原因だというのにまるでわかっていない。
自分が火元で、まるぐりっとが『アンチストギル勢』の集団ミツバチ戦法により炎上したことなど知る由もなかったのだ。
無自覚の『ざまあ』。
読者諸君は非常にスカッとしたことであろう。
「むっ!」
龍はもう一つ気付いた。
DM、即ちダイレクトメッセージにより、ギアドラゴンにメッセージが送信されたようだ。
「まさか……またエロ垢か!」
疑心暗鬼の龍、最近運営会社の社長が変わってからエロ垢、スパムからのフォローやDMが多くなった。
仕事しろ運営、ちゃんとしろ社長、それと最近バグが多いんだよ、と龍は思いながらメッセージを確認した。
「紅蓮マウザくんじゃあないかッ!」
それは灰色のネコアイコンからのメッセージ。
そして、
ネコアイコンの名は『紅蓮マウザ』というWeb小説家。
龍とは違い『とても真面目なファンタジー作品』を執筆している。
マウザとの出会いは昨年のこと。
ストギル内で開催された『第11回電脳小説大賞』のときである。
龍は自慢作『勇者、男泣き、男汗』が一次選考に落選したとき、このようなポストを投稿した。
ギアドラゴン:今回も一次選考に落ちてしまった。俺の『勇者、男泣き、男汗』――もっと精進せねばなるまい。一次選考を通過した皆様、本当におめでとうございます!
このポストにいいねがある程度ついたが、一つだけリプをつけてくれたアカウントがあった。
それがマウザであったのだ。
紅蓮マウザ@真面目幻想小説家:僕も落ちてしまいました。お互いに頑張りましょう。
端的なリプであったが龍は嬉しかった。
俺は一人ではない、共に書籍化を目指す
龍は早速フォロー、マウザもフォローバックし、それ以降互いのポストにリプし合う
「マウザくん、一体どうしたんだろう」
DMでメッセージを送るということは、表では言えない何かがあるということである。
龍は言いようのない不安な気持ちを持ちながらメッセージを読んだ。
紅蓮マウザ@真面目幻想小説家:ギアドラゴンさん、この間のじゃがいものの件は大変でしたね。
じゃがいものの件、まるぐりっとが引リプしたことによる炎上事件のことである。
しかし、当の本人はオリハルコン級のメンタルだったので全然気にしていなかった。
ギアドラゴン:そうなんだ! よくわからないけど何が大変だったんだ!?
紅蓮マウザ@真面目幻想小説家:あの後、じゃがいもを巡って論争が起きたんですよ。最後はただの罵詈雑言だけで終わりましたけど。
ギアドラゴン:なんと! では宿敵まるぐりっとが鍵垢になったのは……。
紅蓮マウザ@真面目幻想小説家:ご想像の通りです。じゃがいも論争にアンチストギル勢が加わって、まるぐりっと先生が攻撃されたんですよ。最後は互いの発言の揚げ足取りや誹謗中傷だらけになってました。
※アンチストギル勢:ストギルのテンプレ小説が大嫌いな野武士軍団のこと。いきなり、ストギル作家にクソリプを送りつけることを得意とする。
ギアドラゴン:精神をやられたか……。性格の悪い人だったけど、そこは気の毒だな。
紅蓮マウザ@真面目幻想小説家:優しいんですね。でも、鍵垢になったのはそれだけじゃないと思いますよ。
ギアドラゴン:というと?
紅蓮マウザ@真面目幻想小説家:DXのポストは出版社や担当の編集者もチェックしてますから。
マウザの言いたいことはこうであろう。
DX上での投稿ポストは何気に出版社や編集者がチェックしている。
だから、日常的に罵詈雑言をポストする問題児はブラックリストに入れられると言いたいのだろう。
過去、何らかの問題発言をした作家が受賞取り止めや、アニメ化が中止になる事件があった。
まるぐりっとは折角決まった書籍化やコミカライズの取り下げをされたくない。
そのために鍵垢にしたのだろうというマウザの推理だ。
ギアドラゴン:そうか、俺も気をつけるよ。
紅蓮マウザ@真面目幻想小説家:ですね、どこで誰が見てるかわかりませんし。
この後、数分間のやり取りが続いた。
お互いに目指すべき創作の境地、今日の晩御飯のメニューなどなど。
とりとめのないもない話であるが、孤独に自炊する龍にとって楽しい時間であった。
紅蓮マウザ@真面目幻想小説家:そうそう、ギアドラゴンさん。明日はアレですね。
ギアドラゴン:おーん?
紅蓮マウザ@真面目幻想小説家:やだなぁ、明日は電脳小説大賞の一次選考の結果発表ですよ。
ギアドラゴン:な、なんとッ!
マウザが教えてくれた。
明日は『第12回電脳小説大賞』の一次選考の結果発表である。
龍が参戦する作品はもちろん『男一匹ウルフ大将』だ。
さて、その結果は――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます